恋はバランスが取れてはいけない

琴引さんが登場の瞬間にふわっとやられたのはヒロインではなく、読み手の私でした

あらすじにあるように軽度の潔癖症であるヒロインのアンバランスさに対し、彼のバランス感覚は素晴らしいものに感じ取れる。
そんな彼のバランスに、彼女もなんとか自分もバランスを取ろうとする。そこに読んでいる私も乗っていく。

私自身も恋愛小説を好んで書いてきたのでヒーローをどう見せるかという作業が必ずはいる
今回、砂村さんが私たちに見せてくれるヒーローは(と位置づけて呼びたくはない作風でいらっしゃるけれど)
よくあるハイスペックなヒーローとは異なる、でも多くの男性が簡単には持っていない甘やかさが感じ取れる。
作者である砂村さんが心の底で女性を敬っているからこそ、読んでいる私にも心地よく『彼』が入り込んできたように思える。

バランスの取れる恋などは恋などではない
バランスが取れないからその危うさに焦がれたりするのではないか

ヒロインのそれまでのなかなかバランスが取れなかったいままでがあればこそ、読み手の私もバランスを取ろうとする彼女と追うように、この恋の行く先にはまっていくようです。そしてそれが恋愛小説ではないかと改めて思わされる。

そして恋は綺麗じゃない。心だけでなく肉体的にも
潔癖症の彼女が自分ではない男の成分をどう受け入れていくのか
その課程を楽しみに追っていきたい作品です

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