第一話 命名、ケンタ
あの、聖水で満たされた場所より出でたというのに、
それ程までに重い封印ということなのか。
そして、この巨人族らしきものたちの気配。
どうやら我を助けに来た
うーむ。わからん。
『あらあら、何か難しい顔をしてるわねぇ』
『今お母さんに抱っこしてもらうからね』
うわっ、何をする!
我をどこへ連れて行く気だ!
『ほら暴れないで』
何か暖かく柔らかなものの上に置かれた。
すぐ近くに誰かの気配がする。
『はい、お母さんよ』
『頑張ったわね、おめでとうございます』
『ありがとうございます』
頭上から降り注ぐ巨人族の声とは別に、この柔らかなものから我の体に直接響いてくる。
ふむ、なぜだ。
何が起きているのだ。
どうも先程から波に揺られるかのように、体が上下に動きおるのも気にかかる。
おぉ、そうか。
我は巨人族の腹の上に寝かされておるのだな。
やはりこの者共も我を慕っているということか。
えぇいっ、頭を触るでないっ。
まったく、魔王の頭を撫ぜるなど無礼であろうが。
これだから巨人族は野蛮だと言われるのだ。
まぁしかし、この者の巨大な手は妙に暖かく気持ちが良い。
特別に許してやろう。
『お父さん、どうぞ入ってください』
『何でカズヤが泣いてるのよ』
や、やめろ、体を揺らすでないっ。
我がおることを忘れるな。
この響きは――笑っておるのか?
だから、やめろ!
笑うな。
『だって、ミノリも赤ちゃんも無事だったから……』
お? また別の巨人族か。
声の音が全く違うぞ。
『心配してくれてありがとう』
やはり体に響いてくる、この音が一番心地良い。
何を言っているのか分からずとも、我を安心させてくれる。
『ちょっと赤ちゃんをお預かりしますね』
うわっ、またお前か。
我はあの者の上で寝ていたいのだ。
まったく。
どうもこやつは我への崇拝が足りぬ。
巨人族にもランクがあるからな。
おそらく我を腹の上に乗せていた者がアトラス、後から来た者がギガンテス、このいささか無礼な者がサイクロプスであろう。
『何をするんですか?』
ギガンテスよ、サイクロプスを止めさせて我をアトラスの元へ戻せ。
『体を洗って、』
おわっ、また聖水か。いや、湯浴みのようで心地よい。
『心音や心拍を測って、』
冷たっ。何をしようというのだ、サイクロプスめは。
『目薬をさして、』
くそっ、目を攻撃された!
『身長などを測るんですよ』
だから冷たい所に寝かされるのは嫌だと、言っておろうが。
『五十センチ、二千八百五十グラム。健康状態も良好です』
『よかった』
おぉ、アトラスの声を聞くと落ち着く。
『もうお名前は決まってるんですか』
『はい。健康の健に、太いと書いて健太です』
『そう。健太君は名前の通り、元気ねー』
『健太、パパだぞ。分かるか?』
『そんなこと言ったって、まだはっきりと見えないのよ。慌てん坊のパパね、健太』
なんだ、さっきから同じようなことばかり話して。
この世界の巨人族たちの言葉は全く分からん。
しかし、我に語り掛けているようにも――そうか、
今頃気付きおったのか。
『それじゃ、健太君は新生児室に行きましょう』
な、何をする、サイクロプスっ!
我はアトラスの上で眠るのだぁーっ!
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