第4話

 そして、木々の葉がすべて舞い落ち、風がすっかり冷たくなったその日、リスは決心していました。渡り鳥の群れの数は、もう何日も前から減り続けていて、そしてその群れは、この秋最後の渡り鳥だったのです。

 リスは、最後にもう一度だけ、住み慣れた我が家を振り返りました。そして、もう二度と振り返りませんでした。

 リスが去った後には、彼が冬に備えて一生懸命蓄えた木の実と暖かい寝床が残されました。

 南へ向かって旅立ったリスはもう二度と戻ってこず、いつかその巣には、冬の嵐で家をなくした別のリスが住みつくようになりました。

 冬が去って春が巡り、再び渡り鳥の群れが、今度は南から北へと飛んでくるようになりました。それでもリスは戻ってきませんでした。

 木は、枝の上で子リスたちが跳ね回っている姿を黙ってじっと見ていました。新しく住みついたリスは、別のリスト結婚し、すでに子リスも何匹か産まれていました。幸せに暮らしていたのです。

 木は、そんなリスたちの様子を見るたびに、南へ行ったリスのことを思い出しました。

--ああ、あのリスは一体何処まで行ったのだろう? 冬のあの嵐に巻き込まれて、どこかで凍えてしまったのではないだろうか?

 あのまま、南へ行かなければよかったのに。この巣の中にさえいれば、あのリスだって今ごろ幸せに暮らしていたはずなのに。どうして・・・?

 遠い空を見上げると、風に雲が流されていきます。太陽はそんな雲の隙間から顔を見せ、暖かな日差しを地上に向かって投げかけていました。それはあまりにも遠くて・・・木は、ため息をつきました。

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