病院に運ばれた当時のことを、作者本人の言葉によって語られるので、感情が一直線に心へ入ってきました。作者さんが回復して、今現在も生活を続けて、さらに執筆活動を行っているという事は一つの「奇跡」と呼べるのだと思いますが、そう言い切れない何かを感じます。不意にかけられた看護師さんの一言からの心境の変化に、じんわり胸が温かくなりました。
実体験に基づくドキュメント。カクヨムでは初めて読んだ。本作の最大の特徴は『音』だろう。身動き一つままならない、天井でも眺めるほかしようのない患者にとって、獲得できる最大の刺激は音しかない。匂いや肌触りももちろんあるだろうが、環境が環境なだけにどうしても単調だ。 本作での『音』は情け容赦なく生々しい。しかし、作者に尊厳をもたらしたのもまた『音』……言葉という名の音であった。