同作者の作品、
「あの海に落ちた月に触れる」
「眠る少女」
の次に本作を読ませていただきました。
前作それぞれの登場人物が多数登場し、絡み合ったり意外な面を見せたり…と、作品の枠を超えて楽しめる、「岩田屋町」青春群像劇の中の一作です。
登場人物は多数いるんですが、それぞれが他者との関わりや自分自身に向き合って進んでいく方向が、互いに織りあって大きな物語を形成していく様が、実に凄いんです。
「ここでそう絡んでくるのか!」と、嬉しい驚きを何度も味わえます。
本作の主人公は、「あの海〜」でも主人公だった少年、行人。
まだ中学生だった彼が、六年経って、一番好きな女の子に会いに行くまでの物語。
そこへ至るまでの数々の出来事、行人の心の紆余曲折は「とにかく読んで!」としか言えません。
時にほっこり笑い、時にサスペンスドラマのようなハラハラを味わいながら、行人と共に心豊かな旅を楽しめます。
私もすっかりハマり中です。
「岩田屋町」の魅力、一度ハマると抜け出せなくなりますよ!
「あの海に落ちた月に触れる」から6年。
この「南風に背中を押されて触れる」では、
15歳だった少年は21歳になっています。
相変わらず軽薄さを纏って、
一番大切な人には触れられずにいる、行人。
けれど、様々な事柄や事件によって
まさに押し出される様にして、
やっと自分の本当に大切な人や心と向き合わなければならなくなるのです。
人が本当に動き出す時と言うのは、
大切なものを失くしそうな時なのかもしれません。
他の郷倉四季さんの作品を読んだものとしては、
知っている登場人物が思わぬ形で関わってくるのが、この作品だと思います。
いえ、この作品から読んだ人にとっては
私とは違って、この作品に出ている人が
違う作品で「この人はあの時の!?」という感情になるのでしょうね。
それもまた違った楽しみ方になりそうで、
羨ましいです。
大切な人や心と向き合うことは決して
簡単ではありません。
(特にこの年齢の彼らには)
けれど、失くしてしまう前に
気づかなければ
一生触れられず去ってしまうのです。
それを気づかせてくれるものが、
例え痛みや苦しみであっても
背中を押してくれる何かがあるのは
とても幸せなことだと私は思います。
そして、
この物語があなたにとっての背中を押してくれる存在になってくれるかもしれません。
気づいた時には遅かった…とはならぬ様に、
こちらを読んでみてはいかがでしょうか?
分かっているつもりでも、
分かっていなかった大切な人や心に
改めて気づかせてもらえる物語だと思います。