第14話 紫色のメッセージ

「一ノ前リゾートが、実質的な神川村の〝玄関口〟だったようですね。高級会員制リゾートとしておくことで、厳しいセキュリティも不審がられることもなく、外部の人間を一切排除することができていた…」

権田「…あれだけ広大な敷地に堂々とケシ畑をつくって、地下とはいえ精製工場も備えていたんだぞ?いくら表向きは高級リゾートだと謳っても、無理がないか?」

「それは…」

権田「……まあいい…倉見と戸部はどうした?」

「それもご報告なんですが……今朝から病院を飛び出して、行方がわからないそうです。現場の捜査員をだしますか?」

権田「…行先はわかってる、ほっといていい」

「あ、それからこれが、権田課長宛てに届いていました。差出人はありません」



すすだらけの倉見と戸部が、焦げ臭さが漂う高台に立つ。

戸部「みんな燃えちゃいましたね…」

倉見「…そうだな」


何台もの警察車両がひしめき合う神川村を、静かに見下ろす二人。

戸部「結局、裏でつながっていた連中も、ガンを治す方法も……何も残らなかった……何も…助けられなかった、くそ!」

そういって戸部が草を蹴り飛ばすと、泥だらけになった靴が勢いよく転がっていった。

倉見「おい、下に落ちた…」

振り返ると、戸部はうつむいたまま声を止めて肩を震わせている。その姿にそっと小さなため息をかけると、倉見は低い崖下に降りて靴を拾いにいった。

 

所々で未だ黒煙が昇り、残骸だけがバラバラに横たわる村の光景。一人で見ると、それはさらに色濃く胸に突き刺さり、倉見の中に言いようのない感情がこみあげてくる。


それを振り払うかのように、膝をつき夢中で靴を探し始めたが、胸の中でざわざわとうるさい声は消えてはくれない。

倉見(これでいい、よかったんだ、正しい事をした)

倉見(凶悪な反社会的組織を壊滅させた、社会の悪を根絶した、それだけの事だ)

一人這いつくばりながら自答する。


そのうち、草むらの中で伸ばした手が、靴のかかとに当たった。

倉見「あっ…」

ポツンと転がった戸部の靴をゆっくりと拾い上げる。

倉見「…あった…?!」

裏返した靴には、ぼろぼろになった白い花びらが張り付いていた。

倉見「ケシの…花…」

思わず息を止めた倉見。


鹿子と見た、朝陽の降り注ぐ真っ白なケシ畑…あの日の光景が一瞬にして倉見の胸を染め、眼前に広がるこの焼野原が倉見の目にはあの時と同じように映りはじめる。しかし、沈みかけた夕陽が照らすのは目の前にあるガレキの山ではなかった。  


迷路のような森、枯れた土と芽吹かぬ畑、石と手で掘りさげた井戸、命を嘲笑う病院、通えない学校、そして、主とともに立ち上がった村人たち…。

倉見はじわじわと熱くなる目を抑えることもなく、ただただ空虚感を奏でるその景色の前で草を握りつぶした。

倉見「良いわけない…良いわけがないだろ!」


絶え間なく残骸が崩れていく音が、倉見の嗚咽を掻き消した。深く重しをしていた石が外れ、ようやく解き放たれた涙が生き生きと流れて落ちる。その脳裏にふと浮かぶ光景…。

(鹿子「ケシの花言葉、お前知ってるか?」)

(倉見「犯罪者、金儲け、廃人、あとは…」)

(鹿子「なんだそれ?」)

(倉見「そんくらいだろ、この花につけるとすれば」)

(鹿子「相変わらずセンスないな。まあわかってたけど」)

(倉見「オレはな、上っ面だけのかっこつけた言葉じゃなくて、深~い意味をこめて…」)

(鹿子「はいはい」)

(倉見「ハイハイじゃ」)

(鹿子「…白いケシの花言葉はな…」)



崖の上に戻ると、膝を抱えて座りこんでいる戸部が、細くなった煙をぼんやりと見つめていた。

その力ない後ろ姿に一瞬ためらいながらも、倉見はゆっくりと近づき隣に座った。

倉見「…だいぶ煙がおさまって来たな」

戸部は顔を隠すように、黙って横を向く。少し困ったようにため息をついた倉見が、拾ってきた靴を戸部の顔に押し当てた。

戸部「わぷッ!なにすんですか!」

倉見「取ってきてやったんだよ」

戸部「…あ、ども…なんかくっついてるし」

靴の裏に張り付いたままの白い片(かけら)


すぐにそれとわかった戸部は、憎たらしそうに爪を立てて花びらを剥がし始めた。

戸部「何もかにも持っていきやがって!こんのクソ!こんの!」

なかなかきれいに取れない花びらと、文句をいいながら格闘する。


倉見「…お前ケシの花言葉、知ってるか?」

前をみつめたまま、倉見は言った。

戸部「さあ!そんなの知りたくもないですね!」

そっけなくそう答えると、今度は近くに転がる小石を持ってヤケクソに削りだす。

戸部「裏組織とか、治療法とか、歴史とか、誰が関わったとか…もう忘れたいですよ!時間戻して、なにもかも無かった事に…!」

靴底がゴリゴリと擦り減っていく音が、戸部の声を遮っていく。

倉見「…うん、それ正解」

戸部「…は?何が正解なんですか!?」


倉見「ケシの花言葉な……〝忘却〟だってさ。何もかも忘れてしまえって意味。アイツがそう言ってた」

戸部の手が一瞬止まる。

戸部「何ですかそれ…なんなんですか?…勝手だな…本当に勝手…鹿子さん、わがまますぎますよ…」

ぽろりと落ちた水に混ざった花片は、ようやくきれいに無くなり、鼻をすする戸部の肩をポンと叩くと倉見が立ち上がった。

倉見「帰るか」




KEEPOUT KEEPOUT KEEPOUT KEEPOUT KEEPOUT 

倉見「いま何ていった?」

黄色い帯に囲まれた飯処うえ田の前で声を荒げる倉見。電話の相手は慌てた様子の戸部だった。

戸部「だから!鹿子さんが事件の首謀者って断定されたんですよ!」

倉見「なんだよそれ!何言ってんだよ!」

戸部「ボクに言わないでください!だから捜査会議出ましょって言った…」


~ブツッ~


戸部「ん?もしもし?先輩?ちょっと!」


署の階段を駆け上り、恐ろしいほどの速さで刑事課に戻って来た倉見。権田の前に辿りつくと自分の熱気に思わずむせる。

倉見「ゴホッ…課長…神川のこと…何かの間違いですよね?」

息も絶え絶えの倉見が、呼吸を整える間も持たずに権田のデスクをがっちりと掴んだ。


予想していたのか権田は驚きもせず、淡々と書類を片付けながら答えた。

権田「…また捜査会議さぼって、何やってんだ」

その瞬間、バシンッ!という音と共に、書類の束がひらひらと床に落ちた。

倉見「課長!!」

権田は小さく息を吐くと、空になったデスクに吸い込まれるように両肘を着き固く指を組んだ。

権田「…神川鹿子は建造物放火と麻薬取締法違反の首謀者として、被疑者死亡のまま書類送検する」

倉見「待ってください!身内とはいえあいつはとんでもない犯罪者集団を一人で止めたんですよ?追ってた事件もすべて解決した!送検どころか表彰されても良いくらいでしょ!」

権田「何であろうと、犯罪を犯していい理由なんてない…罪は法によって裁かれる」


倉見「…あの村が過去にどんな歴史を送って来たか、課長だって聞いたでしょ!?…鹿子がやらなかったらあの村の暴走は止められなかったし、被害者は増える一方だった!あれだけ大規模な組織をアイツは一人で止めたんですよ!」

権田「そうだな、たしかにそうだな。ただ、それならまず報告するべきだった…犯罪行為が行われているのをなぜ誰にも訴えずに勝手に動いた?いくら大昔に悲劇があったとはいえ時代は変わってんだぞ?」

倉見「犯罪行為ってわかっていても助けらんないでしょう!?法なんか見えるとこしか裁かない、都合の悪い事には目を瞑る、そういう裏側を知っていたから結局何も解決せずに繰り返すだけな…」


倉見ははっとする。あのとき鹿子がいった言葉がそのまま自分の口から出たような気がしたからだ。

(鹿子「歴史ならまだ続いてる。お前の言う罪の盾をなくしたら、この村はまた悲劇を繰り返す」)

ぶつけようのない感情を権田のデスクにを叩きつけると、倉見は黙って出ていった。


戸部「先輩!」

慌てて後を追いかけようとする戸部を、権田は呼び止める。

権田「戸部」

振り返った戸部の足は、前を向いたままだ。権田はおもむろに引き出しを開けると少し膨れた白い封筒を出し、戸部に渡した。

戸部「…なんですか?これ?」

後ろを見ると、差出人の名前はない。

権田「倉見に渡してやってくれ。…俺宛てに届いたものだから、返却は不要だ」

戸部は訳がわからないまま頷き、走り去った。

権田はゆっくり腰を下ろすと、肘をつきまた指をぎゅっと組んで目を閉じた。



戸部「先輩!待ってくださいよ!」

駅前の大通りを息を急き走る戸部。まるで海上に見え隠れするイルカの背鰭のように、人混みを行く倉見の背中を追う。

戸部「もう!」

倉見はそのまま駅の改札に入り、ホームへと降りていく。

戸部「えぇ?帰る気?」

戸部も慌てて改札をくぐった。


誰もいないホームの端で、腕を組み足を大きく広げたまま座る倉見は、解りやすく拗ねる子どものようだ。そこに息の上がった戸部がどかっと座り、長椅子が揺れる。

戸部「もう…疲れたー!」

ようやくゴールを迎えた戸部は上を向き、空で顔を洗う。汗ばんだ全身を心地よく風が冷やしてくれるが、倉見はムスッとしたまま喋ろうとはしない。

戸部「このままサボるつもりですかー?」

チラッと横を見ると、倉見はすぐに顔を反らした。


戸部は軽くため息をつくと、思い出したようにポケットから封筒を出し、なぜかニヤリと笑った。そぉっと倉見の頭上に封筒を挙げると、顔に向かって一気に降り下ろす。


~ペチン!~


倉見「痛っ!!何すんだバカ!」

顔を押さえながら、目の前にぶら下がる封筒を片目で見る。

倉見「…なんだよ、この封筒」

戸部「課長宛てに届いたそうですよ、先輩に渡せって言われたんです」

倉見はすぐに差出人をみるが、戸部と同様白いままの裏側に首を傾げる。

戸部「手紙にしてはモコモコしてますよね」

覗きこむ戸部に倉見はさっと背中を向けて訝しげに開け始めた。

戸部「また変な意地悪して!いいですよ!こっちから見えますか…ら…」


倉見の肩越しに見えた封筒…そこには、透明な緩衝材で丁寧に包まれたスマートフォンが、亀のストラップをつけたまま入っていた。


二人は震えるようにお互いを見る。


~ピンポンパンポン…間モナク特急列車ガ通過シマス 黄色イ線マデ下ガッテ オ待チクダサイ~


遠くに見え始めた赤い特急電車は、スピードを落とすことなく近づいてくる。

ホームにさしかかると轟音を響かせながら、二人の背中を巻き上げるように駆け抜けていった。


倉見は生唾を飲み、電源を入れてみる。しばらくすると画面には日付と時間が示された。

戸部「…今日の日付けですね…」

倉見「そうだな…」

未読を示すSNSを開いてみると、送り主は香鹿、日付はあの日になっている。

(香鹿「僕はここに残るよ」)

その直前には、鹿子とのやりとりが残っていた。


(鹿子「シェルターへ避難してください」)

(香鹿「何があった?」)

(鹿子「今日で終わりです」)

(香鹿「何をした?」)

(鹿子「グロウ管に火を。三十分後には病院に到達します」)


その約二十分後、香鹿の最後の返事は読まれる事なく、終わっていたのだ。

戸部「…あの管から火を…」

倉見「村の心臓部を、確実に潰すためだったんだろ…」


SNSの登録者は五人。香鹿、茜、宗雄、徹、そして残りの一名はアカウントが存在しないとある。半年前まで残る履歴を遡って見ていくと、


(鹿子「間もなく遠畑の家につく」)

(徹「すでに釈放、イブマブに潜ります」)

(鹿子「了解」)


それを見た戸部が思い出したように声をあげた。

戸部「イブマブにいたボーイ!そうか、あれが遠畑努(増須広樹)だったんだ!ずっと引っ掛かってたんですよ…本名は徹か…」

畑野宗雄(趙要徳)とのやり取りも事件の細かな指示と共に、生々しく記されていた。


(M「これからビルへ行きます 問題ありませんか?」)

(鹿子「ない」)

(M「了解。また完了後に報告します」)


それは、戸部が撃たれる直前のやりとりだった。

倉見は顔を覆い、その先を読み進む事が出来なくなる。

倉見「…お前が見ろ」


渡された戸部は、唇をギュッと噛みしめて頷いた。

その続きは、約一時間後宗雄からの連絡で始まる。


(M「PCは無事回収。神棚の家紋写真も回収。刑事が来ました」)

(鹿子「刑事?それでどうした?」)

(M「撃ちましたが急所は外し、救急車も現在到着。中央署の戸部と言っていました」)


大きく深呼吸をする戸部、それでも鼓動は早くなるばかりだ。胸に手をあて目を瞑ると、深い海に潜るようにまた思い切り息を吸って画面に臨む。


(鹿子「今すぐ香鹿先生を待機させろ」)

(M「先生をお呼びする必要がありますか?警察病院ですから車中待機でもかなりリスクがあります」)

(鹿子「早く呼べ命令だ」)

(M「賢明なご判断とは思えません。村に指示を仰ぎます」)

(鹿子「私の指示に従えないならお前を殺す」)

(M「すぐにお連れします」)


読み終えた瞬間、唇が潰れるほど、こぼれそうな嗚咽を掌で押し込める戸部。目にこみあげる想いは、指の節をくねくねと曲がっては落ち、握りしめた画面に歪な円を描く。


倉見「…見たか?」

顔を上げずに頷く戸部が、濡れたスマートフォンを手渡した。倉見は大きく深呼吸をしてその先を読み進める。


(M「これから運びます」)

(鹿子「了解」)


鹿子が姿を消したあの日のやりとりだ。この一〇分後には(鹿子【呼出】)と表示され、Mへ何度も電話をかけている鹿子の履歴が続いている。


(鹿子「取引中止!即解散しろ!」)


その後もMからの返事がないまま鹿子は電話をかけ続けている。が、その五分後Mからようやく返信がくる。


(M「すでに現場到着、中止はできません」)

(鹿子「刑事がいる、手を出すな」)


倉見は息を呑み深呼吸をして一息つくと、また画面に目を落とした。


(M「確認済み。今回は消さなければこちらがまずいでしょう?」)

(鹿子「命令だ、手を出すな」)

(M「それは従えません。今後は見られたら消せとお達しが出ています」)

(鹿子「どういう事?」)

(M「継崇典までは静子さまに従うようにと」)


そこでやりとりは終わっている。


倉見は何度も頷きながら、何度も何度も頷きながら、やがてゆっくりと空を見上げた。

あの時見た瞳の裏を、言葉の色を、ようやく見つけられた気がしていたのだ。


二人はそのまま、何度も通り過ぎる電車を背中で見送り、所々に空いたピースを埋めるように鹿子の面影を辿っていった。



誠「ぼく、大人になったら警察官になりたいんです」

神川村の子どもたちが保護された療育院で、倉見は目を丸くして誠を見た。誠は得意げに続ける。

誠「警察官は耳がよくないとダメなんでしょう?」

聞いた事もないような条件に顔をしかめる倉見。


倉見「え?どういう…?」

誠「助けを求める人の声はとても小さいから、警察官は耳をきれいにしておくんだって。でもウソをついたり悪いことをしてると心の耳が死んじゃって聞こえなくなっちゃうから、ちゃんと正しいことをするんだって」

倉見「お、おぅ、その通りだ」

誠はにっこりと嬉しそうに笑った。

誠「鹿子さんが教えてくれました」

倉見「……そっか」

倉見は少し切なく笑う。


誠「あと、張り込みのときに牛乳は絶対飲むなって」

倉見「…牛乳?…あ!あいつめ!!」




~一年後~

倉見と戸部は、神川村の跡地を訪れていた。所々に切れた黄色い帯がひらひらとなびく広大な土地は、膝まですっぽりと隠れるほど草が伸びきり、もともと何も無かったかのように、ひっそりと佇んでいた。


少し冷たくなった風に顔をうずめながら戸部がポツリとつぶやく。

戸部「ここまで来たのに…野杖さんに会えないなんて、残念だなぁ…」

倉見「あぁ、あれからすぐ異動になったんだっけ?」

戸部が頷く。

戸部「奥さんの実家の方に行ったらしいですよお義母さんを自宅で看てあげたいとかで」

倉見「そっか…あの人らしいな」 

戸部「ね」


小さな沈黙が野杖のニッコリとした笑顔を空に映す。そのまま記憶の川へと流れだした二人は、はっとしたようにピタリと止まった。

倉見「多苗さんは?」

戸部「多苗さ…」

同時に顔を見合わせ一瞬の間を置くと、照れ臭そうにそっぽを向いて頭をかいた。

戸部「…あ、これも野杖さんですよね」

倉見「そうだな、野杖ポーズだ」


低い青空に突き抜けるような笑い声が響く。

戸部「あー久々にツボにヒットしちゃいました、はぁ…笑った…。そう、多苗さんですけど、野杖さんが異動になる前に東京の息子さんが迎えに来たそうですよ」

目尻を指で拭き上げながら戸部が言った。

倉見「そっかぁ!よかったな」

戸部「野杖さんも安心したでしょうね」

倉見「そうだな…」


二人のその後を喜ぶ倉見と戸部だったが、同時に湧いてくる侘びしさは、消すことができずにまた沈黙へと変わった。

倉見「……さ、オレらも行こう…」

戸部も頷き顔を上げた。


ふと、生い茂る草の中で、所々に顔を出す紫色の花を見つけた。見渡せばそれは跡地一面に広がっている。

倉見は花を無造作にむしりとり、石の上にそっと供えた。


戸部「ちょっと先輩、いくらなんでもそれはないですよー!」

倉見「花だからいいだろ。こういうのは見てくれじゃない、心だ心」

自信たっぷりに胸を叩く倉見に、戸部はあきれ顔で続ける。

戸部「だから駅前の花屋寄っていこうっていったのに!ほんとにズホラなんだから。…ん?しかもこれ貧乏草じゃないですか!ほら、あっちに白いのもある!子どもの時そこらじゅうに咲いてて、触ると貧乏になるって言ってたやつ!」

倉見「マジか!?」

開いた手をマジマジと見る倉見の横で、少しずつ後退りを始める戸部。

倉見「ンッフッフッフッ…お前も道連れだ!」

戸部「やると思った!」

両手を伸ばして追いかける倉見、戸部は叫び声を上げながら全速力で逃げていく。

二人はそのまま振り返る事なく、静穏な空に包まれた村を後にした。



石の上に残された紫の花、それは紫苑(しおん)

であった。


花言葉は、あなたを忘れない。



                   終

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バビルサの牙 あすだ @asda

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