第二話 ぷにぷに
相変わらず
いつになったら、我は自由に動けるのか。
こうなってみると、
我をここまで深く封印するとは敵ながら大したものだ。
それにしても、あのサイクロプスはどうにかならんものか。
我を魔王と知っての振舞いとは到底思えぬ。
また何だかよく分からん所へ連れてきおって。
ここは他の者たちの気配もするし、時折、耳ざわりな大きい叫び声も聞こえてくる。
やはりアトラスの上が気持ちいいのだがな。
『はい、健太君。検温しますよ』
またサイクロプスか。アトラスはどうした。おらんのか?
『先生に診てもらいますからね』
ほぉわっ、な、なんだいきなり。こそばゆいではないか。
胸や腹をぺたぺたするでないっ!
『特に問題はないね』
また別の巨人族か。入れ代わり立ち代わり、鬱陶しいものだ。
奴等が去り静かになった。
ここは暖かく、眠気を催おす。
うとうとし始めた頃に、遠くから心地良い声が聞こえてきた。
あれは――。
『健太、起きてるぅ?』
おぉ! 待っておったぞ、アトラス。
早くそなたの上に我を寝かせてくれ。
『それじゃ、授乳をしてみましょう』
……また、お前か。邪魔をするな。
うわっ、何だ、どこに連れて行くっ。
おのれぇ。我が魔力を取り戻した暁には、貴様には相応の罰を与えるからな。
覚えておれっ!
『はい、左手で赤ちゃんの頭を下から支えて』
『こう、ですか?』
お? この匂いはアトラスか?
うむ、これもなかなか良いぞ。落ち着く体勢だな。
なにかしっくりきておる。
『次は、乳首を赤ちゃんの口の所へ持って行って』
『はい』
頬に当たっているものは、温かく柔らかな肉塊か。
んー気持ちいい。
はむっ!?
いきなり口に入ってきたこの物体は何だ……。
思わず反射的に口が動く。
すると液体が流れ出てきた。
こ、これは。
飲み込んでみる。
かすかな甘みに野生を感じる香り。
ぷにぷにした肉塊に顔を埋めながら口を動かす。止まらない。
何なのだ、この感覚。何とも言えない、この気持ち。
我が今までに感じたことのないものだ。
一心不乱に飲み干していると腹が満たされ、睡魔が襲ってきた。
『お腹いっぱいになって眠くなっちゃったみたい』
『それじゃ、げっぷさせてみましょう』
あー、また動かされておるぅ。
だめだー、眠いぞぉ。
意識が薄れるぅ。
あーん? 背中をトントンと叩いているのはアトラスかぁ。
そのように優しく叩かれるのも気持ちがいいものだなぁ。
ケポッ。
『はい、ガーゼで口の周りを拭いてあげて』
『ありがとうございました』
アトラスの声を聞きながら、我は深い眠りに落ちた。
魔王ケンタ君の憂鬱なる日々 流々(るる) @ballgag
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