〇21:50


 3536g、52.5cmの男の子誕生。


 2回いきんでもう1回と頭を戻したら、「前を見て!」と言われた。その瞬間、痛熱いのがなくなって、中から滝のようにあたたかい羊水が出て、肩そして足という感覚を残して「つるり ぬめり」と赤ちゃんが出てきた。この後、痛みはなくスッキリ。涙は出なかったけど、嬉しかった。


 チビには、ヘソの尾がタスキがけのようにかかっていたらしい。本当に無事でよかった。すぐ顔が見たかったが、チビがウンチをしていたこともあり見れず。カンガルーケアもすぐ出来ると思っていたら、チビが少し大きいので低血糖? かのチェックでまだこないし、切れた&切った傷をぬうのが本当に痛かった。涙。


 傷をぬい終わって(40分くらい?)、やっとチビとご対面。胸に乗っけられたチビは、本当にぬくぬくしていて、少し生臭くって、こわれそうなほどミニチュアサイズだった。


 これがお腹の中にいたんだ……と、まだ実感わかず。手足の大きさ&指の長さにびっくり。とくに手の爪がのびていて痛い。胸の上で、おっぱいを探していたけど、こわくて動かせなかった。


 その後、ガクもカンガルーケアをさせてもらっていた。私は分娩台の上で、あったかくて、幸せで、本当の幸福ってこういう時なんだなあ……と感じていた。その後おき上がるも、貧血で歩けず、ふがいないね……。ガクは1時過ぎに家に帰され、私はベッドへ。2時、4時にも起こされ、パット交換。


 本当にいろいろあった一日だった。


 ▼

 日付が変わっていたのであった。暗闇が辺りを塗り込めていっている。


 久我は長かったのか短かったか分からない不思議な時間を思い返すのであった。


 自分が初めて見た初めての子は、しわしわだったが、確かに自分の胸の上で温かくうごめいていた。こちらを向いた、と、目と目が合った、と、錯覚かも知れないがそう感じた。


 しっかりしなくちゃなあ、と、またも曖昧に自分に言い聞かせる久我なのであった。


 空の高くの暗闇に、宅配ピザ屋の赤青の照明が吸い込まれていく。その上にひときわ大きな恒星と、その脇にぼんやり見える小さな星の瞬きを、その瞬間、久我は確かに視認したのであった。


(僕はあの子という小さな衛星を、どんと構えて見守りつづける星のひとつ)


 またしても柄にも無く、詩的なことを思う久我であった。


 よぉぉし、明日からまた、課長にねちねち言われる作業に戻るぞぉ~、そして定時ダッシュで病院に向かう、と、成長する意識は極めて低いモチベーションで、軽やかに歩き始める。


 その頭上に、確かに光るひとつの光点。



(終)


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エウロパ2009 gaction9969 @gaction9969

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