第3話 国家再興戦略

「魔王様、このままでは我が国はジリ貧です。遠くない未来に滅亡してしまうでしょう。早急に手を打つべきです」


魔王家の筆頭家老、ジーニャスがそう言った。


僕は、大げさに渋い顔をしてみせる。


「そうはいうけどさぁ、どうするわけ?

どうしようもないじゃないですか。

先代はうつで寝込んでるし、僕もそれに近い状態だし。

偵察にいった奴に聞いたら、勇者はなんか、山にこもって剣の修行とかしてるらしくて、しかも教えてるのが世界でも5本の指に入るくらいの剣士らしいし。

そのうち、勇者はうちに攻め込んでくるよ。

うち、滅ぼされるよ。

もうダメじゃない?

やめようよ。

降伏しようよ……」


玉座に座りながら、グテーッとして、どこを見るともなく、うだうだ述べる。

はあ、これじゃ、自分でもどうしようもないマオウだと思う。


ジーニャスもそう思っているようだ。

だが、怒らない。代わりに、ニコッと微笑んでいる。


いや、やばい。

彼奴は、笑いながら、怒る。


「マオウ様、大丈夫ですよ。我らの兵士たちはそんなに弱くありません。

それは、先代が、自身も名将でありながら、兵を育てることに注力されたからです」


「そうかい。でも、僕にはそんな能力ないし……。

戦場に立ったことも数えるほどしかないし……」


「そこです!魔王様!それですよ!」

興奮気味に、ジーニャスが語り出す。

「端的に言いますと、私が言いたいのは、『人材を育てるべき』ということです。人材を育てれば、彼らが魔王様の代わりに戦ってくれます。

苦手な戦や、指揮や、その他諸々は部下に任せておけばいいわけです。

だから、人材を育て、かつ、国内の優秀な者たちを登用すべきだ、ということです」


「人材、ねぇ……。

そう上手くいくといいけどねぇ。

でも、先代はそれをやってないでしょ。

先代がやってないなら、あんまりうまくいかない、ってことじゃない?」


「いえ、魔王様。

失礼を承知で申しますと、先代は人を育てるのがあまりうまくなかった、と私、ジーニャスは見ております。あの方は、力で引っ張っていかれるタイプです。

しかし、現在の魔王様、あなた様は、性質が違います。

人に寄り添って伸ばしていかれる気質だと見ております。

どうか、人材を育てる、と誓ってください」


「そうは言ってもなぁ……。

勇者、攻めてこない?

資金とか教師とか、どうすんの?」


「その点もおそらく大丈夫かと。

腐っても歴史ある魔王家です。

いくら先の戦いで領土が縮小したといえど、まだまだ富は余裕があります。

財宝も兵糧もあります。

連合している国があります。

彼らと連携を図り、魔王家の私財を投げ打つことで、なんとかこの国を保たせ、未来を切り拓こうではありませんか!」


「……うーん。

それもいいかなぁ。

でも、うまくいくっていう決定打がほしいなぁ」


そう言うと、目の前のジーニャスの口元がピクピク動いているのが見えた。さっきよりさらにイライラしているようだ。

しまった。奴は、怒ると怖い。


「わかった!わかったから!やる!

人材育成、人材登用、やる!

すぐにやるから」


言うと、ジーニャスは今度こそ本当にニコッと微笑んで、


「言質はとりましたよ。人を育て、魔王国を再興させ、世界に誇る大国に致しましょう。

さて、それでは行きましょうか」


「……どこへ?」


「決まっているでしょう。この国1番の教育者にして、あなた様の師匠でもある、

コーチー先生のところですよ」


本当にいい笑顔だな、と見ていて、いつも思う。

そう、この笑顔を浮かべるジーニャスは、例外なく、なにかを企んでいるときなのだ。


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征服するだけの魔王に価値はない ケイキー @keikey

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