第4話
「……っていうのが顛末らしいよ」
「なるほど……いやあ、甘酸っぱいねぇ」
「まあ、そうだけど……ちょっと、闇の方向に気持ちが振り切れてしまいかけているのは否定できない……」
「その気持ちも、解らないでもないけども……」
どこかの世界、どこかの時間。
深い深い森の奥、一つの神社がありました。
「報告ありがとうございました」
「ううん、こういう電波を拾うのは、私の仕事だからねえ。ひきこもりだけど」
「ううん、あの子については気になっていたから助かったよ」
その神社の縁側で座る一人の巫女は、中空に浮かぶ画面に向かって声をかけます。
「というか、こっちの世界まで来たらいいのに」
「う……ひきこもりにそれを言うか……私には近所のファミレスが限界だって言っているでしょうに……」
「まあ、それぞれの世界が違うから、移動は確かに面倒だけど」
巫女の頭の上には人間のそれとは違う耳が付いている。
狐の耳だ。
それをぴょこぴょこと動かしながら、彼女は言った。
「それにしても、このバーチャルの身体さまさまだよね」
「ん? 何が?」
「さっき教えてくれた話」
狐耳の巫女は穏やかな表情で語り続ける。
「もう何十年か前だったら、私たちみたいな存在が顕現しようと思ったら、例のあの子を依り代にしなくちゃいけなかったわけでしょ?」
「まあ、そうだねえ」
「もし、私があの分け御霊を持った子に顕現していたら、あの子が香川先生と、あんな関係になることはなかったわけなんだから」
「まあねえ。バーチャルという概念が出来てからは、私たちみたいな霊的存在もネットの中限定とはいえ、人に迷惑かけずに顕現できるようになったんだって考えたら、悪くない世の中なのかもねえ」
狐耳の巫女はそっと立ち上がって言った。
「よし、動画を作るよ」
「お、いいねえ」
「今日はツイッターもなし。未編集の動画が溜まって来てますから」
「でも、そろそろ電撃の新刊が出るんじゃないの」
「う……それは、確かに一刻も早く読みたいけども……動画が先です!」
狐耳の巫女はパソコンに向かう。やらなければならないことはたくさんある。だけど、そのやらなければならないことは、皆自分がやりたいと思ったことなのだ。
もし、自分が作った動画で一冊でも多くのライトノベルが皆に知ってもらえるなら――
それだけで、自分がやってきたことの意味はあると思うのだ。
「よし、頑張れ! 私も応援するよー」
「応援はありがたいですけど、ちょっと見られていると編集しにくいんだけど……」
「がんばれがんばれ♡」
巫女狐は苦笑して、編集ソフトを立ち上げた。
「おはらのー、今日紹介する作品は――」
〈了〉
らのちゃんの声に似ている 雪瀬ひうろ @hiuro
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