第5話

――なんで?


自分でも何故そんなことをしたのか、まるでわからなかった。


しかしまさとは、こう考えた。


――一枚くらいなら、いいか。


そうしてごく自然に、もう一枚のお札に手をかけた。


引っ張ると、お札はいとも簡単に剥がれ落ちた。


――二枚くらいなら、いいか。


まさとの手が、もう一度お札に伸びていった。


――三枚くらいなら、いいか。



どれくらいの時間が経ったことだろう。


まさとがふと我にかえると、お札は全て剥がされて地に落ちていた。


その間の記憶が、全くないのだ。


――……。


まさとは改めて扉を見た。


すると扉が音もなく開いた。



夕飯の支度はもう出来ている。


夫ももうすぐ帰宅することだろう。


しかしまさとがまだ帰ってこない。


康子は落ち着かなかった。


何かあったのだろうか。


それとも遊びに夢中で遅くなっているだけなのだろうか。


どうしたものかと考えていると、玄関から声がした。


「ただいま」


まさとの声だ。


それは間違いない。


間違いはないが、その声には思いっきり違和感があった。


康子は玄関に足を向けた。


するとそこには殺気立った目で康子を見て、鍬や鎌を構えたまさとが、十人いた。



         終

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十人ドコロ ツヨシ @kunkunkonkon

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