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 地球に戻って、ハワイで式を挙げよう――一美は遠ざかる〈リング〉の窓からエンケラドゥスを眺めながら、自動調理された食事を取る。はて。今食べている食事の元素は何だった。

「教授。今思ったのですが」

「なんだね」

「この食糧は炭素でできているはずです――これを原料にして、3Dプリンターで、私の手紙のようなものを作り出すことはできたのでは? わざわざ数志の手紙が必要だったとは」

「あ」

 三郎はあんぐりと口を開けた。まったく発想になかったらしい。

「この馬鹿教授、私のラブレターを異星人とのファースト・コンタクトに使う必要なんてどこにもなかったんじゃないか! くそじじいめ」

「わ、わしゃ、思いつかんかった。いいじゃないか、異星人が人間の恋愛を知ったとすれば、平和的に物事も進みそうじゃし。科研費も手に入るのじゃ。それに、水に浮かべる炭素を作るのも一苦労じゃないか。いや、そうでもないか――あ、痛い痛い。やめるのだ一美君、隣人愛は大切じゃ……〈彦星〉、早く冬眠コールドスリープ作業を進めるんじゃ!」


 

 喧噪の中、〈リング〉は飛び立つ。土星のスイングバイ軌道に乗り、E.T.(地球外生命)の折りメッセージを乗せて、向かうは。

 地球へ。

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返事は、浮かぶ折り鶴で 沖黍州 @tokibi-shu

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