第5話 飛翔
橘少尉らの手助けにより、俺はF15に乗り込み、大空へと飛びたった。
管制による誘導はない。
燃料もない。
ただ、目視によるおのれの腕だけが頼りの空中戦。
機体性能は段違いだが、実戦経験なしの俺に、はたして撃ち落とせるか。
俺は、F15のアフターバーナーを全開にし、橘花の編隊を追った。橘花が米軍に攻撃を加える前に、止めなければならない。
全速で飛ぶ大鷲から逃げるすべもなく、太平洋上で橘花の編隊を捕らえた。
そして、一機を照準にすえた。
撃てば人が死ぬ。撃たなければ多くの国民が死ぬ。
俺は機銃の引き金を引き、橘花を撃墜した。
人を殺したという実感は全くない。ただ撃って落ちた。それだけだ。
残った橘花が俺を取り囲むように編隊を組み反撃に移る。攻撃されたのだから当然だ。
橘花の機銃が俺を打つ。
当たってはいない。かすってもいない。
しかし、大きく外れているのか、それとも、わずかに外れいているだけなのか。それがわかるすべはない。
俺は旋回し、一機、そして、一機と、照準に捉えていった。
国を、そして、家族を守るため、戦場で命をかけ、必死に生き延びてきた歴戦の勇者たちが死んでいく。
圧倒的な機体の性能差の前に、なすすべもなく逃げ惑う。
こんなの俺の望んでいた空中戦じゃない。ただの殺戮だ。ただ大鷲が小鳥を襲っているだけだ。
そして、全ての小鳥を撃ち落とした。
最初の日と同じ、夜空だった。ただ一つの違いは、頭上には、雲ひとつ無い、美しい星空が広がっている。
星空の中を大鷲が翔ぶ。涙を流しながら。
翼を大きく広げた大鷲の姿は、孤独で、悲しく、雄大で、自由だった。
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2015年、一機の
機体からは、機銃を発射した後が見つかり、自衛隊の発砲事件として問題となった。
パイロットの中島曹長は墜落時に死亡。
彼が何を守るために引き金を引いたのか。真相を知るものは誰もいない。
- 終 -
大鷲は星空を翔ぶ 明弓ヒロ(AKARI hiro) @hiro1969
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