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男とはその後、出前の寿司を食べ、酒を飲んだ。都会の話をし、互いの妻の話をした。わたしたちはもうすっかり打ち解けていた。
彼の家を辞したのは午後七時を回った頃だった。稜線に溶けゆく太陽が畑や民家の壁を茜色に染め上げていく。日中は残暑が厳しいものの、夜の空気は少しだけ涼しくなっていた。秋が近い。この一帯の田んぼは金色に染まるだろう。山の木々は立派な紅葉を見せるだろう。幼い頃、幾度となく見てきたはずの光景が不意に懐かしくなった。
足取りも軽く、家の敷地に足を踏み入れる。その瞬間だった。
ざく、ざく……
耳を疑った。驚きとともに音の出所を探す。家の裏手に回り込むと、あの男の子を見つけた。むかしささやかな家庭菜園があった場所だ。こちらに背を向けているが、いつものリュックと帽子を身に着けているのでわかる。
「やあ」
声をかけながら男の子に近づいていった。男の子が振り向く。はじめて出会ったとき、わたしはこの顔に見覚えがあると思った。いまなら、それが誰だかわかる。
息子だ。
「何をしてるんだい」
「骨を探しているんだ」男の子は言った。「僕の骨を」
骨 戸松秋茄子 @Tomatsu_A_Tick
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