村の青年市伊は、ある日森で美しい少女に出会う。彼女は人間ではなく、この山を統べる、神だった。
そんな神秘的なワンシーンから始まる、運命の恋と、選択の物語。
森のざわめきや水のせせらぎ、美しい自然の情景が、目に浮かぶように丁寧に紡がれます。
昔話を読んでいるような懐かしい感覚に浸ることができ、とても心地よかったです。
物語がすすむにつれて、市伊と柚良をとりまく状況も変化します。
都から、山の神は朝廷と対立するものとみなされ、制圧の対象になってしまうのです。
都に妖退治の専門家がいる、というのも熱い展開。そこから派遣される女性もまた、村に因縁のある人物で、重い使命を背負っていたり。
やがて、市伊は村と山を守るため、戦いの中に身を投じていくことになります。
山の女神である柚良は、もともとは村の危機的状況を救うため、山へと奉じられた人間。
そして市伊の柚良への想いもまた、遠い約束のもとに運命づけられたもので――。
と、因果関係があきらかになっていくにつれて、戦いの行く末と、彼らの選びとる未来から、目が離せなくなりました。
脇をかためる妖たちも神秘的で美しく、また、どこか人間らしさも持ち合わせていて愛らしいです。
森で神様を護る神獣たちや、天狗や木霊といった妖怪たちが、生き生きと描かれます。
とりわけ私は紫金様が好きです。
優雅なふるまいに茶目っ気も持ち合わせており、かつて人間に恋をしたことも……とかめっちゃ流されてましたけどちょ、そこkwsk!!
ってなりました。(笑)
と、これだけでは全然魅力をお伝えし切れず、もどかしいのですが、とにかく、重厚かつ、非常に読みやすく、清涼感のある和風ファンタジーです。
荻原規子さんの勾玉シリーズなどがお好きな方とか、特にハマれるんじゃないかと思います。
人と神妖が互いに領分を持ちながら、ときにあらそい、ときにまじわる――遠い我が国にもあったかもしれないそんな日々に、あなたも思いを馳せてみませんか?