第3話 「あの、貴方の背後霊さん、大丈夫ですか?」
席に着き、机にしがみつき顔だけでモニターを見上げた。
瞬間大きな横揺れが発生。
私は机にしがみついてたから耐えれたけど、先生と他数名の生徒が窓の方へ吹っ飛んでいった。
強化アクリルだから大丈夫だろうけど。
隣の席の女子が、吹っ飛ばされて絡み合ってる女子を見てにやにやしてる。
……やっぱりそういうこただよね?
彼らの無事を見届け、再びモニターに顔を向ける。
と、何かが飛んできた!
バッサッ
うわぁ!
何かが顔面に強打……でも痛くない。
それは何かの漫画雑誌で、よくよくみると私好みのイケメン達が一人の男の子をよってたかって……
しかも裸で!
え!ちょっと!
そんな、んんっ、やだ、すごい!
とりあえず机にしがみつきながら、漫画雑誌が飛ばないように机と頬っぺたで挟みこむ。
えっ!やだ!
ちょっと!うわぁ~!
あは。デヘェ~~。ぐへへ。
やば、ヨダレ垂れちった。
これってBLってやつだよね?
初めて読んだけど……へへへ。
バゴゴンッッツ
と、私の初々しい初体験の最中にまたしても縦揺れと斜め揺れのオンパレード!
くそ!いいところなのに!って思ってたら、油断してしまった。
しがみついていた手が衝撃で離れてしまい、その反動で私は大きく後ろに仰け反る。
解き放たれた漫画雑誌は宙を舞い、そのまま弧を描くように、後ろの席の人の顔面に当たった。
ヨダレがべちゃべちゃついてる。
イケメンとイケメンの衝撃的なアレなページ!
ガンッッ
仰け反った反応で振り子のように机に戻され、顔面強打。
またしても痛みに悶絶しつつ机にしがみつく私。
くそ!続きが読みたい!
と、後ろの席からなにやら不穏な叫びが聞こえてきた。
いや、叫びではない!
このうめきは……
そう思って恐る恐る後ろを振り返ると、さっきのBL本が直撃した男子が口元を押さえていた。
机の上にはイケメン達のあんなプレイやこんなプレイの真っ最中の赤裸々な生唾もののページ。
瞬間理解した。
こいつ、吐きやがる!
いや、違う!
すでに口元押さえてる手の隙間からなんか見えてるし!
ペプシン?ペプシンでちゃうの!?
吐いてるよね!?それ、吐いてるよね!?
もう食道通過して口腔内に溢れてるよね!!
何かを伝えたい気持ちが溢れてるのはその顔見たらわかるけど、今はやめろ!
その溢れる気持ちを吐露するのはやめろ!
鼻呼吸しろ、鼻呼吸!!
絶っっ対、手ぇ離すなよ!!
編入初日から弁当まみれはいいけど、ゲロまみれは勘弁!
いや、編入初日じゃなくても嫌だろ!
てか、教室の揺れに酔ったの?
それともBLが生理的に受け付けなかった?!
先に言っとくが、後者なら許さぬ!!!!
顔面蒼白なその男子は片手で口元を、片手で机を押さえていたが、ついに両手で口元を押さえだした。
校舎が揺れる度、ぐわんぐわん揺れる男子。
指の隙間から、消化中の朝食がわずかに飛沫する。
必死に避ける私。
最新のバーチャルゲームより迫力あるわ!
てか、机の中とか、鞄の中とか、そっちに吐けよ!
こっちに飛ばすな!
「あの……」
ふと前をみると、前の席の女子がこちらへ振り返り、気持ち悪そうに私を見ている。
いや、前を見てる余裕なんてない!
こうしてる間にも、教室が揺れるにしたがってこいつの朝食の粒がこっちに!
「は、はい」
「あの、貴方の背後霊さん、大丈夫ですか?」(※課題セリフ3)
「へ?」
「さっきから貴方の方からうめき声が」
ちげーよ!後ろのやつが吐きそうなんだよ!
てかもう吐いてるし!
同じクラスなんだから声でわかれよ!
そもそも朝から背後霊のうめき声が聞こえるとか普通ねぇーだろ!
むしろ、お前のその発想がすげーわ!
そう言った瞬間、前の席の女子の顔が、ガチで背後霊を見たかのように恐怖でひきつる。
私の後ろの席の男子と目が合ってしまったようで、とっさに私を盾にするかのように身を伏せた。
生け贄!?私は生け贄ですか!!
─キーンコーンカーンコーン
ようやく終業のベルが鳴った。
と、同時にガゴンっと動きが止まる校舎。
あれ?教室傾いたまんまですけど?
あ、これ元に戻る訳じゃないんだ……。
「はい、一時間目はここまで」
いやいやいや、教室傾いてますけど?
「開始二分のところ、あそこ試験に出るからちゃんと復習しとくように」
どこだよ!
開始二分のところってどこだよ!
「はぁい」
え!わかったの、みんな!
すごいね!みんな頭いいね!
てか、私、明日から不登校確定だわ!
「二時間目の音楽だが、昨日音楽室のピアノの固定具が壊れて何人か下敷きになったそうだ。くれぐれも怪我するんじゃないぞ」
「はぁーい」
それ怪我で済まないし!!
本物の背後霊になるやつじゃん!!
うぇーーーん!!
もーこんな学校やだーー!!!!
完
私の夢見た日常は何処へ!? 桝屋千夏 @anakawakana
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