第19羽 部屋の中身は何でしょね?

 暗い大穴の中を歩いて行く。

 ゆったりしたいくつもの曲がり角があり、体感的には、降りて行っているようなのだけれど、傾斜が緩いせいかあまり自信がない。

 まぁ、登ってはいないと思う。


「いつまで続くのかな……」

 つい小さな声で独り言をつぶやく。

 分岐がなくて一本道なのもあり、

 飽きて……、いやいや、集中力が途切れてくる。


 桔梗たちは無口だ。

 もくもくと進んで行く。

 集中力が途切れていないのは、さすがだ、警戒をしつつ先に進んで行く。


 灯りを灯しながら先頭を歩いていた桔梗が、不意に立ち止まると、手を上げて私たちを止める。


「……何か音がする」

 私たちの方に振り向き、長い耳をピクピクとさせながら、桔梗がつぶやくと、椿や杏も聞き耳を立て、無言でうなずいて見せている。

 流石にうさちゃんたちの耳には敵わないのか、私には聞こえてこない。

 何かちょっと悔しいです。


 緊張しながら慎重に、ゆっくりと進みだす。


 しばらく進むと通路の脇に、大きな扉が現れた。

 丸太で組んだ、雑な作りな大きな両開きの扉。


「変だね」

 私は扉の前に立って、首を捻る。

 だって、今まで扉なんて無かったし。

 それに、私が見たところだけど、特に鍵とか術とか掛かっていないようだし。


「開けてみるしかないかな?」

 桔梗の声を潜めたつぶやきに、私はうなずいて並ぶように扉の前に立つ。

 取手のような物も無いので、取り敢えず力一杯押してみると、ギシッと音を立て……。


 ポフポフポフ。


 私の両脇に居る胡桃と椿が、頭をブンブンと振りながら、私を叩いてくる。

 あ、押開きじゃなくて、引っ張るのかな?

 今度は、適当な所を持って、思いっきり引っ張ってみると、ミシッと音を立て……。


 ポフポフポフポフポフ。


 今度は五羽全員にポフポフされました。


 何故、解せぬ、扉も開かないし。

 あれか、合言葉とかか?!

 とか考えていると、桔梗と杏が両手で開くような仕草をしている。

 あー、引き戸の両開き? って言うのかな? 障子や襖みたいな。


 軽くうなずいて、両腕に力を込め扉を広げてみると、予想に反して音も無く開いていく。

 ギギギとかゴゴゴとか音がすると思ってた。

 何かちょっと悔しいです。


 人が一人通れるくらい開き、暗い部屋の中から衣擦れのような微かな音が聞こえている。

 何か居ることは確かなんだけど、目を凝らしても暗くてなんにも見えない

 扉を少し開けたから、中に居る何かも気が付いてないわけない、と……思うんだけどなぁ。


 うさちゃんたちも扉の隙間を覗きこんでくる。

 私の頭が一番上で、団子何とかみたいになってるけど。


 桔梗が光の玉を、すっと中に投げ入れると、部屋の中を漂い天井に向かって行く。


「あ……」

 灯りに照らしだされた部屋の中を見て、息を飲んだ。


 人が居る。

 何人も。

 地べたに座り込み、布地を手に取り、何か……、おそらく何かを縫い合わせているのか、皆手を動かしている。


 私の頬に熱いものが流れて、目が霞む。

 一番近くに居る着物を着た人影に歩いて行き、針仕事をしているその手を握りしめる。


「もう、いいの……、こんな事もうしなくていいんだよ」

 ぽたぽたと握りしめた手の甲に、私の涙か落ち、やっと言葉を絞りだした。


 人影の正体、彼女たちは桑に連れ去られた女の子たちだ。

 服装もバラバラ

 私が握っている手は、まるで枯れ枝のようになっているし、それに顔は……、彼女たちの目は……。


「……帰れるの?」

 細く掠れた声。

「帰れる……」

「とと様かか様……」

 彼女たちはてを止めて、声を絞り出している。


「莉乃」

 私の後ろから、桔梗が声をかけてきた。

 私はうなずいて、桔梗たちの後ろに下がる。


 シャン!

 神楽鈴の清んだ音が響き、五羽の兎巫女たちが舞い踊る。


「遠神能看可給」(遠つ御祖みおやの神、御照覧ましませ)

「遠神笑美給」(遠つ御祖の神、ほほえみ給え)

「祓え給い、清め給え、神かむながら守り給い、幸さきわえ給え」


 シャンシャン!

 五羽の兎巫女の声が響く。 

 清んだ鈴の音が響く。


 クワに拐われ、閉じ込められた彼女たちの身体が淡く光ると、その光がフワリフワリと浮き上がり消えていく。


 私は、その様子を手を握りしめ無言で見つめている。

 胸の奥がキュッと苦しい。

 彼女たちへの同情なんて、おこがましいのかもしれない。


 最後の光が消えていくと、桔梗たちが私の所に歩いてきた。

「送り終わったよ」

「兎神様の所にいったのです」

「梨乃がクワの力を吹き飛ばしてくれたからね」

 顔を見合わせ、うんうんと頷きながら、桔梗たちが私に話してくる。


「みんなお父さんとお母さんの所に行けるのかな?」

 私が小声でつぶやくと、桔梗たちは皆でうなずいてくれた。

 目を閉じ、胸の合わせをギュッと掴む。


「莉乃」

 桔梗が優しく諭すように、私に声をかける。

「気持ちはわかるけど、憎んでは駄目、それは桑の思う壺だよ」

 大きく息を吸い、ゆっくりとはくと、ニッと笑って見せる。

「大丈夫、落ち着いたよ」


 両の脚に力がこもる。

「さぁ、行こう! 馬鹿魔王をお仕置きしないとね!」



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山でモフモフに会ったら異世界入り?! 私、普通のJKなんですけどぉー?! 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

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