第8話 七つ目の不思議

 今日も晴天、気持ちがいい。

 三階の女子トイレから出たあたしは、ふと夜中のことを思い出した。

「やば、消すの忘れた」

 そう、化学室の黒板に解けなかった問題を書いたままだった。

 今なら間に合うか、それとも手遅れか。

「よお、ハナ。そんなに急いでどこに行くんだ?」

 眠そうに目をこすりながらあたしの前に立ちふさがる櫻庭くんがいる。

 こんなに朝早く登校してるなんて、槍でも降ってくるんじゃないかと思ってしまう。

 そんな彼の腕をつかみ、化学室まで引っ張ってきた。


「やっちゃった……」

 案の定、化学室は人で溢れかえっていた。

 黒板には何も書いてなかったとか、誰か夜中に侵入したのかとか、お化けが出たとかみんな好き放題言っている。

 「どうしよう」と櫻庭くんに聞いてみても、「しらね」と一言。

 時間が解決してくれると信じるしかない。

 黒板よく見ると昨日書いた問題に答えが書いてある。

「櫻庭くん、答え書いてくれたの?」

「愚問だな。この中の誰かが書いたんじゃね?」

 だよね、とあたし達は笑い合った。


 そういえば、櫻庭くんとこんな風に笑い合ったことってなかったかもしれない。

 出会って長いけど、会話もほとんどしたことがなかった。

 もちろん、櫻庭くんが教室に来ないからだけど。

 でもいつも学校のどこかにいることはなんとなく知っていた。


「この学校の七不思議は全く見つけられなかったけど、俺たちがここに居ることがもしかしたら、不思議なことなのかもな」

 

 笑っている笑顔、思ったより好きかも。

 なんて櫻庭くんを見ていると目が合ってしまった。

 何でこんなに恥ずかしいんだろ。顔が熱い気がする。あたしの緊張は一気に最高潮。


「ハナ!」

「ふぁい!」


 あたしの名前を呼んで、櫻庭くんはちょっと恥ずかしそうにほっぺたをかいている。

 何を言い出す気なのよ。

「そういえばさ、お互いのことあまりよく知らないよな」

 あたしは静かに頷くと、櫻庭くんは明後日の方を向いてしまった。


「ハナはどこに縛られてる?」

「あたしは三階の女子トイレだよ。櫻庭くんは?」

「俺は……あの早咲きの桜」

「げ、お弁当!?」

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この学校の七不思議 温媹マユ @nurumayu

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