若葉

 目を開けると、カーテンの隙間から光が漏れている。気が付いたらもう朝になっていたらしい。気分的に目覚めはいいが、なんだか今日はよく眠れなかった気がする。


 もう少し眠ろうかと寝返りを打とうとすると、横に何かがいるのを感じた。

「あら、ニュクス。おかえりなさい」

 いつの間にかベッドに潜り込んだその猫は、体を丸めてけだるそうにあくびをしている。

「毎晩、お仕事お疲れ様ね」

 つややかな毛並みをした体を撫でると、喜んだ猫は喉を鳴らす。いつもと変わらないその表情に、思わず笑みがこぼれる。

「あなたが望んだとおりにしたわよ?」

 猫は返事をするように、しっぽの先を小さく振って答えた。


 ベッドから降りて、まだ眠そうな猫に声をかける。

「じゃあ、私は起きるわね」

 チラリとこちらを見て「みゃあ」と鳴いた猫は、眠りにつく。


 ここ数ヶ月は、毎日お客さんが来てくれるから、なかなか忙しい。祖父母の味を引き継ぐ以外にも、新メニューを考案するなど、毎日が試行錯誤の連続だ。嬉しい悲鳴とはこういうことを言うのだろう。


 電源を入れたラジオからは、陽気な音楽が流れている。

「あの子、いつ来てくれるかしら」

 そう思いながら、扉を開ける。緑が朝日にあたってきらきらと輝いている。


 昨日の大雨が、まるで嘘みたい。

「ほんと、嘘みたいよね」

 こらえられず思い出し笑いをして、海を眺める。いつもとは、少しだけ変わって見える景色に、背伸びをする。

 素敵な秘密の共有は、いつだって少しのドキドキと嬉しさを感じさせてくれる。


「夏が来る前に、大仕事が待ってるわよ」


 自分に喝を入れて、腕まくりをした私は、開店準備を始めるのだった。

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夕やけソーダ 佐倉 青 @sakuraao

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