シュヴェスターディスタンス
かしわもち
第1話 妹の見たいもの
俺には血のつながっていない妹がいる
まぁ話すと長くなるんだが、追々話そう。
妹は二人いて一人は中学二年生の
俺か?俺はしょうもない大学生だ。あんまり語るようなものでもないよ。
「おはよう!!兄さん!」
「おはようございます。お兄ちゃん。」
妹たちがこっちへ来て二年くらいになるかなぁなどと考えながらスマホをいじり、リビングの机で突っ伏していたところに、二階からスタスタと降りてきて元気な声とおしとやかな声で挨拶するのは妹の茜と綾だ。
「あ、おはよう」
「なにしてるのー?」
「朝からソシャゲだよ、今日からイベントでね、朝からガンガン進めてやろうと思って」
「ふーん。おもしろいの?」
「まぁ、なんでかわからないけどずっとやってるな」
茜が俺の後ろに来て画面をのぞき込みながら言い、少し茶色交じりの肩にかかるかかからないくらいの髪がふわりと揺れる。
とてもいい匂いがして少し緊張した。
まぁそれもそのはずだ。俺は今まで女性と付き合ったことはない。そして俺は年下好きだ。妹という壁がなかったら俺は愛を叫んでいるだろうな。
だがそこの理性はしっかり保っているので安心してほしい。
「朝食、食べますよね?」
「あぁ、俺はコンビニのおにぎりがあるからそれ食べようかなって...」
「それでは身体壊しちゃいますよ」
「あ...はは...」
料理が壊滅的にできない。ほんとにできない。大学生にもなって妹に、血縁のない妹に朝ごはんから何から作ってもらっている。
綾が冷蔵庫から卵とウインナーを取り出したりフライパンを出したりしているのを見て俺は机の上にある昨日の夜こっそり食べたお菓子の袋を片付けた。
「ほんと...申し訳ないな...」
「いえ、料理自体好きでやってますので気にしないでください」
綾は黒髪の肩甲骨くらいまで伸びた髪を後頭部のほうで結い、茶色のすこし色あせたよく見るようなエプロンを腰で結んだ。
「うー!!いいにおーーーい!!」
「ちょ...お姉ちゃんはあっちで座ってて」
「はいはーい」
茜は綾がいるキッチンへ行き、朝ごはんのようすを伺いに行った。
こちらからは見えないがつまみ食いでもしようとしたのだろうか、綾に怒られ帰ってきた。茜が俺に向かって『てへぺろ』と言わんばかりの顔をしたのでまぁそういうことだろうな。
「そういえば、最近茜たちと出かけてないな、どっかいきたいとこあるか?」
「んーーーどっかねぇーーー」
「私は特にありませんが、お姉ちゃんの行きたいところで疲れなさそうなところへ行きたいですね」
「茜の行きたいところで疲れなさそうなところはないだろうなぁ」
俺は綾をみて可笑しそうな顔をしてそう言った。
綾は、ちらりとこちらを見て苦笑し、また手元の作業に戻った。
「んじゃさ!映画見に行こうよ、映画!」
「映画?何見るんだ?」
映画なんてもう何年も行ってない。正直、女子中学生が何を見るのかも知らない。
「いまねー、私たちアニメ見てるんだけど、それの劇場版が三日前くらいに始まったの!」
「いいですね、お姉ちゃん、それいきましょう」
綾が出来立ての目玉焼きとウインナー、白米の朝ごはんと言わんばかりの朝ごはんをテーブルまで運びつつそう言った。
珍しく綾が乗り気だ。映画なんて見ないものかと思っていたが、アニメの延長と考えればそりゃ見たくなるものか。
「朝ごはん食べたら駅にある映画館へ見に行くか?」
「いく!みにいくー!」
「んじゃ、さっさと食べて着替えていこうなー」
「早食いはダメですよ、お姉ちゃん、お兄ちゃん」
呆れた顔でそう言い、俺の顔をちらりと見た
「どうした?」
「いえ、なんでもありません、ただ...久しぶりに外出ですね」
綾がすこし頬を染めて自分の皿を見つめた。
久々の外出だ、うれしかったのかもしれない。
ここ最近、大学のあれこれで忙しかった俺はあんまりかまってられずにいたからなぁ...正直申し訳ないなぁと心の中で思う。
最寄り駅に隣接するショッピングセンターの4階にある映画館の前に来た。
「お!あれだあれだ!」
「お姉ちゃん、あんまり走らないでください」
茜がアニメのポスターを見つけて走っていくのを綾も少し迷惑そうだがどこか楽し気な笑みを浮かべ、速足で茜の後を追った。
そして俺はたのしそうにしてる二人を少し後ろから眺めた。
「たのしそうでなによりだな...」
楽しそうな笑顔をこぼす二人の顔が、俺の胸をキュッと締め付けた。
追々話すといった妹の話を少ししようか。
茜と綾の両親は交通事故で他界。他に頼る身寄りもおらず、3か月ほど引き取ってくれた里親志望の人にひどい性的虐待を受けたらしく、昔茜と綾の両親と付き合いがあった俺のところに連絡が入り、俺の家に住んでるってわけ。
中学校に通いだしたころ、親がいなく、身寄りもいないので友達が茜や綾の家に行きたいといっても、性的虐待を犯すような輩がいるところには友達を連れて行けまいと考えた茜や綾は、だんだんと友達を作らないようになっていった。それが原因かどうかはわからないがいじめに合い、気づけば二人とも不登校となっていた。
俺もあんまり思い出したくないからここまでだな。
「おーい、映画館寒いかもしれないから温かい飲み物買うかー?」
前ではしゃいでいる二人に問う。
それもそのはずだ。今は11月中旬。ほんと寒い。いやほんと。
来年から違う中学校に通うらしい二人に風邪なんて引かしたくない。
4月までまだまだ期間はあるが、兄として、普通の人として。
「買うー!私ココアー」
「お姉ちゃんのと同じでお願いします」
まぁココアだろうと思った。茜は超が付くほどの甘いもの好きであり、綾はお姉ちゃん好きだから茜がココアを頼んだ時点でココアを二つ注文することは確定していた。
「おっけー。俺はーー、緑茶で。」
上映時間が迫っていたので俺は飲み物とチケットを持ち、二人を連れてまだぼんやりと明かりのともった劇場に入った。
まぁ毛頭俺は映画を見る気はなかったので映画が始まると途端に瞼を閉じ、睡魔を受け入れる準備をしていた。
「あー!最高に面白かったね!綾!」
「そうですね、レナと魔王の一戦がたまらなく印象に残ってます」
家に帰ってきてもまだ話をしている。よほど面白かったのだろう。
そんな二人の会話を聞いて、俺は少し安心した。
シュヴェスターディスタンス かしわもち @kashiwa_moti3
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