第4話 来たれ、若者
その後の事は、簡単に説明しよう。
疲労困憊した僕らを救ったのはホワイトレイディ達だった。
一羽のアイスバードが彼女達の娘の危機を知らせてくれたのだ。
皆、想像以上の美貌の持ち主ばかりで、僕は馬鹿みたいに見とれてしまった。
何故か、リルフィーの機嫌はひどく悪くなったのだが。
例の儀式とやらは、実はでたらめなものだった。
ホワイトレイディ達はリルフィーを人間の世界に戻そうとしたのだが、彼女が頑として受けつけなかった為、いい加減な噂を利用して「精霊の仲間になる儀式」をでっち上げたのだ。失敗したら娘も納得すると考えたらしい。
離れがたい想いは同じであるが、何時までも精霊と一緒にいると人間の魂には悪い影響が出るのだと言う。だから僕は精霊達の頼みをきいて、次の街までリルフィーを連れて行く事にした。
別れの時、彼女がわんわん泣いたのは言うまでもない。
結局、十年近く大陸をうろつきまわっている間、リルフィーはずっと僕の傍にいた。で、今もそうしていると言う訳だ。
「……反省してる?」
暖かい紅茶をカップに注ぎ、リルフィーはじろりと僕をにらむ。
僕はレストランから戻った後、一時間近くも自宅から締め出され、扉の前で凍えていたのだ。
だが、僕には僕の意見がある。
「わざわざ冬に南の果物のシャーベットを食べるなんて、やっぱり馬鹿げてるよ」
「まだ言ってるの?」
「だって、冬に、南の、シャーベットだよ? おまけに高い」
「もう。あなたって昔から妙な所が頑固なんだから……」
彼女はため息をつく。
「私が言いたいのは、今日くらいはケンカはしたくなかったのに、ってことよ」
「ああ――確かにそれについては悪かった。うん、反省している」
柔らかく微笑み、妻は紅茶とキスを僕にくれた。
僕は彼女のお腹をそっとなでた。
もとがすらりとしていた分、ふくらみがかなり目立つ。
「来年から、二人きりの記念日はしばらくお預けね」
「それもいいさ。春が待ち遠しいよ」
リルフィーは、すっかり母親の顔になっている。
彼女が呆れつつも譲ってくれるから、僕らの夫婦生活は成り立っているのだ。
多分、僕もそろそろ落ち着く頃合なのだろう。
仕事でも現場は引退したのに、ついあれこれ口を出しては煙たがられている。
もう、あまり余計なことは言うべきではない。
ただ――最後に一つだけ聞いて欲しい。
国勢調査官は、食い詰め者が仕方なくやる商売ではない。
残る未踏破地へ敢えて挑む、気概のある若者こそ、今必要なのだ。
もし興味がわいたなら、ぜひ門戸を叩いてくれ。
骨折りに応じた報酬は保証しかねるが、様々な経験ができる。
運が良ければ、生涯の伴侶さえ見つかるかもしれない。
もし、君が鼻ぺちゃでそばかすがあり、泣き虫でやせっぽちの可愛いホワイトレイディを愛せるならの話だが。
皇帝から国勢調査を命じられたので、ついでに嫁をつかまえて来ました。 EZOみん @ezo-min
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