第8話 白い道

 バスが木更津駅に停車。ママから先に降り、タクシーを拾い乗り込む。10分も走れば、田舎の景色が流れ始める。


 (ママには、田舎は合わない)

 

 初めてそうはっきり思った。


 (もしかしたら、離婚したら、ママは金城さんと再婚できるかもしれない。もう、いいんじゃない? 独身貫く信念なんて。二人はちゃんと想い合ってる。ママはそのほうが幸せかもしれない。私は、自立してなんとか生きていければいいし……)


 小学校の頃の通学路をタクシーが走り、白い道の前で止まる。


 広がる景色は、田んぼ。白い道。向こうに見える家。


 白い道を二人で歩く。コンクリートにあたるヒールの音。コツコツ、を、聞きながら、子供時代を思い出す。


(もう、私はタンポポもあまり見ないし、ねじり草も摘まない。猫じゃらしをブンブン振り回しながら、大きな声で歌うことだってしない。だけど……)



 いつの間にか、自然と口にした


「ねぇ、ママは幸せなの?」


という、その質問に、ママはくすっと笑った。


「あなたが生まれたんだから……。幸せよ……」


 そのママの横顔は、母の顔だった。


 頬をいつの間にかつたっていく涙。

 急いで前を向き直したけれど……。


 私はその涙を拭おうとは思わなかった。

 できれば、見て欲しかった。

 まだ、大人になれないわたしを……。

 


 

 私は、この道が好きだ。白いから……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白い道 AKARI YUNG @akariyung

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ