かみさえ俺を裏切るのか

杜侍音

かみさえ俺を裏切るのか


 ──この世に神など存在しない


 誰も救われぬ、無慈悲な世の中である。


 かのゲーテはこう言った──何て言ったのかはちょっと忘れたけど何か言ってた。

 つまりだ! ……俺は今、窮地に陥っている──誰か俺の危機に気付いてくれないか。誰か救いの手を差し伸べてくれないか。


 誰でもいい……! 誰か、誰か……!



「紙をくださぁぁあい‼︎」



 ……しかし、願いは届くことはなく、狭い個室の中で声がこだまするだけであった。




   ◇ ◇ ◇




「──もうトイレに入って一時間。急な便意に襲われて近くの公園のトイレに入ったのはいいものの、紙がないから、ここから出られない。もちろん俺の所持品に紙はない。しかも時間は冬の朝。露出してるお尻がガッチガチに凍りつく。お尻の感覚はもうなくなった。急いでるってのに全くついていない……!」


「──どうやらあなたは神に見放されたようですねぇ」

「っ⁉︎ 誰だ⁉︎」


 一人物語っていた青年が入っている個室の隣から声が聞こえた。


「私はそうですね、神父──とだけ名乗っておきましょうか」


 その男はそう名乗った。この街にある教会の神父だという。


「神父? まぁ、いいや。……神に見放されたってのはどういうことですか」

「そのままの意味ですよ。あなたは箱に囚われし罪人と成り果てたのです。神から受け賜る神の紙がない囚人は、外界へ飛び立つことは不可能。あなたは一生ここで過ごすのです」

「囚人──よく分かんないけど……てことは、そっちの個室には紙があるのか⁉︎ だったら少し分けてくれませんか!」

「はぁぁぁ、あなたは本当に何も見えていないようだ」


 神父は深く溜息をつき、心底呆れていた。

 が、狭い個室に一人いるだけなので、見えないのは当たり前である。


「あなたがトイレに入ってから、誰かが入ってきた気配はありましたか?」

「いえ、全く……それが?」

「ふっ、愚かだ。私はあなたより先にこの個室に入ったのですよ。もう二時間もここにいるのです。紙がなくて私も出られません」

「お前もかよ! 何でそんなに偉そうなの⁉︎」

「罪人が罪人を責める資格はない。大人しくそこで凍えていなさい……!」

「お前もだろ」


 神父の声は寒さのせいで、震えている。

 キンキンに冷えた古い陶器の便座に尻が張り付いているようで、隣から肌が剥がれる音が度々聞こえていた。


「──ったくよ、うるせぇな。おちおち寝てもいられない」

「っ⁉︎ 誰だ⁉︎」


 神父がいる隣の個室より、さらに向こうの個室からも声が聞こえてきた。

 渋くて低い男性の声である。


「俺か? そうだな。俺のことは刑事と呼んでくれ」

「刑事さん──け、刑事さんが、どうしてここに?」

「でかいホシを一晩中追いかけてたらよ、『あれ、腹痛くね? いてて、痛くね?』ってなってよ。それからトイレ入って6時間」

「6時間⁉︎」

「上には上がいるようですねぇ〜」

「気付いた時にはフルチンで眠っちまったってわけよ。で、お前らがうるさくて起きた。んでまたお腹痛くなってきた。うぉぉぉおお‼︎」

「お前がうるせぇ」


 雄叫びを上げると同時に聞こえるのは、何とも汚らしい聞くに耐えない音。

 声はいわゆるイケボが、見た目は大したことないオッサンだろうと青年は予想した。


「く、くそぅ……紙がねぇわ、髪もねぇから頭寒いわ、神は俺を見放したってわけか」


 見事に的中。刑事はハゲだった。


「ウボロロロロロ」

「うるさっ!」

「──あんたもさっきから隣でうるさいわよ!」

「え、誰⁉︎」


 神父がいる個室と逆の個室。青年の右手側から声が聞こえた。


「アタシ? は、そうね、愛の戦士と言うべきかしら」

「愛の?」

「「戦士?」」


 刑事と神父は息を揃えて言った。


「そうよ。あんた達はどうやら個室にいる時間で競ってるようだけど」

「競ってはないです」

「アタシなんか、もう24時間ここにいるわ!」


「「「一日中⁉︎」」」


「そうよ。彼を待ち続けるためにご飯とか色々準備してたのよ。あなた達とは個室に入る覚悟が違うのよ!」


 個室に入る覚悟とは……誰もがそう疑問に思った。

 だが、確かに男なら誰でも心当たりはあるものだ。

 学生時代、学校の個室に入るのには覚悟がいることを。

 もし、他の人にバレようものなら一生ウンコマンとしていじられるということに──

 しかし、三人はあることに気付く。


「彼を待っていると……」

「そうよ。毎朝、犬の散歩途中にここの公園に寄るの。そしてごく稀にこの公衆トイレを使う日があるのよ。そこを待っているという訳」

「失礼ですが、あなた性別は……?」


 神父が戦士に尋ねると、「可愛い女の子よ」とは答えた。


「ここ、男子トイレだぞ」


 刑事が戦士にそう告げた。


「……そうね。それが何?」


「「「いやいやいやいや!」」」


「アウトだけど⁉︎」

「紛うことなき悪事です」

「とりあえず逮捕していいか」


「どうして⁉︎ アタシの彼への愛は、法律をも乗り越えるのよ⁉︎」

「彼はあなたのことをご存知で?」

「……今は知らない、と思う」

「ただのストーカーじゃねぇか!」


 少しとぼけた形で答える戦士に、刑事が彼女の本当の職業ジョブを言い放った。

 しかし、戦士はすぐに言い返す。


「ストーカーじゃない! あんなただ付いてくだけしか能のないのと一緒にしないで! これからアタシたちは巡り合い結ばれるのだから、アタシは特別なストーカーよ⁉︎」

「結局、ストーカーに変わりはなウボロロロロロ」

「汚い!」


 ヤベー女だった。トイレに潜むため、食事や日用品など様々な物を用意をしていたのだ。

 しかし、ストーカーの件は一旦隅に置いておく。

 なぜなら、青年は一つの希望を見出したからだ。


「な、なぁ……! ちゃんと準備したとか言ってたよな⁉︎」

「えぇ」

「じゃあ、なんかトイレットペーパー、いやこの際ティッシュでも紙なら何でもいい! なんかないか⁉︎」


 彼女が様々な物を持ち込んでいるのならば、紙、もしくはその代わりとなる物があると踏んだのだ。


「あったわよ」

「じゃあ……!」

「六時間前まではね……」

「……え?」

「用意してたけど、使い切っちゃった……」


 希望は消えた。男子トイレ内に絶望の空気が漂う。

 神は完全に彼らを見放したのだ。

 ここは、まさに絶海の孤島──いや絶壁に囲まれた個室。逃げ場も希望の紙もないのだ。



「なぁ、神父よ。ここの個室って何個あったっけ」

「四つです」

「あーあ、紙はもうどこにもないってことね。万事休すだわ」

「用具室とかにないのかな……」

「可能性はあるわね」

「よし、ちょっと誰か確認してこい」


 刑事がそう指示した。

 しかし、誰も動かない。


「おいおーい、誰も動いた物音がしないんだが」

「誰も嫌ですよ」

「おいお嬢ちゃん。用具室あるのはそっち側だろうが。お前確認しろよ」

「嫌よ! 女の子にお尻丸出しで動けというの⁉︎ この変態!」

「お前だよ変態は!」

「あんたこそ動きなさいよ‼︎」

「俺は現在進行形なんだよぉおぉうぉお」

「汚っ!」

「ちょ、ちょっと静かに! ……なんか聞こえないですか……?」


 一同、青年の呼びかけに応じ、トイレの入り口の方に耳を傾ける。

 しばらくすると、しわがれた声で歌いながら誰かが入ってくる。


「きっと掃除のおじさんだ!」

「やったー!」

「これはまさしく、ノアの方舟!」

「おい、じぃさん! ちょっと助けてくれないか!」


 全員が扉をノックしまくった。

 しかし、返事はない。

 各々おじいちゃんに大声で呼びかけるも、やはり返事はない。


「彼はこの一瞬で召されたのですか?」

「ちょっとおじいちゃん! 助けて!」


 戦士は諦めず扉をダンダンッと叩く。

 すると、ようやく気付いた掃除のおじさんは歌うのを止める。


「ん〜、節子かぁ〜」

「節子って誰よ⁉︎」

「節子さん。もう昼ご飯は食べましたよ」

「あ、ボケてる」

「今は朝だぞ、おい」

「おじいちゃん! トイレットペーパー取ってくれませんか〜!」


 戦士が再び叫ぶと、掃除のおじさんはピタリと動きまで止め、喋るのも止める。

 今、しっかりと聴こえてきた言葉の内容を噛み砕いてから返事をしようとしているのだ。


「わしは目玉焼きにはソース派言うとるじゃろうが!」

「どういう聞き間違いよ⁉︎」


 噛み砕き過ぎた掃除のおじさん。

「今、わしも行くぞ美智恵〜」と言いながら、去って行ったのだ。



「「「「えー……」」」」



「行っちゃった」

「私たちには方舟に乗る権利は与えられないということですか」

「つーかよ、あいつ掃除したんか?」

「てか、奥さんの名前変わってませんでした?」



 再び沈黙が流れる……。



「もうダメだぁぁ‼︎」

「落ち着いて神父さん!」


 尻丸出しで発狂する神父。

 彼の嘆きはトイレ内に反響するも、事態は何も変わらない。


「外に助け呼べないかな? スマホとかで」

「おぉ、それはいい案だなお嬢ちゃん!」

「愛の戦士と呼びなさい!」

「じゃあ早速誰か電話かけろよ」


 刑事がそう呼びかけるも、誰もスマホを取り出さない。


「僕は今、ちょっと持ってないんすよねぇ……」

「聖職者故に、そのような機器は持たないようにしているのです」

「彼のことを撮った動画を一日中見てたら、充電切れちゃった」

「何だよお前ら! 仕方ねぇな、俺が電話するよ! ──あ、ここ圏外だ」


「「「うそぉ」」」


「日本に通じないとことか、まだあんの⁉︎」

「ここは公園にある山の陰に立つトイレですし、建物内ですから、電波は弱いのでしょう」


 神父はそう説明した。


 一同再三沈黙。


「もうダメだぁぁ‼︎」

「神父さん落ち着いて! ──あ、紙! 紙を、紙じゃなくても代わりにお尻拭けそうなものを誰か持ってないですか⁉︎」

「持ってたらとっくに出てるっての。お前は持ってないのかよ」

「僕は、ハハ、今本当に何にも持ってなくて」

「使えねぇ男だな」


 すると、戦士は個室内に持ち込んでいたリュックサックを漁り出す。


「アタシも紙類はもうないのよね〜。スマホとご飯と、彼の写真くらい」


「「「あるじゃん」」」


「……ないわよ」

「写真って紙だろ」

「い、嫌よ! 彼のことをアタシのお尻に付けるなんて無理よ! せめて直で彼のことを……ってそれは恥ずかしい!」

「嫌なら僕らがその写真でお尻拭きますよ」

「それはもっと嫌!」


「お嬢ちゃんは何も無しと……。神父、お前さんは?」


 刑事は溜息を吐き、隣の神父に尋ねた。


「私は聖職者故、無駄なものは持たない主義なのですよ」

「あ、そう」

「聖書ぐらいしか持っていません」


「「「あるじゃん」」」


「……ないですよ」

「聖書って本よ。紙じゃない」

「しかもページがたくさん。みんなの分ありますよね……!」

「ぶ、無礼者! 聖書を破り、貴様らのような下民のお尻に擦り付けるのか⁉︎」

「おい、誰が下民だゴラッ」

「そのような罪を犯すくらいなら、ここで自害してやるぅぅ‼︎」

「神父さん落ち着いて!」

「仕方ねぇ。諦めてやるか……」

「刑事さんこそ、何も持ってないわけー?」


 膝を組み直し、戦士は一番遠くにいる刑事に向かって声を投げる。


「ねぇよ。俺は張り込み中でね」

「てか、常時ティッシュなりハンカチなり誰か持ってるはずでしょ」

「それが誰も持ってないんですよね。てか、神父さんもじゃないですか」

「手を洗ったら服で拭うからな〜」

「汚っ。あ、アタシもだ」


 刑事も戦士も今着ている服に手を拭う仕草をする。

 もしかして、この服で拭いちゃえば……と思ったが、両者共にプライドが許さなかった。


「それで刑事さんは、代わりでもなんでも紙はないんですか?」

「だから俺は紙なんて……ん?」


 コートのポケットにグシャリと音が。刑事はそれを取り出してみる。


「紙だ……」


「「「え?」」」


「紙だよ。しかも四枚」


「「「えぇ⁉︎」」」


「紙だぁぁ‼︎」


「「「うぉぉぉおお!」」」


「神ですかあなたは!」

「紙だよこれは!」

「ちょっと早くこっちまで回しなさいよ!」

「分かってるって!」


 ブザービートが決まった瞬間ほどに盛り上がるトイレ内。

 ゴールを決めたMVPの刑事は、汚いケツを振りながら、個室の上の隙間から神父へ紙を三枚渡した。


「こういうザラザラしたタイプの紙ですか。私痔持ちなんですから、もうちょっとソフトな紙質にしてほしかったですねぇ」

「しらねぇよ」

「神父さん、こっちにも回して下さーい」


 神父は一枚取り、残り二枚を青年へと個室の上から回す。

 青年は紙を受け取る。

 だが、何かに気付いたのか、少し険しい顔をしてフルチンで立ち止まった。


「ちょっと早くこっちに回してよ」

「え、あ、うん」


 急かされた青年は戦士に一枚紙を渡す


「指名手配書……? 誰これ?」

「そいつが俺の追っていたホシだ。一週間前、この町で殺人事件が起きた。被害者の名前は久田美智恵くだ みちえ。近隣では優しいおばあちゃんで有名な人だった──」


 事件は、被害者の夫が外出中に起きた。

 彼女は何者かに、鋭利な刃物で腹部を刺され、絶命。

 被害者の家が酷く荒らされていたことから、強盗殺人と踏んで捜査は進められていた。

 刑事はこの付近に目撃情報があったとして、単身乗り込んできたのだ。


「俺が一人な理由はな……手柄を独り占めしたいから、なっ☆」

「ふーん。ニュースにもなってたかもねー」

「軽くスルーしやがったなお嬢さん」

「なるほど……。いたた、持病の痔が……」


 神父はポンポンッとソフトタッチで尻を拭いた。


「アタシ、この人の顔あんまタイプじゃないわ〜。使おっ」


 戦士は容赦することなく、ゴシゴシと尻を拭いた。


「いや〜、紙があった安心感からか腹痛も治ったぜ」


 髪の毛はないのに、ケツ毛がある刑事はゴリゴリッバリバリッとケツを拭く。


「ねぇ! アタシ達お互い顔も知らなかったのに、協力してここから出られる訳じゃん? もうアタシたち友達みたいなものよね! どっかモーニングでも食べに行こうよ!」

「はは、それはいい案だお嬢さん!」

「いいのですか? 凶悪殺人犯は置いといても?」

「まぁ〜、事件発生から結構経ってるからな。この町を既に出ている可能性が高い。捜索網広げて出直してやるさ。必ず捕まえてみせる」

「よ! 刑事さん! 期待してるよ!」

「よせやい! お嬢さんこそ、愛しの彼はいいのか?」

「まー、毎日ここ通るわけだし。それに彼はきっとアタシのことを待ってるはずだから!」

「……そうか!」

「ちょっとあんたもずっと黙ってないで。さっさと出るわよ!」


 戦士は隣に呼びかけながら個室の壁を叩く。


「え、あ、うん」


 しばらく黙っていた青年の返事を合図に、彼以外のトイレの水が流れる。

 そして、同時に自由への扉は開かれた。


「あー、久々のシャバだぜ」

「私達は救われたのですね」

「二人とも結構なオッサンだったんだね〜」

「まぁな。さすがの俺でも和式六時間はキツかったぜ〜」

「体力エグっ⁉︎ ……あれ、あんた出ないの?」

「あぁ、先行ってて下さい! ちょっとまだお腹痛くて、いてて、すぐ追いつきますから……!」

「そう?」


 三人はワイワイ話しながら、公衆トイレから出て行った。




 ──……ヤバイ。ヤバイ……! 

 あの三人に俺の顔が知られた!

 このままじゃ、俺がだってことがバレちまう!

 しかも一人は刑事……。こんなとこで捕まってたまるかよっ……! 

 ……どうする、殺して逃げるか……。


 いや、変顔してバレないようにしよう──



 青年もお尻をフキフキ拭いて、トイレの水を流し、個室から出る。

 すると、さっき出て行った三人がトイレに舞い戻って来る。

 青年はすぐに背を向け、顔を隠した。


「ちょっとまだなのー? あ、出てきてた」

「あ、あぁ、心配かけさせてすみません」

「ん? 何で顔隠してんの?」

「いや、


 青年は振り返ると、渾身の変顔を披露した。


「顔キモッ」


 青年の心は傷付いた。

 だが、自分が指名手配犯だとバレないようにするには致し方なかった。


「ん? お前さんどっかで見たことあるような──」

「気のせいじゃないですかね? じゃあ、ちょっと用事思い出したので、僕はこれで」


 そそくさと青年はトイレから退散しようとする。


「待ちなさい」


 しかし意外な人物──神父に、青年は腕を掴まれる。


「え、何ですか?」

「そのポケットに入ってる物を出してもらえますか?」

「何のことでしょう……?」

「刑事さん」

「……ちょっと調べさせてもらうぜ」


 刑事は青年のポケットを漁る。

 すると、血がベッタリと付いた鋭利なナイフが出てきた。


「これは……!」

「この血が、被害者の血とDNA鑑定して一致すれば、そのナイフは久田美智恵を刺した凶器として、十分に証明出来るでしょう」

「……お前、ただの神父じゃないのか」


 青年はこれ以上逃げられないことを悟り、諦めた表情で、神父に尋ねた。


「えぇ。私、本職は彼と同じ刑事なのです」


 神父は青年を捕まえているもう片方の手で、ふところから警察手帳を取り出した。


「なんだ、同業者だったのか」

「管轄は違いますがね。トイレを出た際に増援も呼んでおります。逃げ場はないですよ」


 神父は警察手帳と一緒にスマホも取り出していた。


「スマホ⁉︎ 本当は持ってたの⁉︎」

「えぇ。嘘を付いて申し訳ありません」

「だからここが電波弱いの分かってたんだな」


「……何で僕が──俺が犯人だって、すぐに分かったんだ」

「簡単ですよ。トイレにカメラを取り付けてますからね。あなたの顔は個室に入った時から知っていましたよ……!」

「そう、だったのか……」



「「「──えっ⁉︎」」」



「カメラァ⁉︎」

「はい。私、そういった生理的行為を撮るのが性癖なんでぇ……‼︎」

「お前も立派な犯罪者じゃねぇか!」

「スマホはそれで持ってたのね⁉︎ カメラを仕掛ける聖職者で刑事って……ドがたくさん付くほどのド変態じゃん!」

「それじゃあ行きましょうか。私も自首します」

「するんだ」


 青年は黙って頷くと、神父は掴んでいた手首と自分の手首に手錠をはめる。

 そして、トイレを後にした。


 こうして、強盗殺人事件は解決したのだった。



「……まさか俺の追っていたホシが同じトイレにいたとはなぁ」

「ほんとビックリ。ずっと隣に凶悪犯罪者がいたなんて。凄く怖かったぁ〜! じゃあ、まー帰りますか!」

「そうだな、お前は警察署にな」


 刑事は戦士を逃がさないように手錠をかけた。


「えっ。ちょ、それ汚っ! ズルいわよ!」

「何がズルいんだよ。これが俺の仕事だ」

「せ、せめて最後に彼に別れを告げさせて……」

「別れも何も会ってすらねぇだろ」


 ただ、のちにその彼から被害届が出され、受理されていたことを知る刑事。

 こうして、殺人犯、性犯罪者、ストーカーの三人を同時に検挙したとして、刑事は見事に昇進し、手柄を独占したのであった。

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かみさえ俺を裏切るのか 杜侍音 @nekousagi

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