血糖値を魔力に変換する能力をもらいまして
@ariyoshiakira
第1話 血糖値を魔力に変換する能力をもらいました
「加藤さん、また血糖値上がってますねぇ。Hba1cも10超えちゃってるじゃないですか。まだ甘いものやめてないでしょ?」
「はぁ、すいません」
かかりつけの女医さんから、毎度おなじみのお小言を頂く。
「もう……いくら薬で抑えていても、あなたの場合、その甘い物を暴食する癖を治さないことにはどんどん悪化しちゃいますよ? このままだと、透析まっしぐらよ? 目も見えなくなっちゃうわよ?」
「こわいですねぇ。以後気を付けます」
会社の健康診断に引っかかるたびに聞かされるこの脅し。実際いずれはそうなるのかもしれないが、今が大丈夫なら別に構わない。
寧ろ甘い物を断たれたら、きっと俺は死んでしまうだろう。主にストレスで。
「はぁ。どんなに自堕落な人でも、普通は多少改善してみたるするんですけどねぇ…… まぁいいです。本当に気を付けて下さいね? 血糖値が高いと血管だってボロボロになっちゃうんだから、頭の血管詰まらせてぽっくり逝っちゃうかもしれませんよ?」
「まぁ、その時はその時で」
女医さんのため息で、俺の診察は終了した。
そしてその三日後、彼女の予言通り、俺は頭の血管を詰まらせてぽっくり逝ってしまうのであった。
🔶◇🔶◇🔶
「のであった、じゃないですよ! 何ほんとうに死んじゃってるんですか!」
気が付くと、俺はかかりつけの女医さんと対面していた。
あれ? 俺確か死んじゃったんじゃ……
「ええ、死んでますよ。私の注意を一向に聞かないまま甘い物を馬鹿食いし続けて、挙句の果てに脳溢血で御臨終です。見事なまでの死にっぷりでした。糖尿病患者の鏡ですね!」
「はぁ。ありがとうございます」
「褒めてません!」
女医さんが、顔を真っ赤にしながら怒る。
でも全然恐くないんだよなぁ。
多分俺が甘い物を止められなかったのは、この人にも責任があるのだろう。
「……見事なまでの責任転嫁ですね。……まぁいいです、私は私の仕事を熟すまでですから。おほん。加藤さん、あなたには異世界に転生していただきたいのです。私は異世界に転移させる人材を見極めるため、下界に降りて活動していたのです。あなたは異世界への適性が非常に高い。本来であれば生きたまま転移していただき、ことが終わればまた元の生活に戻って頂くことも可能だったんですが…… あなたはこの度私の注意も聞かずに亡くなられてしまいましたので、転生という形をとらせていただきたいと思います。ただ乳児からのスタートではなく、死亡直後の身体を再利用する予定です。また承諾いただけた場合は、私からいくつかの転生特典も差し上げます」
「はい、ありがとうございます」
「……私たちが転生する人材を探していた理由、それは異世界に現れた魔王の脅威です。あなたには、その転生先の世界にいる魔王を倒していただきたいのです」
「なるほど、こわいですねぇ」
「……加藤さん、私の事馬鹿にしてます?」
「いえいえそんなそんな」
馬鹿にするほど関心が無いので。
「…………で、あなたに差し上げるのは、【血糖値を始めとした体内の不要な物質を魔力に換える能力】と【甘味を召喚出来る能力】です」
「……もう一度」
「え? だから、【血糖値を「そこではなく後の奴です」かえ…… 【甘味を召喚できる能力】です】
「ふむ……
やりましょう、魔王討伐!」
「え、えぇぇ……」
甘味を召喚できる能力なんて、夢のようじゃないか!
それさえあれば、働かなくても甘い物がいつでも食べられる訳だ。
控えめに言って……神だな。
「いや、神は私で……もういいです、やる気になってくれたのならそれで。では転生に同意という事でいいですね? 詳しい事は、現地で【ステータスオープン】と唱えてその説明文章を読んでください。あといくつかオマケもつけておくので、ちゃんと魔王を倒してくださいね? 特に期限はありませんが、出来れば人類が滅びる前にお願いします。では頑張ってください」
「はい! 甘味ありがとうございます!」
「全然人の話聞いてませんよねぇ!? ……バカ! もういいです、さっさと行っちゃってください!」
甘味食い放題かぁ。楽しみだなぁ。何から食べよっかなぁ。コンビニスイーツ制覇したいなぁ。あそこのケーキも旨いんだよんなぁ。いいないいなぁ。夢みたいだなぁ。
「はぁ……私は一度も、好きな甘味が召喚できるとは言って無いんですけどね。ではさようなら」
そんな恐ろしい言葉を最後に、俺は再び意識を失うのであった。
◇🔶◇🔶
「――【ステータスオープン】」
転生直後、俺は即座にステータスとやらを確認する。
あの女、最後にとんでもない言葉を残していきやがった。
先ずはどんな甘味が召喚出来るのか確認が必要だ。
名前 【カトー】
年齢 【二〇】
固有スキル【体内不要物魔力変換】【甘味召喚】
【アイテムボックス】【言語理解】
【体内不要物魔力変換】
体内の不要物を魔力に変換出来る
健康維持に必要な物質は消費されませんのでご安心を。
常に高パフォーマンスを維持するために、こまめな甘味の補給をお勧めします。
【甘味召喚】
魔物を討伐することにより、甘味を召喚出来る
召喚可能な甘味は、討伐したモンスターによって異なります。
現在召喚可能な甘味は以下の通りです。
・氷砂糖【∞】
【アイテムボックス】
物を亜空間へ収納出来る
触れた対象を保管し、その状態のまま保管します。
微小生物以外の生物は保管できません。
中から取り出す場合は、本人から一〇メートル以内の任意の場所に召喚出来ます。
【言語理解】
人種の言語を即座に理解し習得可能な
読み書きにも対応しています。
「ふむ」
【甘味召喚】
魔物を討伐することにより、甘味を召喚出来る能動発動型スキルです。
召喚可能な甘味は、討伐したモンスターによって異なります。
「なるほど」
――魔物を討伐することにより、甘味を召喚出来る
「つまりは」
――魔物を討伐
「嵌められたと言う訳か」
――氷砂糖【∞】
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁあああ‼」
ちくしょう! 氷砂糖は甘味とは言わねぇんだよ! 好きだけど! 好きだけどさぁ!
折角毎日一人スイパラが出来ると思ったらこの仕打ち。
あの女、今度会ったらどうしてくれようか。
「……とりあえず、――【氷砂糖召喚】」
手元に現れたいくつかの氷砂糖を口に全て放り込む。
ぼりぼりバリバリ。
あぁ、うまいなぁ、氷砂糖。
でもそうじゃないんだよなぁ。甘味って、そういうことじゃないんだよなぁ。
「本当の甘味を食す為に、魔物を倒すしかないかぁ……」
はぁ。結局こっちでも甘味の為に働かなくてはならないとは。
世の中ままならない。
とその時、近くの木の陰から一匹の丸いぷよんぷよんした物体が現れた。
周りを見渡すと、この場にいるのは俺一人。
ていうかここ、草原だったのか……。
改めて、自分の今の状況を振り返ってみる。
今目の前には、たぶんスライムだと思われる魔物が一匹。良く分からないが、多分敵意を剥き出しにしている気がする。
一方俺の装備は、えんじ色のローブに自分の身長よりちょい短めの木の杖。
今思えば体系が大分すっきりしている。そう言えばステータスに年齢が載ってたな、二〇歳って。前世のほぼ半分じゃねぇか、ラッキー。
視界に入る前髪も、何やらキラキラ光っている。多分金髪かな?
そう言えば、死体をどうこうするとかいってたっけか。
さて、完全に魔法使いコスな訳だが、加えて血糖値を始めとする体内の不要物を魔力に変換出来るという凄そうな能力を貰った訳だが、更に言えばその血糖値も無限の氷砂糖によって永遠に上げ続けられる訳なんだが……。
「魔力って、どう使やいいんだってばよ……」
肝心の魔力から攻撃手段に転換する方法がわかんねぇ。
魔力の意味ねぇじゃん。
と一人呆れていると、スライムが急にこちらへと接近し、俺の引っ込んだ腹にクリーンヒット。
「ぐへぇ」
い、いたい。
結構本気で痛いやつだ。
えづいた口から涎がダラダラと出てくる。
スライムの方を見ると、もう一アタックと言わんばかりに助走をつけ直している。
「し、しんじゃう」
一回死んでる訳だが、こんな苦しい死に方は嫌だ。
取り敢えず、その場に転がりスライムアタックを避ける。
「どうにかしないと……」
杖で突いてもいいけど、この杖ぼろっちぃからすぐに折れてしまいそうだ。
となると、魔力をつかうしかあるまい。
魔力と言えば、やっぱり魔法だろう。
「魔法、魔法…… ああもう! なんでもいいからすっごい魔法、出ろっ!」
――ドッガーーーッン‼
激しい爆発音と共に、身体に凄まじい衝撃を受け後方へとゴロゴロ吹っ飛ばされる。
「いててて、何だったんだいきなり…… へ?」
目の前に広がるのは、抉るようにして削り取られた地面。
隕石でも落ちたのかというレベルのクレーターだった。
「うわぁー、ひくわー。スライム一匹にこの威力とか、ないわー」
確かにすっごい魔法とは言ったが、加減よ。
「まぁいいか。流石のスライムさんも生きてはいまい。っと、甘味チェック甘味チェック♪」
・角砂糖1
「だから角砂糖も甘味じゃないですからーーー‼」
血糖値を魔力に変換する能力をもらいまして @ariyoshiakira
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