配達先の幼女が癒し系過ぎる
青野 瀬樹斗
配達先の幼女が癒し系過ぎる
──死ねる。
今現在の俺──
今年で27歳になり、いよいよアラサーが見えて来たなと密かに自虐する。
高校卒業後、大学に進学することなく就職を機に心機一転、故郷から離れた土地で一人暮らしをしようと決めたまでは良かったものの、今ではもっと違う会社に就職すればよかったと絶賛後悔する日々だ。
「なんでよりによって運送会社にしちゃったかなぁ……」
様々な理由から配送を依頼された商品を段ボールに収納して、指定された住所まで運ぶだけの簡単な仕事……その認識から既に間違っていた。
運転免許と大型免許取得の補助もされるっていうから、めっちゃいいじゃんと思ったのも悪かった。
大型免許取得まではひたすら事務業で、荷物の配送先からスケジュールの調整などの基本はもちろん、いざ免許取得してからも配送のために、市内をひたすら四方八方に駆けずり回る日々……。
車中泊は日常茶飯事で、自宅には三日に一度帰られればマシなレベル。
そんな苦労の末に得られる給料も決して高いとは言い難い金額だ。
ブラック企業じゃねえかって?
運送会社ならこんなもんだよ(幾分偏見が含まれています)。
さらに先日、新人の頃から世話になってた先輩が腰痛を理由に退職することになった。
寂しくなるのと人員的な理由で非常に残念だが、痛めた体に鞭打って余計に壊されるよりはマシだし、結婚もしてるので家族のことも思えば、無理に引き止めて辞めないでくれとは言えない。
ともかく、そうなれば抜けた穴を埋める人材が来る……なんてこともなく、来たのはありがたくないしわ寄せだった。
配達員全員が、その先輩が担当していた区域を分担することになり、一人当たりの担当区域が大きくなった。
──くそったれ。
最初にその話を聞いた時は、そう心の中で毒づいた。
給料は増えないクセに、仕事の量だけが増えやがった。
いっそ俺も辞めてやろうかと言ったら、他の同僚や後輩達の顔に死相が浮かんだので、今日までずるずると続けて来た。
が、いい加減限界である。
もうこれ、実家で農業の手伝いする方が万倍マシじゃないかと本気で考えている内に、次の配達先に着いた。
「ええっと、マンション『エブリースマイル』の一階にある、184号室か……」
これはありがたい。
マンションと分かって上の階に上らなきゃいけないのかと憂鬱になっていたが、一階なら比較的マシだという事実が少しだけ心を軽くしてくれた。
四月の風がふわりと心地良く吹く感慨に耽る間もなく、トラックの荷台にある荷物を取り出す。
「……そういえば、このマンションって先輩が言ってたところだよな」
ふと思い出す。
退職する先輩の送別会で、俺がこのマンションのある区域を担当することになったと言った時のことだ。
『お、あのマンションのある区域を早川が担当するのか』
『え、なんかあるんすか?』
『おうよ。まぁ、行ってみたらわかるさ』
『えぇー……』
妙に勿体ぶる先輩から詳細を聞くことが出来ないまま、来ることになってしまった。
一見、都会ならどこにでもあるような全十一階建てのマンション……玄関のセキュリティなどは万全だと聞いている。
一体何があるっていうんだ。
そんな疑問を抱きつつ、目的の184号室へと荷物を抱えて向かう。
このお宅は毎週水曜日に、野菜や肉などの食材を詰め合わせた〝食材宅配サービス〟を利用しているため、俺がこの区域を担当する限り、1週間毎にこうして配達に来なければならないことになる。
正直、面倒くさい……だが、ここで気になるのが先輩の意味深な言葉だ。
そこで俺なりに予想していたた結果……多分184号室にはもの凄い美女か美少女がいるのではないだろうか?
──ズルい。
結婚して子供までいるという順風満帆な家庭を築き上げているのに、そんな人物とまで顔見知りとはズルいこと他ない。
だがしかし、今184号室へ食材を届けるのは俺だ。
担当する配達員が代わったことで戸惑うかもしれないが、これから毎週顔を合わせることになる。
つまり、仕事とはいえ自然とスキンシップの機会があるのだ。
もう27歳になるのに恋人の一人もいない俺には、これ以上ないチャンスだろう。
そんな期待を抱きながら、ついに184号室の玄関前へと辿り着いた。
インターホンを押し、中からピンポーンと最早聴き慣れた音が聴こえた。
『はーい!』
「どうも、シロネコ運送です。荷物のお届けに来ました」
『はい、すぐにいきます!』
インターホンのスピーカー越しに聞こえた声は、やけに元気溌剌としてて、どこか舌っ足らずなようにも聞こえた。
これはどちらかというと美少女側か?
そう思うのも束の間、ガチャリとドアのカギを開ける音がした後、ゆっくりと開かれた。
さぁ、遂にご対面だ……!
「え──」
思い切り顔を合わせることになるだろうと真正面に目を向けていたが、開かれたドアの向こうには人の顔が見えることなく、奥の廊下だけが見えた。
え、無人!?
いや、さっき対応してくれたのはちゃんと人の声だったはず……なら透明人間か!?
戸惑いを隠せずにどうしたものかとオロオロしていると……。
「いつもごくろーさまです! はい、ハンコ!」
「は──」
舌っ足らずで元気な声が下から聞こえ、恐る恐るそちらへ視線を向けると……。
──幼女がいた。
ちょっぴり茶色がかった髪を二つのおさげにして、大きな黒の瞳は相手をしっかり見ようとハキハキと開かれていて、摘まみたくなるくらいに突き出た鼻やぷにぷにしてそうな頬っぺた、俺の腰までしかない身長とその小さな体に纏う、キャラクター物のシャツとチェックのスカート……どこをどう見ようと紛うことなき幼女だった。
「えっと、南さんのお宅で間違いないでしょうか?」
「はい! みなみあまなです! しょうがくいちねんせいです!」
俺の確認に、幼女──あまなちゃんはニパッと笑みを浮かべて答えてくれた。
うん、この無警戒ぶりは幼女そのものだな。
『はい』の一言で済むところを、名前だけでなくご丁寧におおよその年齢まで分かる自己紹介までしちゃってる。
「あまなちゃん? 自己紹介するのは礼儀正しいけど、知らない人の前ではしない方がいいんだぞ?」
「え? でもがっこうのせんせーは、ちゃんとじこしょうかいしなさいっていってたよ?」
「それは知ってる人に対してだよ。初めての人には名前まで名乗らなくていいんだよ」
「どうして?」
俺が事案認定を受けて社会的抹殺を受けるからです。
──と言ったところで、小学一年生のあまなちゃんに理解出来るはずもないので、この子に分かりやすい言葉に変えて伝える。
「知らない人からお菓子を貰ったり、付いて行ったらダメなのと一緒だからだよ」
「わかったー!」
元気のいい返事に、そのあたりは学校と親の教育が行き届いてるようでホッと安心する。
「それじゃ、ここに判子を押してくれるかな?」
「はーい!」
俺が受け取り印を押すように促すと、あまなちゃんは慣れた手付きで判子を握り、ポンッと押してくれた。
ちゃんと押し印されていることを確認した俺は、それをポケットにしまう。
「それじゃ、これはどこに置いておこうかな?」
「こっちにおねがいします!」
あまなちゃんが指した場所に食材が入った段ボールを置き、ようやく荷物の重みから解放された俺はググっと背伸びをする。
「はぁ~……」
「おにーさん、つかれてるの?」
思わず出たため息に、あまなちゃんが心配そうに尋ねて来た。
しまった、お客様の前で背伸びした挙句にため息までつくなんて……それに子供の前でだなんて教育に悪いよな……。
彼女が尋ねた通り本当は死ぬほど疲れてるけど、俺は何でも無いと訴えるように笑みを浮かべる。
「なんでもないよ。それじゃこれで──」
「あ、ちょっとまってて!」
「え?」
次の配達もあるから立ち去ろうとした瞬間、あまなちゃんは何か思い出したかのようにハッとした表情をした後、パタパタと居間の方へ駆けて行った。
十秒程で戻って来た少女は、ニパッと愛らしい笑みと共に両手を俺に差し出す。
その小さな二つの手の平の上には、チロノレチョコが3個あった。
「つかれたときには、あまいものをたべるとげんきになるよってがっこうのせんせーがいってたから、これでげんきになってね、おにーさん!」
「──」
満面の笑みを浮かべながら、初対面の俺に対して下心の無い善意100%の気遣いをしてくれたあまなちゃんの優しさに、俺は胸の奥でじんわりとした温かさを感じた。
呆ける心を他所に、差し出された3個のチョコを受け取る。
なんだろう、これ……。
今まで重く圧し掛かってたものが、ふわりと浮かんで消えていったように感じる……。
「あのねあのね、ちょっとかがんで!」
「ん? あぁ、いいぞ」
ぴょんぴょんと跳ねながらそう言うあまなちゃんに従い、俺は膝を折って彼女と目線を合わせる。
すると……。
「よしよーし、がんばったね~」
「──」
小さな手が、俺の頭を優しく撫でて来た。
全く予想しなかった展開に、絶句して言葉が出ないでいると、あまなちゃんはニコニコと笑いながら……。
「おかーさんがね、しゅくだいおわったらこうやってなでてくれるの! そしたらつかれがなくなるから、おにーさんにもよしよししてあげるね!」
あかん、涙が出そう。
流石に幼女の前で泣く失態は犯さないが、それが精一杯だった。
配達業者になって早6年以上……特に感謝されることもなく、渋滞で道が混んで遅れたら怒鳴られたりクレームを飛ばされたり、自宅に帰っても一人きりで寂しく飯と風呂と洗濯をするだけ……。
だが今この瞬間、あまなちゃんの何気ない優しさによって俺の心はこれでもかと癒された。
目が冴え渡り、鬱屈した思考も雲が散るように晴れ、不思議と体が軽くなったように思える。
やだ、最近の幼女すごい……。
「あ、ありがとう……おかげで疲れが無くなったみたいだ」
「えへへ、よかった!」
誇張無しでそう伝えると、あまなちゃんは照れるように笑った。
──先輩が言ってたのは、この子のことなのか……。
毎週、こんなに心優しい少女と触れ合えるのなら、確かに納得だ。
寄る年波に勝てはしなかったものの、先輩はある意味この子に助けられてきたようなものだろう。
実際、俺も身をもって実感した。
お先真っ暗だった俺の人生に、確かな光が照らされた瞬間だった。
============
翌週の水曜日。
この日を楽しみに仕事に励んで来た俺は、自分でも驚くくらいに効率的に働けたと自負する。
だからって給料が上がることもなく、むしろ仕事がまた増えた。
余裕が出来たらそこに仕事の予定を作られたと言えば、どれだけエグイか分かるだろう。
たった1週間ですっかり荒んだ俺の心と体は、あまなちゃんから齎される癒しを求めて止まなかった。
若干どころかかなり語弊があるが、俺は別にロリコンではない。
俺を癒してくれる存在が、偶々あまなちゃんという幼女だっただけだ。
え、ロリコンは大体みんなそう言う?
ちち、ちげーし!
俺、ロリコンじゃねーし!
なんて一人漫才でギリギリ平静を保ちつつ、1週間ぶりの184号室に辿り着いた。
インターホンを押して10秒もしないうちに、あまなちゃんから応答があり、すぐにドアが開いた。
今日の髪型はポニーテールだ。
花柄のシャツとジーンズのスカートも相まって、相変わらず可愛らしい。
「こんにちわ、おにーさん! きょうもごくろーさまです!」
「こんにちわ、あまなちゃん」
俺と目を合わせて、ニッコリと笑顔で挨拶をするあまなちゃんに、挨拶を返す。
これだよ、これ。
配達先で『ありがとうございます』って言われることはあっても、『ご苦労様です』って言ってくれるのとは大違いだ。
無意識かどうかはわからないが、あまなちゃんの優しさが疲れた心身に癒しをくれる。
「はい、ここに判子お願いね」
「はーい!」
元気よくポンッと受け取り印を押してくれた。
前回と同じく玄関の一角に荷物を置き、グッと背伸びをする。
「おにーさん、またつかれてるの?」
「あぁ、ちょっと重い荷物を持つことが多くなってね、肩が凝ってるんだ。でもあまなちゃんに会えたから、また頑張れそうだよ」
「ほんと? わたしもおにーさんにあえてうれしい!」
俺、その10倍は嬉しい自信あるわ。
この子の笑顔を見るだけで、疲れがぶっ飛ぶ感覚だからな。
「あのね、こっちにすわって?」
「ん? あぁ、いいぞ」
何故か玄関のフローリング部分──上がり
次の配達まではまだ余裕があるし、あまなちゃんの更なる癒しを受けられるならお安いご用だ。
というか、他人様の家の玄関に座っちゃったけど、あまなちゃんがいいのならいいのか?
なんて疑問に思ってると、あまなちゃんはいそいそと靴を脱いでから玄関を上がって俺の後ろに回り──。
「トントン♪トントン♪」
「お、おぉっ!!?」
小さな手で握り拳を作り、擬音を口ずさみながら肩叩きをしてくれた。
女子小学生故に力は強くないが、リズムを刻む可愛い声と肩叩きというシチュエーションそのものに、俺は深く感動した。
「どーですか?」
「──あぁ、あまなちゃん、上手だね」
「ほんと? おかーさんもじょうずだねってほめてくれるんだよ!」
俺、あまなちゃんのお母さんと絶対に仲良くなれる自信あるわ。
みてみろよ、ほら……俺の肩をさ、あの小さい手で一生懸命に叩いてくれてるんだぞ?
無理無理アカンアカン。
尊みが深すぎて、肩凝りとかもうどうでもいい。
むしろあまなちゃんの手が肩に触れる度に、やる気とか生きる活力というか、そういったプラスの感情がみるみるうちに漲って来てる。
──もう何も怖くない。
そう確信出来た。
だが悲しいかな。
俺はいつまでもこうしていたかったが、そろそろ次の配達の時間が迫っていることと、あまなちゃん本人が疲れてしまったことで、天国の肩叩きタイムは終わりを告げた。
改めてお礼を言うと、あまなちゃんは笑顔で『どーいたしまして!』と返してくれた。
子供らしく、元気の回復はかなり早いようで安心した。
「ありがとうあまなちゃん。おかげで肩が軽くなったよ」
「えへへ、どーいたしまして!」
肩を回して加減を確かめると、本当に肩が軽くなっている。
筋肉的な疲労もだが、精神的な要因もあったのだろう。
俺が元気になったことに、あまなちゃんも自分の事のように嬉しそうだった。
顔を合わせるだけで満足だったが、肩叩きまでしてもらうことになるとは……。
これはいよいよお返しを考えないとな。
============
そうしてまた一週間が経った水曜日。
最近の働きが認められて、配達量がまたまた増えたぜチクショウ……。
そのせいであまなちゃんへのお礼を用意する余裕がなかった。
それ以前に、他人様の家の子供にプレゼントをあげること自体が難題であると後になって気付いた。
例えば、何かぬいぐるみをあげるとする……当然、あまなちゃんの親は誰からもらったのか尋ねる。
小学生のあまなちゃんはきっと正直に『配達のお兄さんから貰った』と言うだろう。
その瞬間、『自分達の知らない人物が娘にプレゼントをあげた』という事案が成立してしまう。
癒してもらったことに対する純粋なお礼なのに、なんとも世知辛い……。
なら、お菓子などはどうだろうか?
これならあまなちゃんが食べれば後には残らないだろう。
だがしかし、ここで障害になるのがこれが今までのお礼だという点だ。
飴玉なんてダメだろうし、かといってそれなりの高級お菓子も同様で、むしろ後者は食べるのに時間が掛かるし、食べたところで夕食が入らなくなる。
そうなったら結局事案となってしまう。
なんだってこんなにお礼がし辛い世の中になったんだ……。
それもこれも過去に罪を犯してきたやつらのせいだ。
一部の人間の行いのせいで、善意すら疑われる社会と化しているのが本気で腹立たしくなって来た。
他の誰に相談できるはずもなく、こうして今日という日を迎えたわけだ。
なので、いっそ本人に聞くことにする。
何も言わず渡すより、あまなちゃんが欲しい物に彼女の両親への手紙を添えておけば、あらぬ誤解を受ける可能性はぐっと減るはずだ。
そう方針を決めたと同時に『エブリースマイル』の一階184号室に着いた。
インターホンを押して、しばらくすると玄関のドアが開かれる。
「はーい、いつもごくろーさまです!」
「こんにちわ、あまなちゃん」
「あ、おにーさん、こんにちわ!」
元気に挨拶をするあまなちゃんは、髪をストレートにおろしていて、服装も黄色を基調としたストライプ柄のワンピースという、お淑やかさをだした装いだった。
今日も可愛い……将来は絶対に綺麗になるだろうなぁ……。
相変わらずの可愛さを感じつつ、三度目となる荷物のやり取りを済ませる。
さて、今日はここからが本番だ。
「なぁあまなちゃん」
「なーに?」
「いつもあまなちゃんに助けられてるから、お礼がしたいんだけど、何か欲しい物とかあるかな?」
「欲しい物?」
突然の質問に、あまなちゃんは目をパチクリとさせてキョトンとする。
「そうそう、もちろん無断であげるわけにはいかないから、あまなちゃんのお母さんに相談してからな?」
「うん」
「それで、何がいいかな?」
「う~んと、う~んと……」
欲しい物を数えているのか、あまなちゃんは両手の指を立てながら逡巡する。
その様子がまた可愛くてほっこりしていると、答えを決めたのか彼女は顔を上げて……。
「おにーさんのなまえがしりたい!」
「──え?」
まさかの答えに、今度は俺がキョトンとする側になった。
「ど、どうして俺の名前なんだ? ぬいぐるみでもお菓子でもいいんだぞ?」
「えっと、おにーさんはまえに、しらないひとからおかしをもらっちゃだめっていってたよ?」
「そ、そうだけど……」
正論を返されて反論に窮すると、あまなちゃんはニコッと笑みを浮かべる。
どうして笑うのか分からず、続きに耳を傾ける。
「だから、おにーさんのなまえをおしえてもらって、わたしとおともだちになってほしいの! そしたらしらないひとじゃなくなるでしょ?」
「……」
子供らしい無垢な考えに、俺は唖然とした。
あまなちゃんの出した答えは、社会全体からみればそれほど大した意味はないかもしれない。
むしろ、俺がそう言わせるように教唆したとも捉えられる方が有り得るだろう。
でも……。
少なくとも、俺の心は動かされた。
自分の世間体ばかり気にして、あまなちゃん本人の気持ちを全く考えていなかったからだ。
彼女なりに、1週間に一回しか会わない人間を信頼出来ると思ってくれたからこそ、こうして友達になりたいと言ってくれたのだろう。
今までのお礼としてそれが見合うのかは分からないが、自分から聞いた手前……いや、あまなちゃんがそう願うのであれば、俺の選択肢なんて一個だけだ。
俺はあまなちゃんと目線を合わせるために屈んで、目を合わせる。
この人を疑うことを知らない純粋な瞳に適ったことを、誇りに思おう。
「──俺は、
「さがわ、やまと……」
教えてもらった名前を覚えようと、あまなちゃんは小声で何度も俺の名前を反芻する。
たかが名前一個で……と思うが、何事にも一生懸命な子だと伝わって胸が温かくなる。
「さがわ、やまと!」
「うん、良い調子だ。漢字は……まだちょっと早いか。上でも下でも、あまなちゃんの好きに呼んでいいよ」
「ほんと? えっと、それじゃ……おにーさん!」
「ぶっははは! それじゃ、名前を教えた意味がないだろ」
結局おにーさん呼びに帰結したことに、俺は堪らず噴き出して笑う。
あまなちゃんはどうして俺が笑うのか分からず、首を傾げる。
仕草の一つ一つが可愛くて、本当に見ていて飽きない。
笑いがおさまり、俺はあまなちゃんに向けて右手の小指を差し出す。
「それじゃ、俺とあまなちゃんは今日から友達だ。指切りで約束しよう」
「うん!」
約束と口に出したことでニコニコとした笑みのまま、あまなちゃんも右手の小指を差し出す。
俺の親指よりも小さい小指とキュッと結び、リズムを刻んで口ずさむ。
「「ゆ~びきり~げ~んまん、う~そついた~ら、は~りせんぼん、の~ます、ゆ~びきった!」」
そうして、俺とあまなちゃんは友達になった。
ひょんなことから友達になったこの配達先の幼女は、見た人を癒す天使のような満面の笑みを浮かべて、その事実を心から喜んでいた。
~完~
配達先の幼女が癒し系過ぎる 青野 瀬樹斗 @aono0811
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