~エピローグ~
日差しが眩しい。
真上に上った太陽が容赦無く海を照らしつけ、その光を反射させる。ぶわっ、と吹きつける風に思わず頭を押さえたが、そう言えばもう帽子は被っていないんだと気づいた。
さばんな、じゃんぐる、こうざん、今まで色んなちほーを旅してきたがその地域によって風の匂いも強さもまるで違う。海の風はちょっぴりしょっぱい。まるで海水をそのまま浴びているような気分だ。
遠くの方では海鳥がきゃーきゃーと鳴きながら楽しそうにその羽根を羽ばたかせていた。その声に混じってバスのエンジン音が勢いよく唸りを上げる。
目的地はゴコクエリア。
あの島では一体どんな出会いや体験が待っているのだろうか。勿論楽しいことだけじゃなく、ハプニングや困難もあるだろう。それでも、先のことを考えるだけで胸が大きく高鳴った。
この調子でいけばあと数時間もすれば上陸できるだろう。
そう思っていた矢先のことだった。
「デデデ……電池……。バスノ電池ガ……」
「ここでー!?」
突然かばんの右手でラッキービーストがそう告げる。その瞬間バスのエンジンがぴたり、と動かなくなってしまった。
思った以上に早いハプニングの到来に思わず頭を抱える。さっきまで上げていた威勢のいい轟音が今では嘘のように静かだ。
波と風の音だけがただ無情に響き渡る。
するとそれらに混じって、キコキコキコキコ、という聞き慣れない音が聞こえてくることに気づいた。
キコキコキコキコ、キコキコキコキコ。
どこからともなく聞こえてくる軽快な金属音がどんどん近づいてくる。
「あっ!? ヤバいよ! こっちも止まらなきゃ! ストップ! ストーップ!!」
懐かしい声が、聞こえる。
ついさっき別れたばっかりなのに、その声を聞いただけで、泣きそうになる。
ガツン、という音と共にバスが大きく揺れた。
「あ!? サーバルちゃん! みんな!」
「えへへへ……。やっぱり、もうちょっとついて行こうかなぁって!」
サーバルが、そこにいた。
バスの後部座席から顔を出し、こちらに向けて照れ笑いしている。さばんなちほーで一回別れてから再会した、あの時と同じ笑顔が、そこにあった。
その顔を見て胸がいっぱいになる。
「もぉ~」とかばんが言った。
その時水面が弾けるように飛び散り、見たことのないフレンズが顔を覗かせた。頭についた
「なになにー? どこ行くのー?」と、そのフレンズが語りかけた。
「あなたは、何のフレンズさんですか?」
「お友達になろうよ!」
サーバルが手を差し伸べる。
マイルカ、と名乗るそのフレンズが手を取った。
初めての出会いはいつだって突然で、その度にこれから起きることにわくわくする。巻き込んで、時には巻き込まれて、そうしてまた新しい誰かと出会ってどんどん、どんどん、その輪が広がっていく。
世界はきっと自分が思っている以上に広く、大きい。まだまだわからないことだらけだけど、それでもサーバルやみんなと一緒なら進んでいけるだろう。
ふと空を見上げると、見慣れない雲が一筋、ずっと先まで続いていた。まるでこれから征くべき道を指し示しているかのように一直線に伸びているその雲を見て、旅はまだ始まったばかりだ、と思う。
「――ちょっと待つのだ!」
「え?」
「アライさんを差し置いて何楽しそうに話しているのだ! その話、アライさんにも聞かせるのだー!」
「アライさーん。せっかくいい雰囲気だったのにぶち壊しだねぇ」
バスの後部座席から大きな声を上げたのはサーバルと一緒についてきたアライグマだった。それに応えるようにフェネックの間延びした声が響く。
「むしろぶち壊しなのはサーバルの方なのだ! せっかくアライさんの考えた『新天地先回りかばんさんドッキリ大作戦』が台無しなのだ……」
アライグマが肩をすくめて残念そうに呟いた。
港で別れを告げている間、みんなはそんなことを考えていたのかと思うとおかしかった。いつの間にか後部座席に新設された足漕ぎ式の操縦席を見てると、その思いがより一層強くなって胸を押される。
「それよりかばんちゃん、こんな所で立ち止まってどうしたの? 何かあった?」
「実はバスの電池が切れちゃって……」
かばんの言葉にその場にいたマイルカ以外の全員が驚く。マイルカはぽかんとした表情で「でんちってなになにー?」と聞いてきた。
「電池はこのバスを動かすために必要なものですよ」
「じゃあそれがないと、この船も動かないの?」
マイルカの問いにかばんが頷く。
まさかこの大海原で立ち往生することになるなんて想像もしておらず、そのための対策も今のところ思いつかない以上、あまり状況は芳しくないと言える。サーバルたちが来てくれたとはいえ、これからどうするのか考える必要があった。
それを聞いたマイルカがぱっと手を上げる。「じゃあ私が押してあげる!」と言った。
「えっ!? できるんですか!?」
「んー……わかんない! でもお友達が困ってるんだから助けなきゃ!」
そう言ってくるりと水中で身を翻すと、あっという間にバスの後ろについてしまった。「おぉ~」という声がみんなの口から揃って出る。
「しゅっぱつしんこー!」というマイルカの掛け声と共にバスがぐん、と動いた。そのまま水飛沫を上げて加速していく。
「凄いねマイルカ! ぐんぐん進んで行くよ!」
「マイルカさんが優しい仲間想いの方でよかったよ」
「マイルカハ、通常10頭カラ50頭程度ノ群レヲ成シテ行動スル事ガ多イケド、時ニハ100頭カラ2000頭モノ、群レヲ形成スル事モアルヨ。コノ群レヲ、スクール、ト呼ブヨ」
ラッキービーストの説明を聞いて、「2000!」とサーバルと二人で顔を見合わせる。自分が今まで出会ったフレンズの数よりも断然多い、その桁外れな数字に思わず感嘆の声が洩れた。
その群れに混じって彼女が楽しそうに泳ぐところを想像する。改めて海のスケールの大きさというものを実感した。
――そう言えば、とかばんがふとあることを思いついたように口にした。
「マイルカさん、この辺りは岩礁が多いのでぶつからないように気をつけて下さい」
「はーい!」という声が後ろから返ってくる。さっきよりもスピードを落として、バスがゆったりと波の上を滑る。
するとサーバルが驚いたようにかばんに語りかけてきた。
「凄いねかばんちゃん! どうして知ってるの?」
サーバルに言われてかばんもあれ? と首を傾げる。そして、ようやく今自分の言ったことが矛盾していることに気づいた。
「どうしてだろう……」
そもそも自分はそのことを知っていたのか。かばんとしては、ただ、何となくその時頭に浮かんだことを言っただけだった。
ただの勘にしては何か引っかかる。しかしその引っかかりすらもうまく言葉では言い表せない。もどかしさだけが募っていく。
間違いなくここに来るのは初めてのはずなのに、どこか既視感のあるこの感じは何なのか。まるでそこだけ記憶にもやがかかったように、思い出そうとしても思い出せなかった。
その時後ろからアライグマが言った。
「やっぱりかばんさんは凄いのだ。さっきもアライさんたちのために紙飛行機を投げて道を示してくれたし」
「――え?」
「ほーんと、サーバルがバスを見失った時はどうしようかと思っちゃったよねー。危うく遭難するところだったよー」
「だからごめんってー! でもその紙飛行機にいち早く気づいてキャッチしたのも私だよ?」
彼女たちの会話が頭に入り込んでこない。
一体何の話をしているのか。
まるで耳に水が入ってしまった時のようにその声が、遠く、重く、沈んでいく。
だってそんなこと――自分はしていない。
そもそもかばんはサーバルたちがついて来ていることすら知らなかった。それなのに紙飛行機を投げて道を示した?
紙飛行機――。
その言葉を聞いた瞬間、心臓がドクン、と大きく脈打ったのがわかった。
恐る恐る、サーバルに尋ねる。
「……ねぇサーバルちゃん。その紙飛行機って――」
「これだよ」
そう言ってサーバルが渡してきた紙飛行機を見て、かばんは今度こそ心臓が止まりそうになった。息を呑んで大きく目を見開いたまま、呼吸ができなくなる。
一目見てわかる。これは間違いなく自分が折ったものだと。
そして自分はこの紙飛行機を――知っている。
知っているのに思い出せない。何で知っているのかもわからない。得体の知れない恐怖が全身を襲う。まるで思い出しようもない幻の記憶に踊らされているようだった。
今まで気にもしなかったバスの揺れが急に気持ち悪く感じ目眩がしてくる。
思わず頭を押さえると、心配したサーバルが「どうしたの?」と顔を覗き込んできた。そのサーバルの表情が、一瞬で固まる。
「何で泣いてるの?」
「え――」
かばんは泣いていた。
サーバルに言われてやっと気づき、目の縁に指を当てる。ぽろっと、頬を一粒、涙が滑っていく。零れた涙が、手のひらの紙飛行機に染みをつくった。
染み込まないくらいパリパリに乾いていたのに――染み込んだ。
一体この紙飛行機はどれだけの時間を漂い続けていたのか。そんなことあるはずもないのに、ずっと空中を彷徨い続ける紙飛行機を想像したら、また涙が出てきた。
無心でその紙飛行機を開いていく。
普段はそんなことしないのに、何故か、そうしなければならない気がした。
はやる気持ちを抑えながら、時間を巻き戻すように、ゆっくりと開いていく。
「これは――絵?」
そこに描かれていたのは夜空を彩る星々だった。クレヨンで丁寧に色が塗られ、その星と星が線で結ばれている。
その線が一つの絵を浮かび上がらせていた。
今担いでいるかばんそっくりの絵を、鮮明に記していた。
その下にかばん、という文字が綴られているのを見た瞬間、ああ――、と心が悲鳴を上げた。
やはりこれを描いたのは自分だったのだ。
かばんは文字が読めても書くことはできない。それなのに、自分で書いたという確信が沸々と湧き起こってくる。
どうしてなのか。
そんなの決まっている。
自分に文字を書くことを教えてくれた誰かがいたからだ。そしてその誰かと一緒に、この絵を描いたのだ。
だからこの絵にはもう一人、名前が書かれていないとおかしかった。
でも――。
どこを探してもその名前が見つからない。
どんなに注意深く見ても、逆さにしたり、太陽に透かしてみても、その名前が見当たらない。
かばんの隣に寄り添い合うようにして綴られた、その星の主の名前だけが、まるで最初から存在していなかったかのように、綺麗にそこから消えていた。
「どうして……どうして……」
ねぇ、あなたはどこから来たの?
どうして僕の元に来てくれたの?
これを一緒に描いたこの子は、今どこにいるの?
思い、出せない。
何も、思い出せない。
くしゃくしゃで、掴んでいなければ今にも風で飛ばされていってしまいそうなか弱いこの一枚の紙は、間違いなく強い意思を持って自分の元へ来たはずだ。
それなのに、その意思がどういうものなのか、誰のものなのか、何もわからなかった。わからなくて、ふがいなくて、涙が止まらなくなる。
その光景を見ていたサーバルが「わー! かばんちゃんが、かばんちゃんがー! 早起きしちゃったから泣いちゃったー!」と騒ぎ立てた。何事かと慌てたアライグマたちがすぐにバスを横につける。
泣くのを止められないかばんに代わってサーバルが事情を説明する。みんなが一様にかばんのことを心配する中、絵を見たフェネックがこう言った。
「これ、多分星座じゃないかな」
「せい、ざ……?」
フェネックに言われた言葉を繰り返す。
初めて聞いたはずなのに、何故かとても懐かしい響きだった。
「せいざって、ずっとやってると足がビリビリしてくるあれのことかー?」
「それは正座。字が違うねー」
「うぅむ……。難しくてアライさんにはさっぱりなのだ」
「それでその星座? っていうのがこの絵に描かれてるものなの?」
サーバルの問いにフェネックが頷く。まだ昼間の明るい空を指さしながら「私も詳しくは知らないんだけどー」と前置きをして語り始めた。
「ヒトはその昔、星空を眺めながらそこに光る星と星を繋げて、名前をつけて遊んでいたらしいよ。それは動物だったり物だったり、色々あるけど季節や場所によって見えてくる星座も全然違うんだってさー」
その話にみんなが口を揃えて「へぇー」と言った。「どうして違うの?」というサーバルの質問を「さぁねぇ」と軽くあしらい、話を続ける。
「私も全部の星座を覚えてるわけじゃないんだけどこんな星座は見たことないなぁ」
フェネックが記憶を辿るように一瞬中を見た後で、「でも」と言った。
「この星の位置だと多分ここからもうちょっと行った所から描いたんじゃないかな」
その一言にかばんがはっと顔を上げる。思わず「本当、ですか……?」と声が洩れた。
「フェネックすっごーい! まるでかばんちゃんや博士たちみたい!」
「いやーまぁ、これも全てアライさんのお陰だよー」
するとそれを聞いていたアライグマがいきなり立ち上がった。
「ふっふっふ……。アライさん、今のフェネックの話を聞いて全てわかってしまったのだ」
得意げな表情を浮かべ不敵な笑みを零す。両手を腰に据えたそのポーズが自信の程を物語っていた。
「つまりこれは――宝の地図に違いないのだ!」
「宝の地図?」
全員が一斉に声を揃える。その場にいる誰もがアライグマの話に疑問を抱いたが、「その話知ってる!」という思わぬ発言に驚いてその声の主の方を見た。
マイルカだった。マイルカが目を光らせながら語る。
「この辺に昔から伝わるお話があってね、お月様がまん丸の日にしか現れない島があるんだって。そこにはまだ誰も見たことのないパークのお宝が眠っていて、今もそれを狙っているこわ~い海賊がいるんだよ」
海賊、という言葉に胸騒ぎがした。どういうものなのかはよくわからないが、それでも何となくあまりいい響きではないのはわかる。
「それでね、その海賊の名前は――」
その時、突然目の前の海が大きくうねりを上げたかと思うと、次の瞬間視界を覆い尽くさんばかりの水柱がどっと立ち上った。
何かが降ってきたのだ。それもとてつもなく大きい、黒い塊のような何かが――。
けたたましい爆発音と共に海水が滝のように降り注ぐ。キーン、という耳鳴りが脳に直接突き刺さり、視界がぐわんと揺れた。
そのあまりの一瞬の出来事に、何が起きたのか誰も理解できずにいた。
『そこの船ー! 今すぐ降伏しなサーイ!』
今度は後ろから大きな声がする。マイクか何かの拡声器を使った、ひび割れた声だった。それが辺り一帯に響き渡り、また鼓膜を揺すぶる。
耳を押さえながら後ろを振り向いたその時、目の前の光景にその場にいる全員が目を見開いた。
巨大な船が、こちらに向けて迫ってきていた。
かばんたちの乗る、バスを改良したものではない、正真正銘本物の船だ。港にあったものとは比べものにならないくらい立派で、木が幾重にも折り重なってその巨体を造り上げている。
一体こんなものをどうやって動かしているのか。垂直に伸びたマストと、そこに描かれた不気味な絵がこちらを見下すように嘲笑っていた。
『今のは警告よ。次は――当てるわ』
今度は別の誰かの声が聞こえる。凛とした、透き通った声だった。
次は当てる、という言葉に背筋が凍りつく。やはりさっき空から降ってきた物体はあの船から、しかも意図的に発射されたものだったのだ。どうやってあんな巨大な鉛の玉のようなものをここまで飛ばしたのか理解も及ばないが、その明確な攻撃の意思にすっと血の気が引く思いがした。
確信する。あの船に乗っているのがさっきマイルカの言っていた海賊だと。
『あんたたちが宝の地図を隠し持ってるっていうのはお見通しなんだから! そうでしょう? ――ギツネ』
『えぇ。――と同じ匂いがするもの』
会話に所々ノイズが入りうまく聞き取れない。しかし、どうも彼女たちはこちらに宝の地図があると思っていることだけは確かだった。もしそれが、アライグマの推測通りこの紙飛行機だったとしたら――。
その時マイルカが叫んだ。
「やっほーキャプテン・カラカル! 私だよーマルカだよー! 海賊ごっこなら私も混ぜて混ぜてー!」
「えっ!? マイルカさん知り合いなんですか!?」
驚いてマイルカの方に目をやると、彼女は「うん! よく遊んでもらってるの!」と答えた。
その声に気づいたのか、ぴたりと向こうから音が消える。それから急にマイクの向こう側でざわつく声が聞こえた。
『え……? マルカ……? ほんとに……? ということはお宝泥棒じゃない?』
『うわーどうしよう!? カラカルが撃てって言うから撃ったのに!』
『はぁ!? あんたがちゃんと確認しないのがいけないんでしょ!』
『でも私はキャプテンの言うことに従っただけだもん!』
『あんただってキャプテンじゃない!』
マイルカへの誤射についてどうやら揉めているらしく、『ねぇねぇ二人とも、今は言い争ってる場合じゃないと思うんだけど……』と仲裁に入った誰かに向かって『だって!』という二人分の声が響く。マイクの電源が入っていることにも気づいていない様子で、その後も激しい口論は一向に止む気配がなかった。
『やっぱりキャプテンは二人もいらなかったんじゃないかしら……』
『それよりどうするんですの?』
『どうするってそりゃ……あ』
そこでブツ、とマイクの電源が切れる音がした。
ふいに訪れた静寂の中、タイミングを見計らっていたようにかばんが口を開く。
「ねぇみんな。僕、あの船に行ってみたい」
思いもよらないかばんの発言にサーバルたちが目を見開いた。呆気にとられたようにかばんの顔を見つめている。
「ほ、本気なのかかばんさん!?」
「さすがかばんさん、ガッツあるねー」
「大丈夫かばんちゃん? 危なくない?」
みんなかばんのことを心配していた。確かに相手は未知の技術を持ち、顔もわからないような者なら攻撃してくるような集団だ。
でももう不思議とそこに恐怖は感じなかった。
きっとあそこに乗っている子たちもサーバルらと変わらない優しい心を持ったフレンズで、今こうして話している間にも、マイルカや自分たちの身を案じているに違いない。
マイルカの知り合いで、一緒に遊んでいるというその子たちの顔が見てみたかった。
そして、彼女たちの力を借りて、この紙飛行機の謎を解きたかった。
これまでも幾度となくフレンズのみんなには助けられてきた。もしかしたら今回だって自分にできることは何もないかもしれない。
でも――。だからといって一人で背負い込む必要なんてない。自分にはサーバルが、みんながついている。
この紙飛行機がサーバルと自分を繋ぎ合わせてくれたように、船の向こうで待っている彼女たちとの出会いも導いてくれたのだとしたら――。
不安げに見つめるサーバルたちにここで待っててもらうように告げ、マイルカに合図する。
バスを出そうとしたその腕を、サーバルが掴んだ。
がっちりと、離さないように、強く、掴んだ。
「え?」とサーバルを見る。
「もうかばんちゃんを一人にはさせないよ! 私もついていくんだから!」
「かばんさんだけあの船に乗り込もうなんてズルいのだ! 一番乗りはアライさんがもらったのだー!」
「ま、アライさんがついていくんなら当然付き合うよー」
「みんな……!」
それを見たマイルカの「じゃあみんなで一緒に、しゅっぱつしんこー!」という号令に「おー!」とみんなの掛け声が揃う。勢いよく跳ねた海水が、七色の光を伴って頭の上で弾けた。
波に揺られながら船に向かう途中、もう一度紙飛行機に描かれた絵を見る。色んな色で塗り潰された星と月は飛んできた海水を弾き、絶えず今もこの紙の中で光り輝いている。見ているだけでこちらまで楽しくなってしまうような、不思議な雰囲気を纏っていた。
かばん型に縁取られたこの星座はかばん座とでも言うのだろうか。だとしたらこっちの羽根のような星座は何という名前なのだろう。ふと、少しだけ、サーバルの大きな耳に似ているような気がした。
その星座を指でなぞる。
絵に添えられた『ずっと待ってるよ』という言葉の隣に書かれた文字を、かばんは語りかけるように囁いた。
「待っててね。――セーバルちゃん」
見上げた空に、うっすらと、でも確かに、丸い月が浮かんでいた。
僕と、セーバルちゃんのこうかんにっき こんぶ煮たらこ @konbu_ni_tarako
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