おくりねこ

さかな

本文

ちりん。

鈴の音が鳴る。

その音に呼ばれ、私は目を開けた。


「ここは……?」


声に応えるように、明かりが灯る。橙色の焔に照らされて浮かび上がったのは、1匹の黒猫の姿だった。


「気分はどうだね。何か、思い出せるかい?」


ずきりと頭が痛む。

私、ここに来る前何してたんだっけ。

ゆっくりと記憶の糸をたぐり寄せる。どこへ行っても馴染めず、孤独な毎日。居場所がなくて、いっそ死んでしまいたいと思った。この電車の前に飛び込めば楽になれる。そう思って--。


「おや、まだ喰い足りなかったか」


にたり、と猫が笑う。ひどく眠気を誘う声だ。記憶の先は、どうしても思い出せなかった。


「悪いきおくは、ここで全部喰ってあげよう。そうでないと、楽園てんごくまでの道がわからなくなってしまう」


ゆらり、と世界が揺れた。黒猫の輪郭がぶわっと広がり、視界を覆う。


「彷徨える子羊に、束の間の休息を。安らかにお逝き--」


それが、私の聞いた最後の言葉だった。

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おくりねこ さかな @sakana1127

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