ネトゲ廃人の学び舎構築
@shihonome_wm
序章:ネトゲ廃人と楽園のグランドフィナーレ
「この戦いが終わったら、君に頼みたいことがある」
天を揺るがす轟音、荒々しく隆起する大地。
天地創造を表すとすれば、このような光景を指すのだろうか。
創造の前には破壊がともに生まれる場合があるように、眼前に広がる世界を破壊しながら生み出たソレは、まるで神様を体現したかのような姿を模した怪物であった。
「藪から棒にどうしたんです?今から忙しくなるって時に、それ、いま聞かなきゃ駄目ですかね?」
この世界を破壊せんとする神の前に立ちはだかるは二人の人間。
一人は大きな体躯に燃え盛る炎のような赤い瞳。短く無造作に切り込まれた黒髪、顔には深く刻まれた古傷と短く生え揃ろう顎髭。
装いには損傷の激しい鎧を身に付け、焼け焦げた外套を纏った傭兵然とした雰囲気を醸し出す青年のような人物だ。
そしてもう一人。
この男の隣に立つもう存在は、はたして人間と呼んでよいのだろうか。
透き通るかのような白い肌に、見るものを惹き付ける宝石のような青い瞳。足首まで届きそうな長い髪は、黄金のように小麦色に輝いている。
黒と青の色を基調とした貴族然とした衣服を身に纏うその姿は、さながら一国の姫君か、あるいは豪奢な屋敷に住まう令嬢を彷彿とさせる。
「いやなに、皆までは話さないからこれからの戦いに支障はないさ、何故ならば」
「……何故ならば、何です?」
しかし、この女はあまりにも人のそれとは異なる尖った耳先を持ち、にこやかにつり上がった口からは、森の眷属と謳われる妖精の種族とはまた違う悪魔じみた八重歯が覗く。
「いまここで全部話してしまったら、死亡フラグ全開じゃないか♪」
いうなれば、魔女と評したほうが適切だろう。
女は目深に被っていた大きな三角帽子を指先で持ち上げ、腰に携えていた異様な形をした杖を抜き放ち、待ち焦がれていたと言わんばかりに時を告げる。
「時間だ」
その瞬間、この場には神を模した巨大な怪物と2人の男女しか存在しなかったはずが、女の合図と共に青白く光る粒子が幾度となく男女の後方で輝き出した。
そこからは空間を裂いて現れたかのように多種多様な装いをした大軍勢が出現し、けたたましい叫び声が空間全体を覆う。
「お待たせしやした団長おおおおおおお!!!どこまでもお供しやすううう!!」
「今日も背中が渋いぜええええ!!!副団長の兄貴いいいいいい!!!」
突如背後に現れた者たちの声を受け、男は身の丈以上の巨大な剣を肩にかつぎ、女は杖を天に掲げて高らかに声を上げる。
「同志諸君!今宵はよくぞこの場に集まってくれた!」
女は天に掲げた杖を地面に突き刺し、これから始まる戦いに向け、この場に集まった者たちを鼓舞する言葉を続ける。
「いまこの地にこれほど多くの戦士たちが辿り着いたことに、ワシは心が打たれるほど感動している!」
「この地に至るまで諸君は多大な苦難を乗り越えてきたことだろう!なかには半ば崩れ、この地に辿りつけなかった同志もいるだろう」
「全ての同志諸君と共にこの地に集えぬことに悔しさは感じるが、我々はこの世界に生きる者たち全ての思いを背中に受け、いま!この場に立っている!」
地面に突き刺した杖を抜き放ち、眼前にそびえる巨大な怪物へ杖を向け、さらに声を張り上げる。
「同志諸君よ!我々はこれまで幾度となく勇ましい戦いを重ねてきた!そしていまここに、我々の前には最後の標的が立ちはだかっている!」
「屈強な戦士たちよ、これまでのようにワシはまたこの問いを重ねよう!」
「諸君、汝らが求めるものはなんだ!!」
団長と呼ばれた女の問いに、この場に集った者たちは団長の問いに呼応して一子乱れぬ様相で言葉を返す。
「戦いを!飽くなき戦いを!!」
「我が身砕けるその時まで一心不乱の闘志を胸に!!」
同志たちの声を聞き、副団長の男もまた唇を軽く吊り上げて笑みを浮かべ、団長は杖から眩しいと言わんばかりの光を解き放ち、怪物と同志たちに向けて開戦の狼煙を上げる。
「宜しい!!ならばワシはいま再び、汝らを戦いの業火へ導こう!!」
「今宵我らは、神を越える!!!」
団長はその宣言の後に、副団長と共に怪物に向けて空高く飛びあがり先陣を切る。
その瞬間、怪物もまたそれに呼応するかのように天地を裂く咆哮を上げて大軍勢を迎え撃つ。
戦いの火蓋が切られたこの時、団長と副団長は胸が踊るほど眼を輝かせて同じセリフを放った。
「「ラストゲーム、フィナーレの幕開けだっ!!」」
いまここに、全世界で数十年の時のなか愛された多人数参加型大規模オンラインゲームの人気タイトル、MMO「フィラーヘルツオンライン」のサービス終了記念を祝した、ゲーム運営サイドとゲームプレイヤー同士の壮大な対戦型大規模レイドイベントが開始された。
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