明けましておめでとうございます。
昨年は、本当にお世話になりました。
今年も何卒よろしくお願いします!
※『アポカリプスワールド』をフォローしてくださっている読者さんにお送りしたSS付き年賀状メールなのですが、メールの受け取り設定などで受け取れなかった方がいらっしゃるようです。
再送付はちょっと出来るかどうかわからないので、こちらに転載しておきます。
【本文】
――――これは、まだショウたちが平和な日本にいた頃の一幕。
「あれ? 姉小路じゃね?」
小学校の下校中、不意に呼び止められ振り向くと、そこには同じクラスの男子たちがいた。
彼らは、何やら駄菓子屋の前で買い食いを楽しんでいるようだった。
この駄菓子屋は、この辺で一番大きな公園の傍にあり、同じ小学校の子供たちのたまり場となっているスポットだった。
「姉小路の家って、この辺なん?」
「ああ、うん、まぁ帰り道……」
「ふーん、あ、一つ食う?」
「あ、ありがとう」
話しかけてきた男子……高橋くんの差し出してきた四つ入りの小さなドーナツを一つ受け取りつつ、僕は少しだけ気まずいものを抱いた。
高橋くんのグループは、クラスの中でも活発な方の男子たちで、名前は知っているが、あまり話したことがなかったからだ。
でも、同い年の男子にビビってると思われるのも面白くないので、表面上はいつも通りを装いつつ、今度はこちらから話しかけてみる。
「高橋くんは、この辺じゃないよね? 今まで見かけたことないし」
この公園と駄菓子屋を使うのは、主に帰り道の途中にある子供たちなので、メンバーも大体見覚えがあるが、高橋くんのグループをここで今まで見かけたことはなかった。
だから、勝手に真逆の方向に家があると思っていたのだが……。
「ああ。四組の佐藤の家がこの辺でさ、これから遊びに行くところ」
その僕の予想は正しかったようで、後ろにいる男子の一人が「よっ!」という感じで手を上げて挨拶してくる。
なんか知らない男子が混じってると思ったら、別のクラスの男子が混じっていたようだ。
確かに、彼はこの駄菓子屋で見た覚えがある。
にしても、他のクラスの男子とも普通に友達とは……顔が広いんだな。
まぁ、前に同じクラスだっただけかもしれないけど、僕はクラスが変わると大抵それっきりだからな……。
謎の敗北感を感じつつ、適当に話を切り上げようとした、その時。
「あれ? ショウ?」
そう、声を掛けられた。
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには予想通り姉ちゃんが自転車に跨ってこちらを見ていた。
「あ、姉ちゃん」
「今、帰り? もしかして、友達と遊んでたの?」
なぜか少し嬉しそうに姉ちゃんが言う。
別に友達というわけじゃないが、それを言うのもなんだか恥ずかしくて、僕は曖昧に頷いた。
すると、高橋くんがちょんちょんと僕の脇を突いて囁いて来る。
「な、なぁ、もしかして姉小路のお姉さん?」
「あ、うん」
「そ、そうなんだ」
なぜかソワソワと落ち着かない素振りの高橋くん。
他の男子たちも、急に落ち着かない感じになってきた。
そんな彼らの様子に気付いた姉ちゃんが、自転車を下りて挨拶してくる。
「こんにちわ、ショウの姉です。いつも弟と仲良くしてくれてありがとうね」
「ああ、いや、そんな……」
仲良くも何も滅多に話さないのだが……と、僕と話していた時とは打って変わってカチコチとなってしまった高橋くんたちを冷めた目で見る。
そこで、姉ちゃんが高橋くんらの持つ駄菓子を見た。
「もしかして、買い食いしてたの?」
サッと高橋くんが、お菓子を隠す。
一応、下校中の買い食いは禁止ということになっているため、なんだか悪いことをしているような気分になったのだろう。
滅多に無いことだが、たまに学校の方に「買い食いをしている子供がいる」とチクってくる人もいて、そういう時は担任の先生から注意があったりもした。
もっとも、姉ちゃんはそう言うことを注意するタイプじゃない。
それよりも、僕だけ何も食べていないことを気にしているようだった。
「ショウは、何も買わなかったの?」
「……財布持ってきてなかったから。高橋くんからドーナツは貰ったけど」
実際は、別に高橋くんたちと遊んでいたわけじゃないからだが、ここはそう言っておく。
高橋くんのことを付け足したのは、一緒に遊んでいるのに誰にもお菓子を分けてもらえなかったわけじゃないという見栄と、高橋くんに対するお礼も兼ねてだ。
心無しか、高橋くんも「ナイス!」という目で見てくる。
姉ちゃんは、僕の答えに「そっか」と頷くと。
「じゃあ、姉ちゃんが奢ってあげる。もちろん、皆の分もね」
「えっ!? マジっすか!?」
これには高橋くんたちも目を輝かせる。
「あ、でも私もあんまり余裕ないから一人1000円までね」
「せ、1000円! すげぇ! マジ、ありがとうございます!」
駄菓子屋で1000円と言えば、僕ら小学生からしたら考えられないほどの贅沢だ。
さっそくとばかりに駄菓子屋に駆け込んでいく高橋くんたちを尻目に、僕は姉ちゃんへと問いかける。
「姉ちゃん、いいの?」
一人千円だと、僕を入れて五千円になる。
高校生の姉ちゃんと言えど、かなりの額のはずだが……。
「いいのいいの、一応バイトもしてるしね」
そう言えば、休日とかにその日限りのバイトに出かけてたこともあったな、と思い出す。
確か隙間バイト? とか言ったっけ。
そんなようなことを考えていると、姉ちゃんにポンと背中を押される。
「ホラ、ショウも選んできなよ」
「うん、ありがとう」
ニコッと微笑む姉ちゃんに送り出され、僕も駄菓子屋へと駆け込む。
すると、高橋くんがコソッと話しかけてきた。
「姉小路の姉ちゃんってめっちゃ美人で優しいのな。超羨ましいぜ。ウチのクソ姉貴とは大違い」
「高橋くんもお姉さんいるんだ?」
「まぁな。ウチの姉貴はケチで優しくもねーけど」
「いやぁ、ウチの姉ちゃんもあれで、あれでなかなか……」
それから、高橋くんと「姉あるある」と盛り上がった僕は、それからたまに高橋くんやそのグループとも話すようになった。
そして、「姉小路の姉ちゃんは、メチャクチャ美人で優しい」という噂がクラスで有名となるのだった。