それでもこの冷えた手が
大福がちゃ丸。
それでも、この冷えた手が
「相変わらず手が冷たいね」
彼の手を握り、いつものように歩く。
彼はいつものように、少し困ったような苦笑いを顔にうかべ。
「冷え性なんだよ」
いつものように言う。
それでも私は、彼の手を温めるように手をつなぎ、握る。
横で歩く彼を見る、今度は暖かい微笑をうかべて私を見ている。
手は冷たいのに。
不意に彼が立ち止まる。
「どうしたの?」
私がたずねても、前方を怖い顔で
私も、前を見てみたがバイクが一台、こちらに走ってくるだけだ。
「どうしたの?」
もう一度たずねる私に、彼は短く強く答える。
「逃げろ!」
彼は前方を睨みながら、私の手を放し、突き放すように私の体を押す。
戸惑い唖然とする私。
前方から走ってきたバイクは、大きな音を立てて私たちの前で止まる。
乗っていたのは、男の人、ヘルメットを脱ぐと、目つきの鋭いハンサムな顔が見えた。
「見つけたぞ」
男の人は、そう言ってこちらに歩いてくる。
誰を? 彼? なんで?
「待ってくれ! 彼女は無関係なんだ! 相手はする!」
腕を広げ、私をかばうように身構える彼を見て、また混乱してきた。
「早くここから離れろ! 逃げるんだ!」
身がすくんで声が出ない、足が震えて動けない。
男の人は立ち止まり、武道の型のように腕を回すと、鋭い声で叫んだ。
「変! 身!!」
体がまばゆい光りに包まれ、その輪郭を変えていく。
光が消えた後、そこには昆虫のような皮膚で体を覆い赤い大きな目を光らせた。
人型の異形の怪物が居た。
「ぐぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ソレを見た彼が、獣じみた
彼の服が音を立てて破け、体が変わっていく。
筋肉が盛り上がり、針のような剛毛が生え、鋭い鍵爪が伸び、鋭い牙が生え、大柄の二足歩行の肉食獣の姿になった彼は、目の前の怪物にすごい勢いで向っていく。
獣の姿になった彼は、風のように走り、宙を舞い、鋭い爪や口から出る炎で戦っていたが、異形の怪物の拳や蹴りで傷を負い、彼の動きが鈍くなっていく。
私は、地面にへたり込み涙を流しながら、見ているしかできなかった。
姿が変わっても、やさしい彼なのだ。
この闘いを止めさせたかった、なのに、体が動かない。
見ているだけしかできない。
異形の怪物が何かを叫ぶ。
跳び蹴りを放ち、彼は数十メートルは吹き飛んで動かなくなってしまった。
それを見た私は、震える足を無理やり動かし、何度も転びながら彼の元えと走っていく。
姿が変わったまま、動かなくなった彼の手を握り、私は声を上げて泣き出すしかなかった。
「何で……何でこんな事を! 彼が何をしたって言うの?! 人殺し!」
泣きながら声を詰まらせ、大声を出して叫ぶ。
人の姿に戻ったバイクの男が、私の問いに答えるように静かに声を出した。
「その男は、ある秘密結社の改造人間だ、放っておけば何百何千の人たちが殺されただろう」
「それを君は止められたか?」
あぁ。
それでも、それでも私は。
私が握る彼の手が、体が、音もなく灰のように崩れ消えていった。
それでもこの冷えた手が 大福がちゃ丸。 @gatyamaru
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