⑤エピローグ

啓介が気がつくと彼は雲海の上に立っていて、周囲を薄い霧が覆っていた。遠く街並が見える。オレンジ色に統一された屋根が何とも魅惑的である。


吸い込まれるようにして彼はそちらに歩いて行き、やがて視界にレンガを緻密に組み上げて作られた門を認め、そこに小柄な生き物が立っていることに気づいた。見覚えのある容姿は他でもないアルフレッドであった。


啓介が足を早めて近寄って行き「やあアルフレッド」と声をかけると、おずおずとした態度で彼は啓介に詫びた。


「すまない、啓介…… こんなことになってしまって……」


「あんたがいるってことはここはあの世なのかな」


「……楽園と呼ばれてる。主(あるじ)とエンジェルが運営している天の領域だ。私は別の楽園の住人なのだが無理を言ってここへ来る許可を得たんだ」


「てことはここは地球の楽園か……」


「すまない啓介。まだ十九という若さなのに」


「もう終わったことだよ」


ふたりは他愛もない話を交わした。シグナスのこと。R1のこと。アルフレッドはまた詫びた。


「ああすまない啓介……、君には何の責任もないのに……、私は命を奪ってしまった……、君は犠牲になったのに何の報酬もなく……」


うなだれて身を震わせる彼を見て、啓介は静かに、しかし晴れやかな声色で述べた。


「いや……いや、こうしてあんたと話ができてよかった。これが報酬だと思うよ」


微笑みを浮かべて啓介はつづける。


「他の惑星の人類と対話ができた地球人なんてそうはいないだろ。俺はいまわかった。生を受けたことを神に感謝ができればそれだけで人生の勝利なんだ」


アルフレッドは何かを言いたそうな顔をしていた。何かを言いたいのだが言葉にできないといったふうに。


「何も言うな。あんたは正しいことをやったんだ」


アルフレッドはぽたぽたと涙をこぼしていた。


「じゃあな」


そう言ったあと、はっとして啓介が後ろを振り返ると大男たちが立っていてわんわんと泣き始めた。その後ろからどでかいのが現れた。白い西欧調の鎧を身にまとう威圧感漂う戦士の出で立ち。啓介に睨むような視線を落とし、それから視線を和らげると巨大な男は言った。


「見ておったよ。お前はよくやったし、充分役目を果たした。充分に生きた」


啓介は微かに笑った。それから、

「それはどうも」と楽園の主に言った。





               ─Fin


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超兵器R1 北川エイジ @kitagawa333

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