人魚の涙

さかな

本文

コトリ、と。

落ちたのは、一粒の真珠だった。

歪む少女の顔を見て、胸が痛くなる。痛い、苦しい。そう訴えかけてくる表情を、私はただ見続けるしかなかった。


「ミウ。ねえ、もうやめようよ」


そう呼びかけても、ミウは泣くことをやめなかった。フローリングの床に、柔らかく光をはじく乳白色の粒がコロコロと転がっていく。


「リク。これをたべて。そうしたら、私たちはずうっと一緒にいられるのよ」


彼女はそういって、ぽろぽろ、ぽろぽろと真珠の涙を落とし続ける。それは、不老不死の妙薬だ。一つ拾って口に入れると、甘い甘い味がした。自然の摂理に背く、背徳の味だ。


私はそれ人魚の涙を食べて、彼女とともに永遠を生きていく。立入禁止のテープが貼られた廃マンションの中。ミウの力で結界が張られたそこは、私と彼女二人だけの閉じた世界だ。


人はそれを歪んだ関係だというのかもしれない。それでも私たちにとっては、ただ一つの愛の形なのだ。

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人魚の涙 さかな @sakana1127

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