第6話

 切り倒された木は、小さく切り刻まれ、元の大きさからは信じられないくらい手頃な薪になりました。それは町へ運ばれて、それぞれの家の暖炉で燃やされることになりました。

 冬のある日、町のそれぞれの家では、暖炉に火が点されました。火は勢いよく燃え上がり、くべられた薪だけでなく、家々までをも呑み込み、狂ったように踊りまくりました。火は、いつか町全体を包み込んで、ゴウゴウと叫んでいました。それは、木が切り倒されたときの叫びにも似ていました。

今、木は自分の体が昔よりずっと軽くなったのを感じていました。根が大地に張り付いて動くことが出来なかった昔と違って、今は自由に空を駆けることができたのです。

--今なら、きっとすぐにだって太陽の傍まで行くことができるに違いない。

 飛んで・・・飛んで・・・飛び続けて、彼は悲しくなりました。太陽はまだあんなに遠い・・・。


 窓の外には雨が降っていました。

「冷たい・・・。何だか、誰かが泣いているみたいだ・・・。」

「雨だよ。もう、冬も終わりだ。雪解けの雨だよ・・・。」

「・・・そうだね。」


 山では、また新たな種子が飛ばされて、大地に根を張りました。そして、春の雨に打たれながら、ゆっくりと、枝を伸ばし始めました。【終わり】

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