11章 始の太刀「野狐」 後編

 朱ノ助は走り続ける。

「待ってっ、てば!」

 後ろから声が聞こえる。少し足を緩めた。

 その時、袖を引っ張られる。

「本当に、待ってっ、てば!」

 ふり向くと、鼻水太が朱ノ助の袖を引っ張っている。昌之助は付いてきていないみたいだ。朱ノ助は走るのを止めた。ずきん、と胸が傷んだ。昌之助と判十郎を置き去りにしてきたんだと。

 鼻水太は両手を心臓の位置に置いている。少し震えている。

「僕は戻るよ。戻って戦うよ。一緒に朱ノ助も戻ろうよ」

 朱ノ助はただただうつむいている。

「分からず屋」

 ばしゃばしゃと鼻水太は駆けていった。朱ノ助は、雨の中たたずむばかりである。

 それでも気になって足を、ずるずると引きずりながら元来た道を戻る。いつしか雨の中駆けていた。師匠の姿が見えた。師匠は熊に組み伏せられていた。思わず叫ぶ。

「師匠!」

 朱ノ助は熊に体当たりする。熊は崖の上から転び落ちる。

「師匠、大丈夫か?」

 師匠は死にそうになる。息も絶え絶えである

「お前たちは生きろよ」

 鼻水太が朱ノ助にしがみつく。

「死にたくない。死にたくない」

 朱ノ助、気を奮い立たせる。

「俺がお前たちを死なせねえ。黄太。狐神力を貸してくれ。頼む」

 熊の大将の刀が来る。木刀で防ぐ。

「絶対守ってやる」

 一回耐え抜く。血が流れすぎて意識が飛びそうになる。そこへ友たちが前に立つ。

「お前だけにいい格好はさせねえぜ」

 熊の大将が吠える。ひっ、と鼻水太がもらす。行くぞ。二人が突撃する。

「あいつらを死なせねえ。俺に力を。化け物を倒す力を。友達、師匠を守れるだけの力を」

 そこへ声が聞こえる。


「君に人間を捨て去る覚悟はある?」

 黄太の声である。もう一度声が聞こえる。

「人間を捨て去る覚悟はある?」

 朱ノ助が答える。

「どういう意味だ?」

「君の魂に僕の魂を混ぜあわせ練り上げるんだ。だけどこれをすると・・・・・・」

 朱ノ助はごくりとつばを飲みこむ。

「君は文字どおり人間ではなくなってしまうんだ。もしかすると、本当のバケモノになってしまうかもしれない」

「構わない。やってくれ!」

「じゃあ、魂を僕に委ねて」


 一気に身体能力が上がる。体から気が垂れ流しになる。声が聞こえる。

「これが子狐一刀流、始の太刀「野狐」だよ」

 野狐のすばやい一刀のもとに化け物が消え失せる。黄太の魂が流れ込んでくる。魂が混じり合った。

「師匠ごめん。俺がふがいないばかりに」

 師匠は、すーすー、といびきをかいていた。生きていた。狐ありがとう。

 朱ノ助もぱたりと倒れた。


 やっとのことで町に戻ってことの顛末を告げる。大変な騒ぎになった。あの後城に呼ばれることになる予定だったが、師匠が断った。理由はこいつらバカだから図に乗るからだそうだ。ぶ~。でも確かに。いつものとおり、師匠の指導のもと、お寺で論語を読んでいると、師匠に声を掛けられる。

「あのな〜。これよりお前たちにひとつ言っておくことがある」

「なんだ。なんだ」」

「お前たちの剣は、人を殺す剣になるな。己を活かし、人を活かすために剣を振るえ。分かったな」

「そりゃそうだ」

「これを活人剣という。分かったな」

「はいっ」


 一年後、朱ノ助、鼻水太、昌之助、師匠はそれぞれ旅に出る。鼻水太は経営術を学ぶために、昌之助は師匠から学んだそろばんを活かして商人になるため、師匠は筆を持ち見聞録を書くために。朱ノ助は、剣を極めるため。そしてそれぞれが目指す。活人剣を。


 ただし活人剣の習得は今じゃない。たぶん30年、40年掛かると思う・・・・・・。もしかしたら一生習得はできないかも知れない。


 でも・・・・・・、やるっきゃない!


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剣道を通して草むしりやたけのこ掘りやクマ退治などを行い青春する話☆ 澄ノ字 蒼 @kotatumikan9853

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