怪異に蝕まれていくのは

 ホラーの一番の魅力というのは、怪異の正体にかかっていると思う。この話を読んで改めてそう感じた。
 少しずつ侵されていく日常。水源荘に引っ越してきたばかりの青年、川野は違和感を覚えるも、新しい生活のストレスや悩みにより徐々に気に掛けなくなってしまった。彼の中に渦巻く孤独、郷愁、後悔。そんな中起こったある事件により、物語は急加速していく。最後には水源荘に潜むモノの「正体」を知ることになるのだが、その過程が面白い。
 詳しくは語れないが、怪異が起こった背景から周囲の反応に至るまで、全てが迫真的なのだ。怪異が現れている以上、現実から逸脱していることは間違いない。それなのに妙に現実じみたものとして納得させられてしまう、その技量により、読者は怪異の正体をより恐ろしいものに思われてしまうのだ。
 春。新しい場所で生活を始める方もいることだろう。住処を探す前に、ぜひこの話を読んでみてほしい。
 怪異は、どこにいるのか分からないのだから。
 
 
 
 

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異喪裏-イモリ-