大地のもとへ
遠い昔、この地球上には頭のいい二つ目の生物が溢れていた。二足歩行をして毛を持たないその生物たちは非力ながらも知性を発達させ、この地球上で爆発的に増えていく。
彼らの知性は彼らの数に比例して増えていき、ついには地球全体を覆いつくしていった。そうして、住処が狭くなった彼らはお互いに争い合う。
彼らの知性は、彼ら自身と彼らを抱く母なる地球を蝕むほどに肥大化していた。そうして、核という強力な殺傷兵器が世界中にばらまかれる。彼らは、彼らの知性によって生み出した兵器により、滅びの道を辿ったのだ。
生き残った彼らは、自分たちがこの地球上にいることをひどく恥じ、自分たち自身の絶滅を強く願った。同時に彼らは、この母なる地球が息を吹き替えることを切実に願ったのだ。
自らの知性によって、この母なる大地を復活させる。汚染されていない地下深くに彼らは研究所を設け、自分たちが絶滅した後もその仕事を引き継ぐ生物たちを数多く生み出した。
その存在に、彼らは自分たちの最も身近にいた愛玩動物を利用したのだ。それと同時に、彼らは自分たちの想いを、自分たちの遺伝子を引き継ぐ一つ目の新たな人類に託した。
聖堂を覆っていた光が去り、厳かな音をたてながら聖堂の壁が開かれていく。柔らかな太陽の輝きがミケネコと一つ目を満たし、彼らの上を美しい青空が覆っていく。
開かれた聖堂の向こう側には、緑が広がっていた。緑に覆われた二つ目たちの都市が広がっていた。
彼らの知性は、長い時をかけて母なる大地を蘇らせたのだ。
その大地に、彼らは自分たちの仕事を引き継いだ新たな生き物たちが立つことを望んだ。その望み通り、ミケネコと一つ目はここにいる。
「これが、
一つ目を抱き寄せ、ミケネコはじっと眼前に広がる緑に見入る。一つ目の眼と同じ、緑色の大地がどこまでも際限なく続いていた。
その最果てには、真っ青な海が広がっている。
「僕たち、帰ってきたんだね。自然に……。僕たちのいるべき場所に」
ミケネコの言葉に、一つ目は答えない。彼女は静かに目を瞑っている。
そっとミケネコは目を瞑る。
とくとくとくとくとくとく。
聴こえてくるのは、生き急いでいるような自分の心音だ。冷たい一つ目の体からゆったりとした鼓動は聴こえてこない。
そっとミケネコは目を開ける。
風が吹いて、穏やかな草の香りがミケネコの鼻腔を満たす。草がささやくようにこすれ合う音が、妙に心地よい。
あぁ、ここに一つ目はいるんだとミケネコは分かった。彼女は小さな体を離れ、自然のもとへと還っていったのだ。そうしてずっと、自分を見守り続けてくれるだろう。
冷たくなったミケネコの体を柔らかな新緑の上に横たえる。にゃあっと勢いよく鳴いて、ミケネコは四本足で大地を駆けた。
芸術奇形街 猫目 青 @namakemono
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