天使っぽいキャラで暗黒中世にトリップした
百均
第1話
◆異世界トリップ一日目
突然だが今日から日記をつけることにした。
目的は、自分の正気を確認するためと日本語を忘れないようにするため、そしていつの日かこれを見るかもしれない同朋に向けて、だ。
だから、この日記はこれを見ているだろう“アンタ”に向けて語りかける形式にしようと思ってる。
……OK?
それじゃあまずは現状説明からだ。
現在、俺はプレイしてたオンラインゲームのキャラで異世界に居る。
――――おっと、さっそく俺の正気を疑ったかな? 安心しろ、まだ正気だ。多分な。
プレイしてたゲームの名前は“Angel or Demon”……通称、AOD。総プレイヤー数一千万人の大人気ゲームだ。もしかしたらあんたもプレイしてたかもな。
天使陣営と悪魔陣営に分かれて陣取り合戦をするゲームで、俺は天使陣営でプレイしてた。
プレイヤー名はシンドウエル……これは俺の苗字が新堂だったからで、とあるエロ漫画家とは関係ないことを明言しておく。
クラスは熾天使(セラフィム)で、レベルは一応カンストしてた。
んで、ゲームをプレイしてた俺はいつの間にか知らない森の中に居た。
いや、森というか果樹園みたいな感じかな。規則正しく木が並んでたし。
とりあえず、人の文明圏内っぽかったんで、俺はここに留まって自分の現状確認をすることにした。
スペックは、ゲーム内のシンドウエルのまんま。背中の翼(三対六枚もあってめちゃくちゃ邪魔臭い)で空も飛べたし、魔法も使えた。アイテムボックスも使えたんで、日記を取り出して今書いてる。
……こんなもんかな。
とりあえず、今日はいろいろあって疲れたし、この辺で寝ることにする。
おやすみ。
◆二日目
……起きたら自宅のベッドにいることを期待してたがそんなことはなかった。
ちなみに寝た場所だけど、アイテムボックスに入ってたシェルターってアイテムを使った。
使うと球体上の小部屋を作ってくれるアイテムだ。現代人の俺に野宿なんてできないぜ。
とりあえず、腹が減ったんで朝飯は適当な果物類をアイテムボックスから取り出して食った。
天使も腹は減るらしい。まぁ、ゲーム内でも空腹とかいう状態異常があったからな。予想はしてた。
フルーツは、マジでうまかった。まさに神界の食い物って感じ。日本の高級フルーツなんて眼じゃないね。……そんなに高いの食ったことないけどさ。
で、シェルターから出たら美少女と目が合った。
異世界人とのファーストコンタクトだぜ、やったな!
と思ってたら言葉が伝わらなかった。なんかフランス語っぽい言葉で捲くし立ててくるけど何言ってるかわかんない。
思い付きで、チャットイメージして語り掛けてみたらテレパシーで会話出来た。すごく天使っぽいです。
美少女ちゃんは脳内に直接語り替えられたことにすごく動揺してたけど、そのうち「天使ってすごーい!」って感じに受け入れてくれた。
で、そこからは情報収集。
美少女ちゃんは、金髪碧眼の12歳くらい(背丈で判断したけどおっぱい大きいからもしかしたら15歳位かも)で名前はジャネットちゃんというらしい。
ジャネットちゃんは最初俺を見た時、もうすごい勢いで目をキラキラさせて俺を見てた。
とりあえず、この世界にも天使はいて、尊敬の念を抱かれるっぽくて一安心。
「なぜ地上に降りてこられたのですか?」とか言うから「俺にはわからない。それは神のみぞ知ること」と言ったら失禁寸前な感じに震えてた。
その後、ジャネットちゃんの家に案内してもらったら、ジャネットちゃんの家族に激震が走った。
そりゃ六枚も翼がある天使が家にやってきたら誰でもそうなる。
テレパシーで語り掛けてみたらジャネットちゃんの両親は失禁して気絶してしまった。
俺が困惑してたらジャネットちゃんの兄弟姉妹が俺を色々ともてなしてくれた。
ジャネットちゃんの家族は男三人の女二人でみんなそこそこ美形だった。
んで、その日はジャネットちゃんの家にお泊りすることにした。
◆三日目
朝になったら村中の人間がジャネットちゃんの家に集まってて軽いパニックになってた。
俺が姿を現すと、誰もがありがたやーって感じで拝んでくる。
俺はちょっと気分が良くなって回復魔法をかけてやったら誰もが涙して感激してた。
いやぁいいことした。
その後、俺は村に合った教会に案内されて、まるごと教会をプレゼントされた。
いや、こんなん要らんし。
昨日ジャネットちゃんの家に泊まった時も思ったけど、この世界文明レベルが中世レベルで、なんだか全体的にとっても汚らしい。
ベッドは布に藁やら何やらを入れただけのもので寝辛かったし、なんか虫とかいっぱいいてなんか嫌だった。
結果、俺は教会前の広場にシェルターを出してそこで寝泊まりすることにした。
シェルターは、ぱっと見ドラえもんの近未来的なアイテムに見えないこともないから、それがこの村の人々には神秘的なものに見えたらしくってなんかみんな見学に来てた。
だんだんめんどくさくなったので、俺はシェルターにこもると寝ることにした。
◆十一日目
この村――ドンレミとかいうらしい――に来てから一週間が経った。
あれから俺はシェルターで引きこもり生活を送っている。
なぜかというと、俺が外に出ただけで村人がわらわらと集まってお祈りを捧げてくるからだ。
シェルターの周りも臨時の礼拝堂みたいになってたくさんの捧げものが置かれてる有様。
こんな風になってしまったのは理由があって、それは俺が天使だというだけでなく一週間前に掛けた回復魔法が原因だ。
あれ、どうもこの村の人々の病気とか怪我を完璧に癒してしまったらしい。
村人の中には重い病の人たちもいたみたいで、死ぬ前に本物の天使様を見てみたいと集まったところ、俺の祝福(回復魔法のことだ)で完治してしまったものだからさぁ大変。
あの日のことは“ドンレミの奇跡”とか言われて周辺の村々からも人が集まる始末。
俺も重病を押してやってきた人たちを見捨てることもできないから一日一回回復魔法を掛けて治してやってるけど……噂はどんどん広まってるみたいだ。
はぁ……どうしよう。
◆十四日目
なんか家にジャネットちゃんが住み着き始めた。
どうも俺と最初に接触した少女ということで聖女扱いされて俺の従者に任命されたらしい。
ジャネットちゃんは美少女だし、俺は碌に家事もできないからジャネットちゃんにやってもらうことにした。
ただ一つ条件を出させてもらって、それはこの家に住むなら毎日風呂に入ること。
この村……というかこの世界の人たちは風呂に入る習慣がないらしく、お湯と布で体を拭うだけだから、なんかちょっと臭いのだ。
というわけでジャネットちゃんには毎日風呂に入ってもらって、ついでに入浴の習慣も村に広めてもらうことにした。
ところが、俺がそう言ったらジャネットちゃんは何やら困惑顔。
どうも入浴禁止を押し進めやがったのは教会らしい。
暖かいお湯につかることで毛穴から病魔が入り込むとかなんとか……ばっかじゃねーの? と。
確かにペストとか天然痘とかヤバい病気ならそれもあり得るかもしれないが、普通はそんな心配はしなくていい。
というわけで、むしろ不潔にする方が病気になる。万が一病気に掛かったら俺が治すと言ってジャネットちゃんに入浴を布教してもらうことにした。
これで、多少は村の悪臭問題が片付くぜ。
◆二十一日目
ジャネットちゃんにいろいろとこの世界を聞いてみたところ、一つの事実が発覚した。
どうもこの世界……異世界じゃなくって過去のフランスっぽい。
少なくとも、俺の世界の平行世界かそんな感じだろう。
スキルもレベルも、モンスターも存在しないし、魔法や悪魔も実際には誰も見たことがないそうだ。
もうかれこれ百年くらいフランスとイングランドが戦争を続けていて、最近はフランスが滅茶苦茶負けこんでるらしい。
どれくらい負けてるかというと、王の戴冠をする場所が奪われたせいで王様が死んじゃったのに王太子が王に付けないくらい。
しかも巷では黒死病とかいう超やばい病気が流行っていて、もう民衆はマジ絶望って感じだってさ。
うん、これはあれだね……百年戦争の時代だわ。間違いない。しかも確か黒死病はこの頃には結構小康状態だったはずなのに、バリバリ猛威振るっているっぽいし、かなりヤバいね、こりゃ。
ジャネットちゃんが目をウルウルさせながら「これから祖国は……世界はどうなってしまうのでしょう」とか言うから、俺は彼女を安心させてやろうと、
「天使の声を聴いたジャンヌダルクという聖女が現れ、百年戦争を終わらせるだろう」
みたいなこと言ったら、雷に打たれたみたいに体を硬直させてた。
どうしたんだろ?
◆二十五日目
あれからジャネットちゃんの調子がおかしい。
何度もジャンヌ・ダルクを聞いてくるし(そんなに詳しくないからそのうちわかるとしか言えなかった)、ずっと物思いに沈んでる。
やっぱ、限定的なこととは言え未来のことは話すべきじゃあなかったかもしれんね。
特にジャンヌ・ダルクは最後かなり悲惨な最後だったし、もう未来のことを話すのは止めよう。決めた。
◆二十六日目
なんかそこそこ偉そうな神父さんがやってきた。
どうもオルレアンとかいう街で黒死病が流行っていてヤバイらしく、天使である俺に助けを求めてきたようだ。
街を一つ黒死病から救ったらジャネットちゃんも少しは元気になるかな? と思い、俺は快諾した。
とは言え、俺はそこがどこかわからないので神父さんに案内してもらうことになった。
時は一刻も争う……というわけで、愛馬であるユニコーンを召喚する。
幻想の生き物であるユニコーンに、皆度肝を抜かれてた。
ジャネットちゃんも同行するらしく、人数分のユニコーンを召喚し、いざ出発。
◆二十七日目
オルレアンについた。
さすがユニコーン、すごい早い。
ただジャネットちゃんを載せたユニコーンよりおっさん神父を載せた奴の進みが遅かったのがちょっと気になった。
重さのせいかな?(すっとぼけ)
オルレアンについた俺たちはそりゃあもう大々的に迎え入れられた。
生天使だ、誰だってそうする、俺だってそうする。
俺はにこやかに街に入ろうとして、……ちょっと止まった。
理由は悪臭だ。
街中のクソ、クソ、糞! 中世のヨーロッパの街はウンコが街中に捨てられてたって聞くが……これはヤバイ。
とは言えウンコを理由に見殺しにしたら俺こそウンコだ。
俺はツバサでホバーリングしながら街へと入った。持っててよかった天使の翼。
んで、速攻でこの街から離れたかったので気合を入れて範囲回復魔法をかけた。
街中を覆う癒しの光は、我ながら壮観な光景だったと思う。
あっという間に傷と病の癒えた人々が、広場に浮かぶ俺の元に殺到し、領主から歓待の誘いを受けたが、もちろん断った。
こんなウンコ臭い街に居られるか! 俺はドンレミの村に帰るぞ!
一応、去り際に糞尿を街中に捨ててる限りいくら直してもきりがないと忠告していく。
ついてに風呂の重要性も言っておくことにした。
帰りは転移魔法を使った。これは一度行った場所ならいつでもテレポートできるすぐれものだ。
◆四十日目
オルレアンを救ったことで、この付近にのみ知られていた俺の存在が一気に知れ渡ったようだった。
毎日のように黒死病や病に苦しむ人々の救援の願いが俺の元に届けられる。
この十日ほどはそういったところにひとっ跳びして回復魔法をかけ続ける日々だった。
んで国内についてはひと段落したかと思ったら、なんか教会の偉い人たちがやってきた。
意訳すると、こんな辺鄙な村に住んでないでうちの豪華な教会に来なよ、とのことだった。
ぶっちゃけシェルターがあればどこでも一緒だし、都会はウンコがヤバいから断った。
ドンレミの村の人たちは気のいい人たちが多いしね。
それに、教会の偉い奴らのくせに、奴らの俺を見る眼に敬意が全くこもってなかったのもある。
一般的な民衆よりも確実に信仰心がないのが一目でわかった。
天使になって馴染んだためなのか、最近は相手のオーラのようなものが見えるようになった。
心の美しい人は輝いて、汚いヤツは淀んで見える。
最も美しいのはジャネットちゃん。まるでオーロラのような美しさ。
目の前の豚共はウンコ。まるで無数の人々の怨念を背負ってるかのようだ。
というか、事実怨念なのだろう。
中世と言えば魔女狩りだ。これは教会の奴らに殺された無実の魔女たちの怨念に違いない。
俺が魔女狩りなんて残酷な行為をやめるように、と言ったところ豚共はなんと俺を偽物、悪魔扱いし始めた。
塩を撒いて追い出しておく。
◆百日目
オルレアンを救ってからというもの俺の元には重い病に侵された人々や黒死病の流行した街の人々の助けの声が届くようになった。
俺はそういった人びとのところに飛んでいき、回復魔法をかける日々を送っている。
最初は案内付きでやっていたが、そのうち地理にも詳しくなって単身飛んでいけるようになった。
治すついでに、俺は風呂の布教と魔女狩りの禁止を言って回った。
魔女なんて存在しないし、むしろ魔女狩りこそ悪魔の所業である。
一部淀んだオーラの宗教者たちの抗議を受けたものの、リアル天使である俺の主張は多くに受け入れられて、むしろそういった宗教家たちは街を追い出されたりした。
そんな日々を送っていると、俺の名前とそれに付き従う聖女ジャネット・ダルク(ちょっとジャンヌ・ダルクに名前が似てる)の名前は多くに知られるようになった。
すると、とある街で俺はそこに滞在していた王太子シャルル七世の招待を受けた。
歴史に疎い俺だが、コイツの名前はちょっと知っている。
ジャンヌ・ダルクに助けてもらったくせに裏切った屑の中の屑である。つまり、ウンコだ。
当然誘いは無視……しようと思ったのだが、ジャネットちゃんがシャルル七世に会いたがったのでお義理であってやることにした。
シャルル七世は、本物の天使である俺を見て慄いたようだったが、本物だとわかると「自分を王にしてほしい」とかいう図々しいお願いをしてきた。
断固拒否。誰が王様になるかなんて天使には関係ない話だ。
個人的にコイツが嫌いなのもある。
しかしこいつは諦めない。あんまりにもしつこいんで
「いつかジャンヌ・ダルクという聖女が現れお前を王にしてくれるだろう」
と教えてやった。
シャルル七世はジャネットちゃんを見て、ジャネットちゃんもなぜか頷き返した。
……なんで目と目で通じ合ってるんだろう?
シャルル七世は「では来る時を待つとします」と言ってあっさり引き下がった。
一応去り際に忠告。
「薄汚い裏切者が神のもとに受け入れられることは絶対にないだろう」
シャルル七世はよくわかってないみたいだが、これでこいつがジャンヌを裏切ることはたぶんないはずだ。
◆二百日目
最近、俺と偽物扱いした神父どもが異端認定されたらしい。
あちこちで「あれは魔女を守るために現れた悪魔の化身だ」とかなんとか吹聴していたのらしいのだが、俺に救われた人々が教会を包囲し、ローマ教皇自らそいつらを異端認定したそうだ。
近々ローマ教皇が老身をおしてこの村に謝罪に訪れるらしい。
かのローマ教皇をこんな辺鄙な村で迎え入れられるなんて! と今からドンレミの村は歓迎の準備に忙しい。
俺はと言えば、救いの手をフランスから国外に伸ばしたところだ。
イングランド、スコットランド、神聖ローマ帝国。
各地に赴くたびに、あんなフランスの片田舎ではなく我が国に住まわないかと誘いを受ける。
特に熱心なのがイングランドで、どうも俺がフランスにいることで攻めあぐねているらしい。
国内でも「フランスは神に選ばれた国なのでは?」という声がささやかれ始め、フランス王位をシャルル七世に返すべきなのでは? という声すらあるらしい。
結果、フランス、イングランドは正式な休戦は結んではいないものの事実上の休戦状態なあるらしい。
なんにせよ、下らん戦争がお休み状態なのはいいことである。
俺はそいつらに「地上はすべて神の庭である。人間の線引きに興味はない」と返している。
◆五年目
ついにヨーロッパから黒死病を駆逐することに成功した。
毎日コツコツとドンレミの村から出勤し続けた甲斐があったものだ。
この数年で俺の存在は聖書に正式に刻まれ、全天使の頂点、神の右腕ということになっていた。
ミカエルさんすいません。
ジャネットちゃんも17歳になって大きくなった。いろいろ。
もうどこからどう見ても完全無欠の美少女である。
聖女ジャネット・ダルクの名前はフランスのみならずヨーロッパ中に鳴り響いている。
ところで、彼女近々改名するらしい。
新しい名前はジャンヌ。これからはジャンヌ・ダルクとなるそうだ。
……え?
◆五年と一週間目
大変なことになった。
どうもジャネットちゃんは、いつまでたってもジャンヌ・ダルクが現れないみたいだから自分が代わりになってこの百年戦争を終わらすつもりらしい。
俺が現れた当初は事実上の休戦状態にあった百年戦争だが、すでに戦局は再開され、クッソ弱いフランスはすでにオルレアンまで攻め込まれてるそうだ。
これを落とされたらもう完全にフランスは終わりである。
そこで、ジャネット……ジャンヌちゃんはオルレアンを奪還しフランスを救い百年戦争を終わらすつもりのようなのだ。
なにも自分でやらなくても……と思うがジャンヌちゃんの決意は固かった。
仕方ない……俺も付き合いますか。
そう考えていたのに……。
「シンドウエルさまはここで待っていてください。天使が人の争いに関わるべきではありません」
ってどういうことだよ……。
◆五年と一か月
ジャンヌちゃんは去って行ってしまった。
俺は必死に彼女を食い止めたが、彼女は微笑んで俺を見つめるだけだった。
最終的に俺は折れ、彼女にユニコーンと俺の装備を与えることにした。
この地球上の武具で彼女に傷をつけられるものは存在しないだろう。
ドンレミを旅だった彼女は、即シャルル七世に迎え入れられ、全軍の指揮権を与えられた。
思いっきり良すぎだろ、あのウンコ。
門前払いにすりゃあドンレミの村に帰ってきたかもしれないのによ。
地獄へ落ちろ。
◆五年と二か月
ジャンヌちゃんが包囲状態にあったオルレアンを救ったらしい。
聖女ジャネット(今はジャンヌだが)を先頭とした突撃に、相手側は動揺し碌に戦いらしい戦いも起こらなかったらしい。
オルレアンに迎え入れられた彼女は、ラ・ピュセル・オルレアンと呼ばれ救国の聖女と呼ばれつつあるそうだ。
そのままの勢いで彼女はランスを落とし、そこでシャルル七世を戴冠させるつもりらしい。
勝敗は別にどうでもいい。シャルル七世が王になれるかなんてもっとどうでもいい。
ジャンヌちゃんが無事に帰ってこられればいいのだが……。
◆五年と三か月
ジャンヌちゃんがランスを落とした。シャルル七世もランスに入り、正式にフランス王となったようだ。
ジャンヌちゃんとその実家のダルク家はドゥ・リスという性を与えられ貴族となるようだ。
まぁ、なんにせよ、これで戦争は終わり。ジャンヌちゃんも帰ってくる。
めでたしめでたし。
◆五年と四か月
あのウンコ、死ねよ。
なんか碌に戦わずに勝てたことに調子に乗ったのか、このままパリも攻め落とすつもりらしい。
なんかブルゴーニュ? とかいうフランス貴族なのにイギリス側についた実力者が和睦を申し出てきたのに蹴ったらしい。
ジャンヌちゃんも貴族として参戦しなくちゃいけないっぽいし、あのウンコ……このために貴族に叙勲したんじゃないだろうな。
クソ……さすがにジャンヌちゃんのところに行くべきか?
うん、そうしよう。俺が強引に連れ帰ってしまえばなんとでもなるさ。
そう思っていたらイタリアで今度は天然痘が発生した。しかもクソ大規模。
何やってんだよ、糞どもが!
◆五年と五か月
……なんてこった。
俺が天然痘の完全なる撲滅に奔走してる間にジャンヌちゃんがブルゴーニュに捕らわれた。
ブルゴーニュは、シャルル七世に講和と賠償金を求め、シャルル七世はこれに応じた。
一瞬どうなることかと思ったがこれで一安心と思ってたらイングランドから横やりが入った。
なんとイングランドが倍の賠償金を払うと言い出したのだ。しかもそのままブルゴーニュをイングランドに迎え入れるという。
ブルゴーニュはこれを承諾。ジャンヌはイングランドへと売られていった。
それが一週間前のことだ。
今、ジャンヌは魔女裁判にかけられているという。
罪状は、聖女ジャネットを騙った罪。
ジャンヌの魔女裁判の裁判長はかつて俺を偽物扱いした神父どもの一派の生き残りだという。
上等だボケが! そんなに死にたいなら今すぐぶっ殺してやる。
◆五年と五か月と四日目
最悪の状況だがツキが回ってきた。
ジャンヌに貸していたユニコーンが俺の元に帰ってきた。
当然こいつはジャンヌの場所がわかる。
場所はルーアン、良し行ったことがある!
待ってろよ、ジャンヌ!
◆五年と五か月と五日目
間一髪だった。
俺が現れた時、ジャンヌは、火刑台に縛り付けられているところだった。
俺は速攻で彼女を救い出すと、その場にいた人間すべてに攻撃魔法ジャッジメントを放った。
これは対象のカルマに応じて威力を変える攻撃魔法で、カルマが善ならむしろ回復するという魔法である。
その場に集まった人々は、俺の魔法で三割ほどが一瞬で消し炭となり、残りの大半は大なり小なりのケガを負った。神父服を着た者で生き残った者がいなかったのを見た時は思わず失笑してしまった。
ジャンヌは、俺を見た瞬間抱き着いてワンワンと泣き出してしまった。
よしよし、怖かったな。
◆十年目
あれから五年の月日が経った。
結局、イングランドはフランスから手を引き、両国は俺の知る現在の国境線と同じ形となった。
本物の聖女を不当な魔女裁判にかけて火刑に処そうとしたことでイングランド王の信頼は失墜。戦争どころではなくなったようだった。
ジャンヌは貴族の位を返上し、今は静かにドンレミの村で俺と“三人”で暮らしている。
……そう三人だ。
ジャンヌは、俺の子を産んだ。
天使と人間の間に子供が生まれたことには驚いたが、まぁイエスも神との子なのだ。天使との間にだって子供が生まれるだろう。
生まれた子供は、もう三歳になるが見た目は人間と変わりはない。
ただその中身は別のようで、すでに軽い切り傷を治せるくらいの癒しの力を持っているようだ。
ジャンヌと並び聖女と呼ばれる日も近いだろう。
俺の日記はこれで以上になる。
俺の日々はこれからも続いていくが、日記はこれでおしまいだ。
これから俺は、ジャンヌと娘、そしてその子孫を見守りながら生きていこうと思う。
その過程で、俺はきっと今の俺の人格を失うだろう。
それをこの日記で克明に記していくのは……なんか正気度が減りそうな代物になりそうだ。
よって、この日記はここで筆を置くことにする。
いつの日か、この日本語で書かれた日記を見た後世の人々がどう思うか。
それだけがちょっと楽しみだ。
それじゃあ、ここまで読んでくれた“アンタ”へ。
いつか実際に会えるその日まで。
天使っぽいキャラで暗黒中世にトリップした 百均 @hyakkin
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