大樹
ある☆ふぁるど
第1話
小さな山の中腹に、一本の木がありました。まだ小さな種子だった頃(それはもう随分と昔のこと)彼は空を飛んで、その場所に降り立ちました。大地に根を張り、枝を伸ばした今となっては、その時のことはもう本のかすかな記憶でしかありませんでしたが、風に乗って、雲の中を漂ったあの解放感だけはいつまでも忘れがたく、覚えていました。雲の切れ間に太陽が見えた、その眩しさだけは忘れられませんでした。まるで夢の記憶のように、ぼんやりとしたあこがれだったのだけれど。
まだまだ若く小さかった彼は、いつだって元気よく、ピンと枝を張っていました。
---いつか、ぼくはあの太陽のところまで行くんだ。
小さな彼は、そう信じていました。彼の周りの仲間たちは、いつだって見上げるほど高かったので、小さな彼にはみんなが太陽のすぐ傍にいるように思えたのでした。光は、周囲の木々の隙間を縫って、彼の元へはほんの僅かしか落ちてきません。枝を伸ばし、葉を広げて、彼は精一杯背伸びして、その光を受け止めました。
---いつか大きくなったら・・・(彼は何度も思いました)あの太陽のところまで行くんだ。
この春生まれたばかりの若いウサギが、ある日、彼の足元を通りかかりました。
ウサギは小さなあくびを一回すると、思い切り身体を伸ばして、伸びをしました。そして彼の周りを一周しながら言いました。
「小さい木だな」
それから、一回ピョンと跳ねてから付け加えました。
「この木なら飛び越せるぞ」
ウサギは勢いをつけて、思い切りピョンと跳びはねました。ウサギの丸いシッポの先が、ほんの少しだけ木のてっぺんを掠めました。
「あれ、しまった」
ウサギはもう一度勢いをつけて跳びました。今度はシッポの先はどこにも掠めませんでした。
「やったあ」
ウサギは満足そうに跳ね回り、何度も何度も小さな木を飛び越しました。何度も・・・何度も・・・。
「ああ、疲れた」
ウサギはまた大きな伸びをすると、ぴょんぴょんと跳びはねながら行ってしまいました。
彼は少し悲しくなりました。あんな小さなウサギに跳び越されるほど、自分は小さな存在だったなんて・・・。
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