【お題】君の涙の粒を集めて
Lachrymatory
流れ落ちる一粒の雫、俺はそれを集め続けていた。透き通った小さな水晶を小さな瓶に入れて眺めていれば、欠けた何かがわかるかもしれない、そんな一心で。
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それは「涙壺」といった。俺の育ての親であるハイエルフが作った色とりどりの硝子の小さな瓶、大人の中指ほどの長さで片手で握るのに最適。俺は瓶の首に紐をかけ首から下げていた。
俺に雫を集めることを課したのも育ての親のハイエルフだった。彼は俺に四つの約束を守って雫を集めるように言ってきた。
ひとつ、同じ瓶に違う雫をいれないこと
ひとつ、雫を慈しみ捨てないこと
ひとつ、雫を得た時の出来事、
人の振る舞いを忘れないこと
ひとつ、感想は持てど、批判はしないこと
これを守ることができたならば、俺に欠けたものを教えると、彼は言った。正直面倒だったが、自分に欠けているものが何か知りたい一心で俺は雫を集めることを決めて幼馴染みと共に故郷を出た。幼馴染みの彼もまた俺のようにあるものを集めるように言われているようで、双方欠けた何かを知るためのさすらいの旅に出ることになった。
雫を得るための方法も知らずに……。
一番最初にとった雫は幼馴染みのものだった。眠たそうにあくびをした時に目尻からこぼれたそれを鼈甲色の半透明の「涙壺」に頂戴した。幼馴染みはそれを見て、何かわかったかい、と聞いてきたがさっぱりだ。わかるのは雫の一滴はとてもとても少ないことだけだ。
次にとった雫は町の少女のもの。偶然道に飛び出していた木の根に躓いて転んだ。その時こぼれたそれを緑色の透き通った「涙壺」に頂戴した。幼馴染みが、痛そうだねぇ、かわいそうに、と言うのを聞いて自分が転んだ時のことを思い出した。そうか、あれが「痛い」というのか。
その次にとったのは同じ年頃の少年。彼は全身真っ黒の服を纏って十字のペンダントを固く握りしめていた。唇を噛み締めた彼の頬を伝い落ちるそれを纏った服と同じ漆黒の「涙壺」に頂戴した。幼馴染みはその少年の目の前で埋葬されていく小さな箱に視線を落としたまま一言も口にしなかった。
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俺は感情というものがよくわからない。どうやら情緒というものが欠けているらしい。幼馴染みのコロコロと変わる百面相を見ていると、鉄面皮の俺の表情が余計に際立っているように感じた。しかし、こんな幼馴染みにも何か欠けたところがあるのだと言う。だから、彼もあるものを求めて俺とさすらっているのだ。
俺たちには欠けたものが多いらしい。だが、欠けたものを得るために焦ってはいけないよ、とハイエルフには言われた。少しずつ思い出せばいい、少しずつ取り戻せばいいから、と。
あれから何年か経ったが、俺たちはまださすらっている。それは新たな使命を果たすためではあったが、俺は雫を幼馴染みは何かを、ずっと集め続けるであろう。
幻想奇譚 朱鳥 蒼樹 @Soju_Akamitori
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