幸せな気持ちでした

冒頭から全体を通して言葉選びが美しく洗練されていると感じた。不愉快になる瞬間がない。さっぱりとした心理描写が心地よい。登場人物も名前をなんとなく覚えれる程度の、程よい数と人間模様の複雑さで、飽きたり難しくなったりもしない。メインストーリーはありそうでなさそうな、それでいて現実味が溢れてる生活感が好印象。少女の頃に憧れる恋と言うよりは、成人してから憧れる甘酸っぱい恋みたいな。性的な欲求、嫉妬、友情、社会人としての理性などなど、端的であるもののなんとなく共有できる感情表現に、感情移入とはまた別の情が湧くような気持ちを得た。おまけに至るまで、全てが計算されている美しさで、簡単のため息が思わずこぼれた。読み終わりまで手を休めることができず、晩ご飯を逃した。カレーが食べたくなる。
小説で充足を得られたのが久方振りのため、感動を持て余している。読み終えてすぐに同年代の友人に勧めてしまうほど、この小説を気に入った。同作者の他の作品も読むつもり。
大人になって色々と現実に疲れてしまった人たちへ、微睡で得られた幸福な夢ごこちのような気分になれるこの小説を勧めたい。