W杯と周辺の「それはええんか」問題
7時間も時差がある開催地からの生中継を見るのは大変極まりない。起きられない。それでも何試合かは目覚まし時計をセットして3時とかに起きて、まぶたに爪楊枝でつっかえ棒をしながら観戦した。流血沙汰である。
わたしの素敵な猪首、アントワーヌ・デュポンは9月22日(現地では21日)、それ出る必要あったんかとすら思われる格下のナミビアとの戦いで、あろうことかタックルを受けて顔面を骨折し途中退場した。ぐぇえええ。ぶつかった途端本人もことのまずさが分かったのであろう、メディカル係と言葉を交わす様子はほぼ半泣きだったように見えた。
もうあかん。わたしのワールドカップは半分終わった。
わたしは絶望したがしかし、現代医学の発達はどうやらものすごいらしく、多分ブラックジャックのような医者様の腕で、猪首は翌日手術を受け、今週からはフルコンタクトの練習を始め、明日の準々決勝には出場するという。イヤ、大丈夫なん?! もっぺん当たったら今度こそトムとジェリーみたいに顔面砕け散らへん?! とわたしなどは本気で思うが、本人は記者会見でも「完全な状態だ」と話している。ほんまにええんか。
そんなこんなで、もう予選リーグは終わった。わたしが注目していた、魔法使いのおやっさん率いるオーストラリアは大会史上初めて一次リーグ敗退が決まり、とくに惨敗した対ウェールズ戦では、おやっさんが試合後のインタビューでファンに陳謝するというシーンも見られた。普段あんなに言いたい放題な感じの人の、中学英語しかわからんわたしにすら聞き取れる「apologize」という発言は悲痛ですらあった。勝負の世界の厳しさよな、と胸をうたれた。
一番面白かった試合はサモア対イングランド戦で、サモアの健闘は素晴らしかった。もうちょっとツイてたら勝ち切れていた試合だったと思う。つーか、あんなに出来るんやったら日本にもアルゼンチンにも勝てたやろ、と思うが、そのあたり、スポーツは難しい。
目を見張ったのはポルトガルのSOの男前ぶりである。アラン・ドロンやないかと思った。それにしてもサッカーの国で、敢えてラグビーをやる人達というのは、一体どのような心持ちなのかと非常に興味深い。キックがうまいのも、ひょっとしてみんなサッカー上がりだからだったりするのかとか、勝手に推測した。
ところで、今年は大会スポンサーに我が国のアサヒビールが入っている。これまでハイネケンが付いていたのが、フランスでは健康増進がらみの理由から、スポーツの試合会場にアルコールの広告を出してはいけないという法律があるとかで、ハイネケンは手を引いたらしい。それでアサヒがその椅子を獲ったのだけれども、グラウンドの電光掲示板に映し出されるのは我々がよく知っているSUPER DRY ではなくSUPER TRYという駄洒落と、大多数の西洋人にはわからんであろう漢字の「辛口」の文字。広告してはいけないということは、商品名も言えないのだ。何それ。その「広告」。社名もフェイクして「Asahi」やなくて「Aaah!」って書いてある。ロゴが元々のそれっぽいから言われな分らんけど。それはええんか。なんちゅうか、広告したらアカンのにスポンサーにはなっていい、ていう縛りの欺瞞加減と、広告したらアカンか知らんけど「それ言うたらだいたい何のことか、わかるひとにはわかる」ていう、隠語のような表現はええんか、という疑問。大麻て言うたらアレなんで、いまは「野菜」て言います、みたいな。アサヒビールの知恵というか、頓智の利かせ方をくさしているのではなくて、フランスの法律のほうに半笑いで「いいんですか?」と聞きたい。
あともうひとつ、それはええんか思うのは南アフリカの「ピカッとどんぶり」の件である。「ピカッとどんぶり」。わたしが命名した。くそダサいとか言うな。こっちも敢えてや。
ラグビーでは基本的に、ヘッドコーチは試合中、選手たちに直接指示を送るということは出来ない。監督ら首脳は、常にスタンドにいる。だから言いたいことが発生しても、ウォーター、給水係を伝令にするというのが限界である。したがってゲームでは選手たちの主体性が問題になってくるのだけれども、南アフリカは今大会、コーチ陣の座るボックス席から「光る丼鉢」のようなライトを使って、どおおおおも、何らかの指令を出してんのとちゃうかと見えるのである。ペナルティをもらったとき、ショットを狙うかどうか、という局面で数回目撃した。あれはええんか。
南アのエラスムス前監督は、今大会もディレクター・オブ・ラグビーという肩書で首脳席についているが、数年前の何かの試合の時に給水係としてプレー中グラウンドに入って選手に直接指示を出したかどで非難を受け、結局それが契機となってワールドラグビーは給水係が入れるのは前後半にそれぞれ2回のみ、ディレクター・オブ・ラグビーとヘッドコーチは給水係にはなれない、というちゃんとしたルールを作った。
ルールブックに書いてへんならなんでもやったる、というエラスムスの姿勢は、紳士とは言えないかもしれないが、「戦争」ってそういうもんよな、と思わされる。ピカッとどんぶりも、ルールブックで明確に規制される日が来るのだろうか。興味は尽きない。
なんて言うてるうちにウェールズ負けたやん。リース・ザミットが泣いている。わたしは忙しい。
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