第2話

 ~西ホーキンス-中央部~

 ここは“ザタニア”から東へ2日ほど歩いた距離にある小さな村“ハンク”。

 小さな石壁や木の柵もなく、村の家畜が自由に行き来しているのどかな風景が広がっている村にルイナ達5人は訪れていた。


「おーーい」


 村の中心部から1人のヒューマンの男がやってくる。男の身長は170cm後半くらいの高身長で黒い髪をかなりの好青年がかけてこちらへとやって来る。


「村の人の話だと、南の森に少し行ったところに件のモンスターが住み着いてるらしい」


「なるほどッ!そいつを倒して仕舞えば任務完了ってことだなッ!」


 半巨人オードンの大男が話に加わってくる。そして、懐から紫色の美しい結晶体クリスタルを懐から取り出す。

 そして、取り出したクリスタルを何度も宙で回転させる。

 それを見た、好青年の剣士が取り返そうとするが、オードンは2m半を超える身長を持つ種族でヒューマンの男はどう頑張っても、オードンの大男が持っているクリスタルを取り返すことができずに弄ばれる。


「おいっ!だからっ!大切に扱えって何度も言ってるだろっ!!この前だって無くして大変だったろっ!!」


「そうよ、ダードス。この前だってクリスタルを無くして、報酬と紛失代を要求されて大変だったじゃないですか!」


「あッ!てめー、またそうやって魔術でッ!!コラッ!俺の結晶体クリスタル返しやがれッ!!」


 2人のやりとりに呆れてヒューマンの女性が、指をひゅいっと動かしてオードンの手からクリスタルを取り上げ、自身のバックへとしまう。


「ナイスだ!ミスト!!さっ、それを俺に返してくれ」


 ヒューマンの好青年はミストと呼ばれた白い髪のヒューマンに手を差し出して、クリスタルを自分が預かると言い張るが、ミストは「あんたがもともとなくすような原因を作ったのでしょ」と説教して、クリスタルを渡さない。

「このパーティーのリーダーとしての威厳があああぁ」と崩れ去る。

 そんなやりとりをしていると村はずれの方に行っていたもう1人のパーティーメンバーがテクテクと歩いてやってくるのが見える。

 その手にはいっぱいの食べ物を持っているのが見受けられる。どうやらこの村の住人から分けて貰ったのだろう。

 さすがは小人ラバエルと言ったところなのか、みんなから愛されやすいというその特性からかたくさん優遇されることが多い。

 それは今回も力を発揮しているようだ。


「ルイナさーんー。みてくださ〜い。たくさん貰っちゃいました〜」


 その体でその量を!?っと思う量を村の人々からおすそ分けして貰っている。

 わたしはそれを小人ラバエルのサーリから受け取る。

 本当にたくさんだ。これは本当にカバンに入りきらない量だ。

 貰ったものを小分けにして、ミストやダードス、そしてリーダーであるデグドにも渡す。

 リーダーだと自負するのだから、少し多めにわたしても怒られないだろう、と多めに渡す。

 渡されたデグドは量が多いと言うことに気付かずにカバンへと収める。


「さすがだな〜。サーリは」


「えへへ〜。そうでしょ〜デグドー」


 デグドは活躍をしたサーリの頭を撫でてやる。

 サーリはデグドの身長の半分ほどしかないため、ある方面の人たちが見たら大変なことになっていただろう。


「さて、それじゃあ…。モンスターをさっさと倒しましょうか!」


「「「「おうっ!」」」」


 デグドの掛け声に一同が返事をする。

 これがわたしのパーティーのメンバーであり、初めて冒険者になって出来た仲間。

 そして、彼らが今のわたしにとっての新たな家族である。


 大切な彼らと出会ったのは、今からちょうど1ヶ月前、ザタニアの冒険者組合の人混みの中で手を差し伸べてくれたからだ。


 そう、わたしの冒険は1ヶ月前に始まった。



 ***


 さかのぼること1ヶ月前のザタニア・冒険者組合。

 いつにもましてこのザタニアの冒険者組合にはたくさんの冒険者たちがあふれている。そのあふれている冒険者の人種はさまざまであり、巨人種タイタンや亜人種を除いたほとんどの種族がこの冒険者組合の中に集まっている。

 その冒険者たちの会話はさまざまで、次の冒険の話をしている者たちもいれば、報酬の分け前について言い合っているやつもいる。

 多種多様な人種がここでは協力して生活している。


 そんな中にまだ15歳になったばかりの小柄な少女ルイナは、人込みをかき分けながら冒険者へとなるための初めての冒険に出ていた。

 途中で酔っ払っている半巨人オードンの男性に押しつぶされそうにはなったものの何とか目的のデスクまでたどり着くことができた。


「やぁ、初めましてだね。ようこそ、ザタニアの冒険者組合へ…」


 デスクには人種ヒューマンの女性が私に優しく語りかけてくれる。


「君は冒険者になるためにここへと来てくれたんだね?」


 ヒューマンの女性は優しく微笑みかける。

 その姿は、故郷を離れた私の心を潤してくれた。


「はい、商人のハーマルさんがここにくればよくしてくれるって…」


「あーあ、ハーマルか、あの男もまだまだ元気だねー。昔はよくむちゃくちゃな依頼を出されたもんだよ……。ってそんなことを言ってる場合じゃあない」


 昔のことを思いだしていたウガンダの女性であったが、こほんっと咳払いをする。


「あらためまして、初めまして。わたしはここザタニアの冒険者組合の顔役をしている”ミッサ”だ。よろしく頼むよ冒険者くん?」


「はい。よろしくお願いします。ルイナと言います。これからお世話になります」


「ルイナか……。うん、いい名前だ。こちらこそよろしく頼むよ。一人でも多くの困ってる人の力になって欲しい。このあたらに開かれた世界のために」


 ミッサはそういうとデスクの後ろにある本棚から、1冊の本を取り出し、一番最新のページを開き、わたしにサインを書くように促す。

 わたしが、その本に名前を記載すると…。


「あなたに良い出会いと冒険がありますように!」


 そう、わたしの冒険者としての門出を祝ってくれた。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


「あ、大切なことを説明し忘れていたよ」


「??」


「ここザタニアの冒険者組合についてだ。冒険者として依頼を受けるのであれば、向こうのカウンターにいる半巨人オードンの男、スルメルムに言えば、君にあった依頼をピックアップしてくれるだろう」


 ミッサが反対方向にいるオードンの大男に目配せをすると、オードンの大男がこちらに手を振ってくる。


「次に、向こうのはじの方にいる猫人種キャンシーの女性のヒィに話しかければ、ゆっくりと休むことのできる部屋を提供してもらえるだろう。しっかりとした部屋だ。安心して休んでくれ。あとは、街の施設だが…。まあ、たくさんあるからゆっくり見て回るといい。ここの街には様々なものがある。さすがは商業で成り立った街なだけはあるからね…。わたしの知らないものをたくさんあるから、自分の目で見て、判断するといいよ」


 そういって、ミッサは締め括った。


 ザタニア王国・・・ホーキンス地方西部にある巨大な都市。

 様々な商人や冒険者たちが行き来する、旅の交差点のような都市。

 もともと帝国で活動していた、貴族”マラティウス家”がこの世界に愛されし土地エンピリアルへと移り住み、1件の宿屋から始まった都市である。

 全てはここに住まう人々が今あるザタニアの都市を作った『人の都』である。


 それに伴い、街は常に人や物で溢れている。初めての冒険者たちが活動を開始するには絶好の都市である。


 ミッサの指導を受けたルイナは早速冒険者としての仕事に取り組むためにも、向かい側のカウンターにいるオードンの大男の元へ、人混みをかき分けながら進んで行っていた。


 ルイナが冒険者になるためのやり取りを最初から見ていた人種ヒューマンの少女がそこにはいた。


「……いい子…みーつけたっ!!」


 手に持っていたリンゴを一口かじると、座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、そのルイナの元へと人混みをすり抜けながら近づいていく。



いまここに、ルイナの冒険者としての歯車が回り出す。

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最初で最後の夢物語 しろうとしろう @sherkuri

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