月とケルトの三女神たちは、それぞれ生命力の共有により、ギリギリでアムリタが間に合う形で生存。
マイラはとっさにピュートーン形態となり、巨神化スキルで生命力を水増しし、生存。
他のメンバーも当たり所が良かったかギリギリでロストを免れたが、アケーディアは元々の位置が悪くまともに喰らってしまいロストしてしまった。比較的後方にいたカルキノスたちも、戦闘力の低さからか即死だ。
疑似カード故か、俺の手の中で、ボロボロと崩れ去っていくカルキノスたちのカード。
だが、今はそんなことはどうでもいい。アケーディアを……ッ! いや、待て!
すぐさまアケーディアを蘇生用アイテムで回復させようとして、寸でのところで思いとどまる。
ここで使っても戦場では復活しない。俺の傍で再召喚が可能になるだけだ。
ならば、ここはあえて回復は後回しにする……!
『四発目は!?』
警戒する俺たちの前で、グガランナが背を向けて距離を取り始める。
その行動は、あの突進が三連発までで、クールタイムがあることを意味していた。
『追え! このクールタイムの間に絶対に始末しろ!』
俺の指示に、カードたちが憤怒の形相でグガランナを追う。
グガランナはその巨体も相まって、相当なスピードではあったが、全員が高等忍術を共有し縮地を持つウチのカードたちほどではない。
一瞬でその距離を詰めたカードたちは、各自掛けられるバフ・デバフを掛けられるだけ掛けた上で苛烈な攻撃を叩き込み始める。
それはまるで、アケーディアの仇を討つかのように……。
一撃ごとに悲鳴を上げ、悶えるグガランナ。
瞬く間にグガランナの生命力が削られていくのがわかる。
やがて、四肢を半ばまで切断され、グガランナが重たい音を立てて倒れ伏す。
手古摺らせてくれたが、これで終わりだ……と俺が勝利を確信しかけたその時。
『なっ!?』
その身体から、パチリと赤黒い雷が立ち上がり始めた。
『馬鹿な! まだ一分くらいしか経っていないぞ……!』
クソッ! クールタイム一分で連発して良い技じゃねぇだろ!
疑似安————は間に合わん! ならば!
『イライザ!』
これだけ追い詰めたならば、技を出す前に!
イライザだけを瞬間移動で突っ込ませ、他のメンバーは縮地で可能な限り距離を取らせる。
グガランナの頭の上に瞬間移動したイライザが、大鎌をグガランナの脳天へと振り下ろす。
ビクンッ! とグガランナが身体を大きく痙攣させ、赤黒い雷が消える。
そこへ、ダメ押しのもう押し。脳天へと突き刺したままの大鎌から、直接マグマを流し込む。
さすがに脳を焼かれてはグガランナも持たなかったのか、その姿が消え――――同時に、イライザとユウキ、メアが消えた。
リンクでもその存在を感じ取れなくなる。
「……………………は?」
ポカンと呆気に取られる。
なんだ? 何が起こった? カードたちも混乱し、消えた三名を探し、周囲を見渡している。
ハッ! と彼女たちのカードを取り出す。
そこには、灰色のソウルカードとなった彼女たちのカードがあった。
「ば、馬鹿な……」
一体何が……絶対攻撃を阻止できなかったのか? いや、確かに間に合ったはず。ならば、なぜ……あんな道連れみたいに――――道連れ?
そこで、ハッと思い至る。
グガランナは、『殺した者は死をもって償わなければならない』という逸話を持った聖獣でもある。
これを俺は『死なば諸共』系のスキルと考え、全員への『生還の心得』習得をもって対策としたが、そのまま『トドメを指した相手を強制ロストする』スキルだったとすれば……?
本来はイライザだけ道ずれにされるはずが、三相女神の効果によって、ユウキとメアも一緒にロストした?
「強制ロスト……そんなデタラメな……」
マジか……。Aランクからはそんなスキルも使ってくるのか……。
「せ、先輩……一体なにが……?」「カードキーデュラハンが……」
ウチのカードたちに装備化したデュラハンを通じて戦況を見ていたアンナたちが、戸惑いがちに声を掛けてきた。
見れば、その手には光となって消え去るデュラハンたちのカードキーがあった。
デュラハンのカードキーは、特に重要かつロストに恐れが低い蓮華とイライザたち月の三女神に集中させていた。
それが、イライザたちのロストにより、纏めて道ずれになったか……。
『……ショック受けてるところ悪いが、ほんの少しだけ良いニュースと、めちゃくちゃ悪いニュースがある』
そこへ蓮華の声が届く。
『……なんだ? 良いからさっさと言え』
『良いニュースは、確かにグガランナは倒した。それは間違いない。悪いニュースは……確かにグガランナは倒したはずなのに、グガランナの魔石とドロップが無い』
「……は?」
魔石とドロップが無い? それは、それは、つまり……。
『あのグガランナは、眷属だったってことだ』
『そんな馬鹿な!』
今回の戦いでは、使えるバフ・デバフは全部使った。
その中には、万が一グガランナが眷属召喚スキルを持っている可能性も考え、『凍てつく月の世界』もあった。
グガランナが眷属だったのなら、その時点で消滅しているはず!
……………………いや。
『オセと同じケースか……』
『多分な』
あの時も、眷属封印で消えない眷属が出てきた。
真眷属召喚のように対眷属スキルでも消せない眷属は確かに実在するのだ。
しかし、あのグガランナが眷属だったとは……。
グガランナを呼び出せる者など、限られている。
すなわち、グガランナが夫という記述もあるエレシュキガルと、グガランナを遣わした張本人であるイシュタル。そしてグガランナを造りイシュタルへと与えた主神アヌ。
そのどれかであった……。
――――ブブブブブブブ!
そこで、カードギアが振動した。
見れば、それはユージンさんからの着信だった。
メッセージではなく、通話での連絡は、緊急事態の合図。
俺はハッと息を吞むと、すぐさま応答した。
「はい――――」
『北川か!? すまん! 今すぐにでも島に来てくれないか!?』
開口一番、切羽詰まった声でそう告げるユージンさん。
何事かとアンナと織部がこちらを凝視してくる中、彼はこう言った。
『なんか帝国とか名乗る奴らがいきなり攻め込んで来やがった……! 奴ら俺らを奴隷にするとか言ってやがる……!』
――――それは、とうとう人間同士の戦いが始まったことを告げていた。