カラス男
白居ミク
カラス男
烏男
「だからミサにはちゃんと退職金も払うし。」
三紗生は黙って涙をこらえていた。首になるのは二回目だったが、今の方が前の時よりよほど答えた。前回は、生活のためと妹への責任感から、パワハラ上司に耐えたうえでのクビだったから、理不尽だったがある意味救済にも近かった。体重は7キロも減って、何も食べられなかったのだ。あの時はやめなかったらもっとひどいことになっていただろう。
しかしここは私のお店だ。
私がここを大きくしたのだ。
それを言うと涙が出そうなので、三紗生は何も言わずにじっと膝の上で手を握りこぶしにして、リサの話が終わるのを待っていた。
「チョンマル、ミサにはお世話になったと思うよ。」
(伝票の場所も、領収書の書き方も、帳簿の見方も知らないくせに!
…預金通帳の場所を教えないで帰ってやろうか。)
「だけどやっぱり困っているチェイルの力になりたいしい。ミサブランドもちょうど伸び時だし。ハングク進出するなら、そういう人に任せるのが一番でしょ。」
(あんな男に任せたらすぐにつぶれるわ!私の育てた店なのに…!
…いややっぱり引き継ぎはちゃんとしないと。立つ鳥跡を濁さずだ。)
「引継ぎだけしていってくれる?彼、ちょうどオッソッソヨ。」
三紗生は心が落ち着いて声が平静に出せるまでこらえた。
今だけでいいのだ。泣きわめいて工場から届いて店に出す品を片っ端から床に投げつけて踏みにじってやりたいが、それは後で公園ででもやればいいのだ。
三紗生はリサの顔を見ないようにして、目の前の空気に向かって話しかけた。
「退職金っていくらくれるの?」
「んー。ひと月分?」
「それは退職勧告するときに払うって決まってる額でしょ。退職金はオルマナ?」
リサはずるそうな目つきで横目を使って三紗生を見た。こういう時は、本当に日本人そっくりだ。リサは在日の中で育った生粋の在日3世のはずなのだが、たまに韓国人のあけっぴろげさが隠れて日本人としか思えない行動をする時がある。今がそれだ。
時々日本人なのに、在日のコネを活用するために、韓国人のふりをしているんじゃないかと思う時がある。在日のコネなど、就職の役にはまったく立たないから、個人のブランドを立ち上げざるを得なかったのだから、メリットなんてないはずなのだが。それにリサのデザイン力は、本物の韓国人でなければ出せなかった。
(じゃあやっぱりハングクサラムなんだ。でも今それ関係オプソヨ。)
三紗生はすっと店の奥まで見通せる玄関から続く廊下と、奥の事務所とは名ばかりの入荷した商品が山積みで、ラックが並び、ラックの上に事務用のパソコンが一台置いてある部屋(今三紗生とリサが座っている)をさっと眺めた。ごたごたして安物を売っていた入店時の思い出がよみがえりそうになったが、それはむりやり抑え込んだ。デザインは素晴らしいが、仕入れも経理もザルのリサをサポートしながら、少しずつ三紗生が片づけたのだ。リサは片付いた後に「カムサヘヨ」と軽く言っていたが、来店者への営業効果は、軽くなかったと三紗生は思っている。でもそれを今思い出すとこいつの前で大泣きして、慰めてもらうことになりそうだ。しらじらしい「ケンチャナヨ」を聞いたら、感情のタガが外れて殴りそうだ。警察に連れていかれたくない。こんなことで姉や妹に連絡が行くのも避けたい。
三紗生はさっと店内を見まわして、すぐに換金できそうで、リサが断りにくそうな金目の物を探した。ついでにリサがその価値を見出せずに簡単に手放して、この先リサが困りそうなものだとありがたい。でもそれは余計だ。まずは金目のもの。リサが簡単に手放してこの先の生活の保障になりそうなもの。
三紗生は来春の新作に目を付けた。これなら換金できる。身に着けたいからと、バッグや靴も合わせてすべて一着ずつもらえば、換金で目減りしても20万くらいにはいく。うまく売ればもっとなる。商売ものだからリサも嫌がらない。しかし、このところのリサは金の亡者なので、(新しいナムジャチング=三紗生の後釜に貢ぎたがっているのだ。)そのまま頼んでもすんなりくれるわけがない。
「デザイン画私にくれる?」
「えっ?」
「来春のデザイン画。よそに持っていけば高く売れるし、それに手土産にしたら新しい就職先見つかるかもだし。」
リサは嫌な顔をした。
「ラフスケッチなら。今描いてあげるよ。」
「私がスケッチもらって何ができるの?型紙におこしてあるスケッチがほしいの。」
「もう店頭ラインに乗せて、縫製もやってるって知ってるでしょ?」
「なら仕方ない。現物でいいわ。そんなに服があっても仕方ないけど、春の新作を全部一着ずつくれる?」
「チョアヨ。これだけあったらいくらでもおしゃれできるよ。新しい恋が見つかるかも。」
結局リサは機嫌よく新作の服を手放した。
三紗生は抜かりなく一番高いバッグと、二つあるアクセサリー類も一つずつもらった。ピンクのような人気色を出し渋るリサに、緑でいいと妥協するのも忘れなかった。代わりに引継ぎを行った。退職の手続きも、ちゃんとしてくれるか不安だったので、退職金の振り込みの手続きと、社会保険庁とハローワークに自分で知らせるための書類をすべて作成してから自分で行くつもりで、店用の紙袋をたくさん提げて店を出た。
店を一歩外に出て、「店長代理」の肩書を失ったと同時に、その服が全く価値のないものに思えてきた。本当は何もいらないといって飛び出してやりたかった。本当は今からでも、もらった紙袋をリサにたたきつけ、目の前で踏み破ってやりたかった。しかしそうしなかった。
三紗生は紙袋を持ち直して、とりあえず近いほうのハローワークから回ることにした。職をピックアップして、どれにするかを考えながら社会保険庁には3時ごろ行けばいい。間に合う間に合う。
そう思いながら、両腕に紙袋を抱えて、気が付くとハローワークとは逆方向の、駅前の遊歩道に足が向かっていた。ベンチに座ると、人目もはばからずわあわあと泣きだした。
リサブランドは三紗生が育てたと思っていたのに追い出された!
駅前でそれなりにおしゃれした若い女性が傷心丸出しで泣いているとどうなるか?
→答)ナンパ目的の男が寄ってくる。それも一目で避けたほうがいいようなみすぼらしい風体のお兄さんやおじさんが。お金で遊べる女性と遊ぶお金がないので、弱っている女性を探している。
ナンパ男を連続二人にらみつけてから、三紗生はさすがにここにいるのはまずいと思い始めた。
(どうしよう。家に帰ろうかな。でも帰りたくない。)
さすがの三紗生も、ちゃきちゃき予定を済ませて明日の職探しに前向きに取り組む気持ちになれなかった。いや、気持ちはあったのだが、足が動こうとしない。人恋しさのあまり、見え透いたナンパ男について行ってそのまま自分も漂流物になりそうだ。春の新作が重くなければ。
(友達。一緒に飲める友達。…誰か。誰か。このままだと見知らぬ男に連れてかれちゃうよ。)
三紗生は必至に携帯のメモリーを呼び出したが、メモリーには3件しか入っていなかった。責任感から仕事用の携帯を自分から返却してしまっていた。親しくしている取引先にグチって、一緒にリサの悪口を言うという手もあったのに。それくらいしたって、リサのデザインは人気があるから仕事が切られることはない。せいぜい内部情報として記憶にとどめておくくらいだろうから、「リサスプリング」が傷つくことはないはずだ。リサブランドは三紗生の子供だったから、こんな時でもつい気を回してしまう。ただ、どっちにしろ携帯はないから連絡はできない。
(姉さん…には連絡できない。心配させられない。妹…は仕事中。メールで知らせとこう。クビになったって。そしたら言わなくて済む。)
「キョウ…。」
やたら距離を詰めてくる若い男の顔が思い出されると、普段は警戒アラームが鳴るのだったが、指はその番号をタップしていた。提げた紙袋が重いという事情も大きく関わっている。キョウは女性の重そうな荷物を持ってくれる人である。
「えっ?リサの新作?…クビになった?ウェ?」
「新しいナムジャチング、知ってるでしょ?」
「韓国系企業から来た?韓国語で話さなくてもいいよ。俺日本語ちゃんと分かるし。日本人にも偏見ないしね。こんなに美人がいるんだから。」
「私はタンシンのそういうところが軽くて嫌なの。…焼き鳥追加していい?おごってくれるって言ったよね?」
「言った。言った。何でも頼んでいいよ。…それであのエリートっぽい男がどうした?」
「すみません。カルアミルク一つ。焼き鳥一つ。タンシンは?生ビール追加で。…あの男がリサスプリングをもっと大きくしてやるって言って、私が邪魔だって言ったんだ…と思う。」
「センガク?リサが言ったんじゃなく?」
「聞いたんじゃなく。でもあの男が私によくそう言ったの。でも本心では、在日の人を使いたかったんじゃないかと思う。自分とか?私がいないとその分お給料も増えるしね。」
「ふうん。ミサはいい子なのに。」
「チーズコロッケ追加してもいい?今日はこれ3つくらい食べたい。」
「泣かせるなあ。じゃんじゃん頼んでよ。いつも飲みに誘っても断ってばかりの君がさ。」
「ハングクサラムの悪口言ったから怒ってる?わたしハングクサラムに偏見もってるわけじゃないよ。」
「怒ってる風に見える?」
「あと、日本が昔したことも悪いと思ってるよ。」
この一言は必ず言っておかないと、しこりになるので、儀礼的に三紗生は言った。
「それにね。わたしハングクサラムと仕事するの好きなの。日本人よりカラッとしていて明るくて。こんな時でも前みたいなじめじめした辞め方じゃなかったし。」
「俺のことも好き?」
「ごめん。そういう話してない。やっぱり今日割り勘でいい?」
「アンドェ。男が払うよ。…で、今日はこの後どこに行く?俺のうちに来る?」
「ああ…。やっぱり割り勘でいい?それに今日は妹のところに泊まるから。」
「妹のところって、妹さん一緒に住んでるんじゃないの?」
「(まずい)…仕事が忙しくなったから駅の近くに部屋を借りたの。でも本当は妹のところに大部分荷物があるの。(妹に彼ができて連絡しないと泊まりに行けないことは黙ってないと。)」
「じゃ、君のうちに行こうよ。」
「今断ったでしょ。今日は飲むだけ。キョウとは飲むだけ。」
「ははは。別にそういうつもりで言ったんじゃないよ。荷物だけ君の家においてさ、それからやっぱり家に来なよ。大丈夫。家もたくさん家族がいるよ。何もしない。ミサに俺の家族を見てほしいんだ。俺、ミサには真剣なんだよ。」
「…そろそろお開きにしよっか。」
ミサは荷物を運んでくれるというキョウを強硬に断った。ふらつく足で自分で大荷物を持った。思った以上に心が弱っていることを、足を踏みしめるたびに感じた。
(こんな時に家に上げるわけにいかない。)
キョウは手ぶらのままついてきた。そして、何度も何もしない、家においでと言ったが、もちろん三紗生は無視してどんどん歩いた。そして、マンションの前でかっちりと「ついてきちゃダメ。」と宣言した。
薄暗い部屋の電気をつけて、また消した。明るくなると、自分の姿が見えてしまう。一人の家に帰ってきたという事が分かってしまうからだ。
(明日からどうしたらいいんだろう。私どうしたら。)
まだ若い。高卒だが資格もある。職歴もある。それもアパルトの店長職だ。他でもきっと仕事は見つかる。しかし精魂込めた仕事をクビになった、それも自分の落ち度とは全く関係のないところで(リサスプリングは、評判が上がって業績を伸ばしているところだった)無能だといわれたようで、三紗生は先のことが考えられなかった。
(ほかのことは明日でもいいけど、とりあえずお姉ちゃんに言わなきゃ。四兎子が短大を卒業していてよかった。もうそのお金はちゃんと払えたんだから。)
けれど携帯の番号がタップできない。3つしかない番号の2つはもう今日タップしているのに、これだけはできない。
どう話せば、自分には全く何の落ち度もなくて、むしろリサスプリングを成長させた陰の立役者で、屋台骨で、単にオーナーデザイナーが頭が空っぽだったから、三紗生の値打ちを理解できなかったと、愚痴にならずに説明できるだろう。姉はもちろん信じてくれるだろうが、大金を稼いで姉に楽をさせたかった、できれば足を洗わせたかったという希望は打ち砕かれてしまった。ひょっとしてこのまま無職なら、また姉に養ってもらうことになってしまう。罪悪感で、話す言葉が見つからない。
『私はどこにいるか知らせられないこともあるし、電話は最優先で出るつもりだけど、出られないことのほうが多いと思うわ。だけどそういう時でもお金さえあればなんとかなるから、これだけは常に持ってるのよ。下着とかに入れて。困ったときにはそれを使いなさい。私のところに泊まりたいと思ったら、節約とかしないで、ちゃんとしたホテルに泊まりなさい。これはそのためのお金だからね。他に遣っちゃだめよ。』
持ち歩くのはちょっと分厚過ぎたので、三紗生はその封筒を下着入れの中に隠していた。そのことを思い出して、真っ暗な部屋の中、窓の側に寄った。
何気なく外を見ると、街灯の下で、キョウが三紗生の部屋の方を見上げていた。
部屋を暗くしていたのでなければ気が付かなかっただろう。
カーテンの隙間をのぞこうと思わなければ気が付かなかっただろう。
しかし三紗生は部屋を暗くしていたし、たまたまタンスの近くに寄ろうとして、カーテンの隙間を何気なく見た。
なんでこいつ私の部屋の位置を知ってんだと思うより先に、カーテンを開けて手を振って、1時間後には用心を忘れてキョウの家に招かれ、イケメン5人に囲まれていた。
「兄弟って5人もいたの?それも男ばっかり?」
「いや、ナムドンセンじゃなく、韓国人の兄弟ではあるけど、本土からの留学生とか、家で引き取った親戚とかで。紹介するよ。…ヨドンセンはいるよ。」
まだ子供子供した中学生のリコを紹介されて、三紗生はだいぶ安心した。
何もしないというのは本当で、単に家庭料理に招きたかっただけのようだ。
オンマ手作りの韓国惣菜が、種類豊富に大テーブルに並べられ、小さなリコもかいがいしくスープを配って歩く。姉妹がそろっていた時の食卓を思い出して、心が和んだ。
「これ、リサスプリングの春の新作です。一着しかないんですが、オンマには若すぎますね。」
「まあ。キョウがずっと言ってたヨジャチングがやっと来たと思ったら、お土産までくれるの?カムサヘヨ。ここで働いてるんでしょ。」
「もう辞めました。」
「辞めた?じゃあ、キョウのところで働いてくれるのね?」
「え?」
「だってキョウを手伝うために辞めたんでしょ?」
「ムォル マルヘッシヨ?」
「キョウのデザインの方が私好きだわ。持ってくるわね。」
勢いよく消えたオンマの背中を見送り、三紗生はキョウの方を見て同じことを聞いた。
「ムォル マルヘヨ?」
「あれ?言ってなかったっけ。俺もデザイナーなんだ。やっと自分の服を作り始められたところでさ。でもブランドまで行ってないんだよ。型紙を何着かおこすところまでぐらいで。」
「聞いてない。」
「コレクションの発表会で会ったんじゃないか。あの時から君が好きだったよ。」
「…で、その時から一緒に暮らしてると。」
「いや。私も何でか疑問に思ってるよ。でも、ちょうどマンションの契約更新の時期だったし。引っ越しも手伝うって言ってくれるから。ほら、ここ、男手が6人もいるから。」
「私に紹介する前に一緒に住んだわけだ。前言ったよね。紹介する前に一線を越えちゃダメだって。私が調べてからでないと!」
「いや。今からでも遅くないよ。だって一緒に住んでるけど、ほんとに一線は越えてないから。」
「どうだか。」
「ほんとだって!」
「洗濯物までしてるのに?」
姉妹は大量の洗濯物を二人でたたんでいるところだった。
「男性が6人で、女性が3人だから、一日でもこの量なの。あと、買い物今日行っとかないと。キムチしかない。それでも何とかなるんだけど。」
「仕事があるんじゃないの?」
「昼に営業行ってきた。朝が一番大変なの。朝ごはんが一番豪華で、韓国式だから。夜ごはんが終わったら企画書作るから。銀行から融資がほしいの。」
「ふうん。」
「調べたいなら今から調べて。本当に私何でこんなことになってるのか、自分でもわからない。結婚するかどうかもまだ決めてないし、付き合っては…いるかな。」
「調べるから、ちゃんとした付き合いは、1週間は待って。」
オンマが野菜と包丁を抱えて、姉の一子に挨拶して通り過ぎていった。キムチを作るのだろう。
「あとお姉ちゃん、ノートパソコンとプリンター貸してくれない?」
「四兎子のところにあるでしょ?」
「壊したか、売ったかしたんだと思う。だってこの話になると話が進まないんだもん。企画書が作れない。」
「上げたお金、まだあるでしょ。ホテルに泊まったと思って必要なパソコン買いなさい。ここで泊まったおかげで、ホテルに泊まらなくて済んだんでしょ。お金はまた用意しておくから。」
「ありがと。」
「三紗生、幸せそうね。…でも早まらないでよ。」
結局そのお金は大家族の焼き肉に化けて、三紗生はネットカフェで夜なべして企画書を仕上げた。夜出歩くなとうるさく言ったキョウも、隣でデザイン画を描いていた。ブースを越えて、二人でキスをしながら企画書を仕上げたが、そんな甘い企画書でも、少額だったおかげか、2か月後、融資が下りた。
「オンニ、一週間って話じゃなかったの?」
「オンニって呼ばないで。私は日本人なんだから。」
「はあ。クーラーの利いてる部屋、生き返る!」
そう言いながら、三紗生は姉を観察した。1カ月半も音沙汰がなかったけれど、今日こそキョウとの交際を認めてくれるかどうかの返事をくれるはずだ。でも表情があまり良くない。いい話ではないのかもしれないし、多少くたびれてしまった三紗生のTシャツ姿をじっと見ているだけなのかもしれないし、隣にいるキョウを何とかして追い出そうとしているだけなのかもしれない。
「(もしも認めてもらえなかったら…それでも私はキョウと一緒にいたいんだろうか?駆け落ち?ってことになるのかなあ。)ここ姉さんのおごり?じゃあ、何か頼んでいい?」
「…私が払うわ。」
「俺も頼みます。ソーダフロート。三紗生は?」
「この話は三紗生と二人で話したいから、あなたは向こうに行ってくれる?」
「姉さん。私、キョウに隠し事はしないのよ。」
「いいよ。俺遠くの席にいるから。いい話ですよね?」
「私に払わせてね?何を頼んでくれてもいいわ。」
「(答えを避けた。じゃあ、やっぱり交際を認めてくれないんだろうか?)」
キョウは三紗生に向かってほほ笑んだ。そして、遠くに行くふりをして、話の聞こえる植え込みの陰に入って、三紗生に向かってウインクを送った。そしてソーダフロートをぱくついた。
「(まあ、姉さんの許可が出てからって待たせてるから当然よね。姉さんが悪口ばかり言うようなら…まあいいか。そのくらいケンチャナヨ。キョウは私の事大好きだし。)」
「今は何やってるの?」
「そんなことより、キョウの事は認めてくれるの?」
「…」
一子はお冷をがぶりと飲んだ。
「先にあなたたちが何の仕事をして食べてるのか聞きたい。」
「キョウのデザイン画を型紙におこして、メーカーに売ってるよ。」
「食べていけるの?」
「正直、大家族だし、食べていくのも難しい。下請けだからやっすいし。でも持ち家だし、それに独立の準備してるの。銀行から融資が下りたら、自社ブランドのロゴを作って、セレクトショップに卸していこうと思うの。あの人のデザインはすごくいいのよ。」
「パソコンはどうしたの?買ったの?」
「なんでそんなことばっかり聞くの?キョウの事調べたんじゃなかったの?」
「調べた。あなた以外の女性関係は今はない。
あのね。私は姉だから、嫌われても言わなければいけないから言う。調べる前からあの人には経済力がないってことは分かってた。たぶん家事能力も期待できない。それでいて大家族。…あなたが経済的に支えて、家事も全部引き受けて、お姑さんが死ぬまであの家で同居することになるってことなのよ。」
三紗生は電気代、ガス代、水道代と、当然のように自分のところに請求が回ってきたことを思い出した。このごろは買い物も彼女の仕事だ。ざあざあとシャワーを浴びる音がこんなにも憎たらしいとは思わなかった。水は節約してほしい。水道代の支払い請求が怖いから。このままいくとリコの授業料も自分が払うことになりそうだと踏んでいる。お金がどんどん足りなくなるから、そしてハンサムな男たちが毎日よく食べてくれるから、パソコン代に手を付けるしかなかったのだ。
「愛してるから。…女性関係はないんでしょ。」
「女性関係はない。だからあなたにそれができそうだと思ったら認める。苦労するのは三紗生だから。彼にはデザインの才能はあるのね?私はデザインの良し悪しはさっぱりわからないのよ。」
「私だってわからない。こういうのは好みだから。だけど、あの人は確かに才能があるよ。これでもセレクトショップの店長代理だったんだから、売れるデザインかどうか位は分かる。」
「それよ。あなたがその彼のデザインをお金に換えられるようなら、応援する。そうでなければしない。2週間で30万、作ってみて。それができたら見込みがある。別にできなくても、あなたがやってみたいって言うのなら、止めないわ。」
三紗生は考えた。こんな風に丸投げするより、はっきり止めるか、進めるかしてほしかった。正直、姉が泣いて止めてくれるなら、胸を張り裂けさせながらキョウを振り捨てるのもありだった。今の話を聞いて、ちょっと自信がなくなりつつあった。
「韓国人ってことはいいの?」
「チェイルでしょ?文化ギャップないじゃない。それに、私が思うに、韓国系の人の服のデザインは素晴らしいわ。あなたの彼に才能があるのも、血に流れてるのかもね。純粋な韓国人でしょ。」
「(その通りです。オンマからいつも、「ミサがハングクサラムだったらよかったんだけど」って言われてます。)
なんで2週間で30万?その金額の根拠は?」
「あなたのところにいる専門学校生の授業料の支払日が近づいているから。30万じゃとっても足りないけど。それくらい用意できなきゃね。」
「…知らなかった。」
「あなたから見て、彼の服のデザインは、どんな層に向いてるの?」
「それ聞いてどうするの?」
姉は書類カバンから透明ホルダーに入った書類を取り出した。
「高級服飾店に出入りするお金持ちのリスト。オートクチュールのね。年齢層が高いのなら、奥様の方、低いのなら、娘さんの方に営業かけてみるといいわ。そのリストに載っている人は、一点もののデザインなら10万くらい出して買ってくれるはず。5人に売れればいい生地を使っても30万いくでしょう?
別の方法があるなら、それでやってもいいけど。」
「姉さん。なんでこんなもの用意してくれたの?いるって言ってないのに。」
「たまたま機会があったのよ。その場で買わないといけなくて、だから買ったの。それでだめならあなた水商売することになるわよ。もうすぐ支払日なんだから。」
「あなたに指図される覚えはない。」
「キョウ…。」
いつの間にかキョウが隣に立っていた。いつも着ている、デザイナーの証のような黒ジャケットに黒パンツが、今日は殺し屋のように見えた。キョウは怒っている。三紗生にはそれが分かった。
「あなたは僕が韓国人だから嫌いなんだ。」
「違います。」
「みんな別の理由を言うけど、本音はそうなんだ。」
「(いや、今のはどう聞いても経済力を問題にしてたけど…)」
「支払日の事なんで知ってるんですか?」
「…。」
「三紗生に苦労をかけるつもりはない。俺が何とかする。水商売なんてさせるくらいなら、俺が働く。リオンにも学校をやめてもらう。」
三紗生は、キョウの側にいて、キョウの怒りを感じた。そして、愛も感じた。姉に列挙されて怖気づいたが、この2カ月、確かに家事も支払いも引き受けてきたが、キョウがいつもそれ以上に愛してくれているという確信があったので、止まろうと思えなかったのだ。
心の中の冷静ミサオが言った。
『学校辞めてもらうって言っても、きっと私が出すことになるよ。水商売はしないだろうけど、借金とか。銀行に借りられる融資が、そっちに流れたりしてね。』
しかし同じく心の中の情熱ミサオが、冷静ミサオをけとばして追い出した。
三紗生は顧客リストのホルダーをテーブルからとると、それをキョウに渡した。
「オンニ、ケンチャナヨ。30万、作れるから心配しないで。」
「皆さんお金持ちだけど無料がお好きなようだから、友人を紹介してもらったら無料で何か作って差し上げるといいと思うわ。そういうやり方があるらしいわよ。」
姉はやっときた紅茶を飲みながら、気がついてキョウの握りしめている注文票を抜き取った。
「ああ、帰る前にこれ。」
「何?」
三紗生はお金ではないかと期待した。
「母からの。売れるわよ。」
中身は古い真珠のブローチだった。
(姉さんと会ったのは失敗だった。)
三紗生は手持無沙汰で自分にもらった部屋でうろうろした。心が不安でいっぱいだ。昨日までは同じ状況でももう少し幸せだったと思う。
きっとキョウも認めてもらえると思って期待していただろう。
だけど姉に認めてもらわないことには、踏ん切りがつかない。なんといっても、中学から高校卒業まで、面倒を見てくれた姉なのだ。いろいろと変わってはいるし秘密も多いかもしれないが、三紗生の事は溺愛してくれていると思っていた。それを裏切れない。
(だけど2週間で30万?…最悪消費者金融から借りて用意することもできるけど。何かばれたら本気で反対されそうな気がする。)
その時居間からキョウが呼ぶ声がした。
食事が終わって人少なである。みんな自室に引っ込んで思い思いに過ごしている。だから二人っきりと言えなくもなかった。いつ誰が入ってくるかわからなかったけれど。
「ほら。イゴッ。」
「何?」
「ロゴ作ってみた。いいだろ?」
色鉛筆が散らばる中に、黒い四角い意匠文字がいくつも書かれていた。ハングルだ。
韓国系だと風当たりが強い、と言いたくなる以上に、美しかった。これがかばんや服に柄としてついていたらとてもステキだろう。やはりキョウは才能があった。
「ほら。この住所に送るダイレクトメールを、このロゴをつけて送ろうと思ったんだ。」
「デザイナーに依頼してたんじゃなかった?」
「気に入ったのが出てこなかった。とりあえず会社の名前とロゴだけ決めるから。そしたら、仕事が始められるだろう?名刺だって作れる。」
ちゃんと登記して、会社を設立してからでないと、税金がかかるということを、三紗生は思い出していた。今は個人事業主だが、ロゴまで作るとなると、ちょっと違ってくる。早く設立しなければならない。それは三紗生がやらなければならないという事だ。この家のどこを見回してもほかにやってくれる人はいない。
「これか、これ。チョア?こっちは俺の名前。「キョウ」。こっちは俺の名前と三紗生の名前を半音ずつとって、「キミ」。」
「キミ…『君』」
「ダイレクトメールのデザインはこう。かっこいいだろ。」
「そうね。(読み込むにはスキャナーがいるけどどうやって借りよう。それと印刷も、どうやってやろうか…。)」
「ブランド名は…今考えてるんだけど。ほら、初めて会った時、君、俺の事なんてった?」
「何だっけ…。(会社登記とスキャナーと印刷とそれからダイレクトメールと…ああ肝心の営業!何をどう売ったら…)」
キスで引き戻された。
「俺の事カラスみたいだって言っただろ?だからカラスを入れた名前にしようと思うんだ。…二人で考えようよ。」
「ねえ。もちろんそれも考えるんだけど、キョウには会社を作った知り合いいないの?今ものすごく相談できる相手がほしいの。」
「…リサ?」
「他は?」
「リサの恋人が韓国のエリートだって…。」
「あの、私をクビにしてない人がいいな。(それにあの人たち全く経営できてないじゃない。)」
その時来客があって、話は中断したが、来たのは全く身に覚えのない借金取りだった。よく聞くと銀行の人でも何でもなかったので、一円も払わないと粘って帰ってもらった後、さらに1時間後、キョウの問い詰めにより、リオンその他一名が借金取りに追われていることが判明した。キョウが「ヒョンジェの借金は心配いらない。」とはっきり言ったために、新会社のハードルはさらに高くなった。
それでも三紗生は出ていく気になれなかった。キョウがいる限り。キョウの強い愛情がある限り。
朝になったときに三紗生は決心した。腹をくくった。
出ていけないのなら、稼ぐしかない。リオンの学費、半期50万、そしてリオンとシンの消費者金融からの借金、35万、リコの学費、男性6人、女3人の生活費。すべて稼ぐしかない。それをすべて稼ぐには、キョウのデザインをお金にするしかない。会社を興す。そして手っ取り早く当座のお金を稼ぎ、営業も兼ねるため、このリストに売り歩く。ダイレクトメール?手書きで書けばいいのだ。心もこもるというものだ。スキャナー?芋判がある。
腹をくくるといろいろなものが見えてきた。たとえば家の中でうろうろしていて食費ばっかりかかると思っていたイケメン5名だが、そのままただ働きの社員になるではないか。キョウのデザインの縫製やアイロンかけを手伝わせよう。営業部員になり得る。切手代もないので、この際手持ちで行ってもらおう。制服?デザイン?すべて自家生産可能だ。
三紗生はまず、経営に専念するところをオモニに丁寧に説明したが、「食事は嫁の仕事だ」という返事が返ってきた。今は経営の方が重要なことなので、「まだ嫁ではない」とスルーすることにした。
キョウがミシンを拒否したので(彼はデザインしかやらなかった)、三紗生がミシンを踏み、ヒョンジェたちに教えるところから始めた。
三紗生は白菜を刻んでキムチを作りながら、スープの味見をした。三紗生の料理を、キョウは気に入ってくれているが、韓国料理でないからと、オモニがいつも渋い顔をする。ひょっとしたら韓国料理を作っても何か理由を探して渋い顔をするのではないかと思うが、とにかく今はなるべく韓国料理を作るようにネットでレシピを検索しつつ頑張っている。
そうしながらも耳は居間の方に向けられていた。
リサが来て、キョウと話をしているのだ。このところ毎日来ている。借金の申し込みのため。三紗生が絶対にダメだときっぱり言っているので、キョウは断っている。が、それでも何度も来る。家に来ると、「オサチョンドンセンなのに。」と言ってオモニが渋い顔をするので、上げないわけにはいかない。しかし上げても絶対お金など貸すわけにいかない。「キミ―」は軌道に乗り始めてやっと借金を返し終わり、今後の展開に向けてお金を貯え始めたばかりだったし、大所帯で出費が多くてなかなかお金はたまらなかったし、何よりおなかに子供がいた。この状況で、返す能力絶対皆無とわかっているリサに、お金を貸すわけにいかない。そのことはキョウも納得してくれていた。というより、子供ができてからというもの、彼はすべてにつけて三紗生の言いなりだった。
三紗生は女だったし、この家の中の序列からも、昔クビにされた因縁からも、リサには一度も会わなかったが、正直に言うと、リサが自分を探して家の中を駆けずり回り、土下座して謝って、借金の懇願をしてくれないかなあと思っていた。
(考えてみれば昔は結構ひどいことされていたのよね。
サービス残業当たり前だったし。偉そうに言われたのも…。
ずいぶん傷ついたけど、目の前で泣いて頼んでくれたら、30万くらいなら渡さなくもないわ。昔の人脈も欲しいし、リサを下請けとして使うこともできるし。でもリサって型起こししないから、型起こししてくれたサリィの連絡先の方がぜひ欲しいんだけど。サリィ今何してるかな。)
復讐は蜜よりも甘いというが、リサが泣きながら謝る姿を思い浮かべると、(我ながらひどいとは思いつつ)うれしくて仕方ない。
しかし、リサとキョウは緊張した様子で小声で、しかもオール韓国語でぼそぼそと早口でしゃべるばかりで、リサが三紗生にとりなしを頼みに来ることは一度もなかった。
「リサ帰った?」
「うん。」
キョウは少し沈んでいた。
「やっぱり借金だった?」
「ちゃんと断ったよ。もう来ない。」
「もう来ない?何があったの?」
「保証人になったから、あとはリサが自分で何とかするよ。」
「『保証人になった?』」
三紗生は安定期に入っているおなかの子供が流産しかねないほどの衝撃を感じた。
「『保証人になった?』」
「リサも銀行がお金を貸してくれないから、来季の仕入れもできないのだと嘆いてたから。」
「『保証人』って借金の保証人?」
「うん。」
「いくらの?」
「知らない。」
「『知らない』?」
「500万くらいかな?さあ、あんまり作業すると、アガに障るよ。三紗生は休んで休んで。これはオンマかリコに任せればいいよ。」
三紗生は強靭な精神力により発狂を抑えた。
「今すぐ追いかけて、保証人の証書を取り返してきて。」
「え?」
キョウは男の顔を傷つけられた時の頑固な怒りを少し見せた。
「俺が決めた。名前を貸しただけだ。三紗生は気にしなくていい。」
「今すぐ取り返して。これは子供にもかかわる問題よ。」
キョウはすねて返事をせずに部屋に引っ込もうとした。三紗生はそれですませようとしなかった。
「銀行はどこの?」
「銀行っていうか、金融業者だよ。」
「絶対よくない。私が行く。今帰ったばかりだよね。リサの連絡先教えて。GPSで追うから。いや、私のだと警戒されるから、キョウの携帯を貸して。」
「そんなに動いたらおなかに障るよ。」
「これを放置するほうがお腹に障る!お腹のアガのお金を取られようとしてるのよ!」
「大丈夫だ。リサは才能がある。これを乗り越えればちゃんとお金を返すよ。」
「才能は有るけど絶対返さない!うちが返すことになるのよ!」
「わかったからそう興奮しないで。大丈夫。リサはサチョンドンセンなんだ。裏切ったりしないよ。」
誠実なキョウの優しさに思わずほだされそうになったが、2年リサとともに働いてクビにされた経験が、「リサは絶対お金を返せない」という確信をくれた。
「私が行く。」
「待った。俺がサインしたんだ。俺が決めた。」
「ヨボ、私とリサとどっちが大事?いや、そうじゃない。ヒョンジェやリコちゃんやオモニや、生まれてくる子供よりもリサが大事?あなたがやってるのはそういう事よ。リサスプリングは私がいたときは経営に何の問題もなかった。キャッシュフローもあった。何か原因があったから、経営が行き詰って、たぶんその原因は解決できてないのに、お金を借りてるのよ。リサのナムジャチングのせいでしょ?」
「彼は韓国に帰ったそうだ。」
「今取り返してくれないなら、私はキョウとはやっていけない。あなたサチョンドンセンの方が家族より大事なの?」
「サチョンドンセンだって家族だよ。でも君の方が大事だ。…本当のことを言う。リサに脅されたんだ。俺たち昔付き合っていたことがあって、その時のことを君に話すといわれたんだ。名前を貸すだけで…。」
「それだけ?たったそれだけ?そんなのいくらでも話をしてくれていいから、今すぐとりかえしてきて!リオン!ヒョウ!とにかくいる人は総出でリサを探して連れ戻して!」
二人のブランド、訪問制オートクチュール「キミィ」には、そのような経緯により既製服部門「スウィート・キミィ」ができた。借金の肩代わりをする代わりに、「リサ・スプリング」を吸収合併することに落ち着いたのである。リサはほかにもある金融業者の借金の返済を逃れて韓国へと国外逃亡した。向こうからデザイン画をメールで送り、下請けとして働いてもらうことになった。そして三紗生とキョウは、少しも考えていなかった、あるいは10年後くらいなら、と考えていた、ブランド進出を果たした。
今日は二人で店の改装工事を見に来たのである。改装工事と言っても「リサ・スプリング」の看板をかけ替えて壁紙を張り替えるだけで、あとは店の商品の入れ替えである。
すでに家の男手たちが各自の女性たちを引き連れて作業に当たっていて、すぐに片付くだろう。イケメンたちにはそれぞれ恋人か姉妹がついていて、今では彼女たちが縫製を行っている。グローバル企業の逆をいく完全家内工業である。
(食事を準備しなきゃ。お昼過ぎに寿司の出前を取るか。いや、店を汚すといけないから、近所のお寿司屋さんに行くか。貸し切りがいいな。安いところあったはず。)
算段をしながら携帯をタップする三紗生の隣を、一瞬も離れたくないというようにキョウが付き添っている。
「三紗生、お寿司はよくない。もっと温かいものにしよう。中華とか。」
「キョウ。カムサヘヨ。大好きよ。…でも私にくっついているより、デザイン画一枚でも多く仕上げてくれないかな。稼いでくれてるオートクチュールの手は抜けないし、今までよりデザイン画がいるの。型起こしはやってくれる人見つかったから。」
キョウはくつくつと笑った。
「あの時君おかしかったよね。『昔付き合っていた事なんていくら話してくれてもいいから証文を取り返してきて!』って。そんなに俺のことが信じられるんだな。」
「聞いてくれてる?子供のためにも絶対にこの店を…」
「ヌナ!その話なら、俺もデザイン画描いてみたんだ。後で見てくれないか?」
「ヒョウ、後で見る。(厄介なことになったなあ。身内じゃ断りづらいし。)」
「ヒョウ、デザイン画は俺が見てやる。三紗生に心労をかけるんじゃない。」
「子供たち!お昼持ってきたわよ!キムパㇷ゚!」
「オモニㇺ、カムサハムニダ。(しまった店が汚れかねない。)…この保護シート敷いた上にみんな座って。お茶を淹れるわ。」
「オモニ。三紗生は疲れてるんだ。お茶、誰かチャルル クルヒルカチョ。」
母親は三紗生に寄り添う息子に険悪な目を向けながら、大家族のお昼が過ぎていく。姑の殺気立った視線に耐えながら、また、借金を負って見切り発車に近い形で発足したブランドの今後を案じながら、それでも三紗生は、いつまでもこんな時が続けばいいと思った。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!
カラス男 白居ミク @shiroi_miku
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