第4話 出撃

 うまくいくわけがない。当時、いや、現在の日本とアメリカでは、国力が全く違う。しかも、昭和20年は記録的な凶作で、冬には大量の餓死者が出た。終戦後でも甚大な被害が出たのだから、戦争を継続していたら、いったいどうなるのだろう。


 この事態は俺が招いたのだろうか。俺は、これから来る悲劇に飲み込まれそうになった。


 基地が慌ただしい喧騒に包まれる中、橘少尉が訪ねてきた。

「中島さん、出撃の準備が整いました」

「そうか、破滅への一歩だな」

「いいえ、希望への一歩です」

「意外だな、君も今の大日本帝国の継続を願っているのか。やはり戦後の腑抜けた日本は、気に入らないかい」

「そうですね。もっと挟持をもってもらいたいですね。しかしながら、一億総玉砕と言って国民を犠牲にするよりは、良いと思えます」


 俺は彼の話していることがとっさに理解できず、問いただした。


「言っている意味がわからないが」

「あなたの機体、F15イーグルの出撃の準備が整ったと言っているんです。学徒動員された私の仲間も手伝ってくれました」


 何を言っているんだ、こいつは。


「燃料は足りず、整備も不十分かもしれません。ですが飛べるはずです。橘花を止めて下さい」

「君は味方の機体を落とせというのか?」


 こいつは俺に何をやらせようとしているのか。


「我々は大日本帝国の軍隊です。どんな犠牲を払ってでも、国体を守るため敵を殲滅することが使命です。しかし、あなた達自衛隊は違う。国民を守ることが最優先の使命です。大日本帝国海軍の行為が、国民に甚大な被害を与えることになるのであれば、あなたには、それを止める義務があります」

「しかし、俺の一存では」


 同じ日本人と戦う? そんなことできるわけがない。


「中島さん、あなたの自衛隊での階級”曹長”は、私達海軍の”軍曹”もしくは”伍長”ですね。そうであれば、私の階級はあなたより上です。そして、あなたの属する航空自衛隊は、海軍航空部隊の流れをくんでいます。つまり、ここでは、あなたは士官である私の命令に従わなければならない」


 橘少尉が真剣な面差しで俺を見つめる。


「中島曹長に命令する。直ちに出撃し、私の名前『橘』を持つ機体が汚名にまみれる前に撃墜せよ」

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