ねえ聞いて。あたし掃除が嫌いなの。
皆様お元気ですか。バカボンのパパより年上になった時点でありとあらゆる心身の活力が涸れ乾き、なーーにも言いたいことが無くなったのだった。念願の貝になったのだ、と思った。またもや思った。乾燥貝柱みたいなやつに。
でもね今週出来心で家の掃除をやり始めたらそれはそれは果てしなくて、この掃除のエンドレス加減にだけはひとこと言っておいた方がいい、と思ったの。なんなのだ掃除って。過酷極まりないやんけ。
そう、わたしは掃除が嫌いである。ダだだ大嫌いといってよい。だってね、なんべんも言うけど果てしないでしょ。終わりないでしょ。しかも手順も知らへんし。誰も教えてくれへんかったし。
あのな、日々の掃除機をかけるくらいのことは出来るねん。マキタのコードレスのを買ったからね。もっと早く買っとけばよかったと激しく後悔した。マキタの掃除機は軽くて、西部劇でよく、荒野を転がっていくようわからん枯れ草のタマみたいなやつあるやろ? タンブルなんチャラゆうの。うちでは猫の抜け毛とかそのへんの塵芥が混然一体となり、ああいうタマ状になってその辺を流してる、みたいな風景が日常だったのだけども、そのホコリ玉を絶滅に追い込むことが出来た。マキタのおかげでな。
でもわたしが分からないのはそういうザッパなことではなく、障子の桟の隅のこととか、廊下の端っこのカドのとことか、額縁、変な置物、時計の裏側、ペン立ての底、そんなものをみなさんはどのような頻度でどの程度掃除しておられるのか。拭くのか? 何で? 雑巾? 洗って再利用? それともウェットシートとかでごりごり拭いてちゃっと捨てるのか? どのような指南書にも大体「拭き掃除はよごれの軽い個所から始めて云々」などと書いてあるが、わたしは一番汚いところに真っ先に目が行って気になって気になって気になって仕方がなく猛然とその部分から手を付けるため、当然ながらすべてが無茶苦茶になる。あるいは軽い汚れの部分を探すうちに本来の目標物からだんだん遠ざかってゆき、出先で新たな強敵を発見、結果ドロドロになったウエスを持って元の地点に帰ってきたりする。盤石の作業効率の悪さが光る。
しかも家の北側ってどうなってんの。なんでそんなすぐにカビるかな。それから虫よ。勝手に住むな。そして死ぬな。そんなところで。ほかにも、洗濯機の下とか、蛇腹ホースの隙間とか、冷蔵庫の裏とか、一体全体どうしたらよいのか。ダスキンを呼ぶしかないのか。そんな金はない。てゆーか自分がダスキンに就職して、掃除のやり方を一から習得してくる、という道を考えて、考え始めたら夜寝られなくなったということも一度や二度ではない。
とにかく銭の無い者はわれとわが身で汚れを除去するしかないのだ。月曜日は台所の窓を外して洗った。四枚洗った。二時間かかった。その前にワンピースの染み抜きに失敗して新たに個性的な柄を出現させるという大惨事を起こしていたので、怒りと悲しみに駆られてやり始めたのだった。負のエネルギーを窓洗いに転換である。BGMはもちろん「燃えよ! ドラゴン」だ。Spotifyで聴いたった。
それでも台所の窓はまだまだある、あと四枚ある、なんなら地続きのリビングにさらに八枚ある、なまじ四枚だけがやたらきれいになったので他の汚れがすごく目立つ。仕方がないので翌日さらに四枚洗った。やっぱり二時間かかった。その後大きくて自力では外せない窓を八枚拭いたが、洗うのと比べて全然きれいになった気がしない。さらに水曜日、脱衣所と浴室の窓を四枚外して洗った。同時に長年の懸案だった洗濯機の下を掃除した。日立のビートウォッシュとがっぷり四つに組んでこめかみに青筋立てて移動である。五大力さんか。筆舌に尽くしがたい埃の堆積。全部掃除機で吸っていらないタオルで拭く。さらに脱衣所のすりガラスの引き戸を掃除する。桟の埃を歯ブラシで取る。「汚物は消毒だー!」と言いながら漆喰の壁のカビをハイターで殺す。そんなことをしていたら四時間かかった。脱衣所風呂の一か所でこの所要時間どうよ。途中なんども絶望してやめたくなったが、そのたびに心の安西先生が「諦めたらそこで試合終了ですよ」と話しかけてくる。安西先生と一緒に成し遂げた掃除といっても過言ではない。
それでもやっぱりこんなに時間がかかるのはわたしがトロくさいからか。やり方がまずいからか。そう思って、本当にもうダスキンに電話しようかなと思ってネットでしらべたら、窓掃除の業者でさえ「汚れのひどい窓の場合は、二枚一組で一時間以上かかる場合があります」と清掃時間目安を出しているではないか。自分は間違っていなかったのだ! こんなに嬉しい瞬間そうそうない。滂沱たる涙が頬をつたう。多分病気である。
そんで今日も掃除だよ。もう四日目だよ。勘弁してくれよ。でもしないわけにはいかないの。他がきれいになったから。やってないのがダダ分かりだから。今日も窓外したよ。四枚洗ったよ。今日は一時間半でいけたよ。でもその代わり座敷と縁側の掃除に二時間かかったよ。こんなに頑張ったのにまだあと六畳と雪隠の窓その他が残ってるよ。もういやだ。次の掃除は四年後にする。まだ昼だけどもうビール飲んでいいですか。わたくしは疲れた。掃除なんか嫌いだ。
阿呆とバカではどちらがたわけものか(シーズン4-5)(いや、もっと) 灘乙子 @nadaotoko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。阿呆とバカではどちらがたわけものか(シーズン4-5)(いや、もっと)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます