ほら!流れ星、見に行こうよ!

桝屋千夏

今夜、あなたにも流れ星が見えますように♪

 さぁ!窓の外を見てください!

 今夜、あなたにもきっと流れ星が見えますように♪ ──作者より




「───あ!流れ星だ!」


 少女はとっさに夜空を指差す。


「え、どこどこ?」

「もー遅いって!」

「えー、ずるいー」

「へへー!もう願い事しちゃったもん!」

「なにー!気になるー!」

「やだ、秘密」

「えー!」


 塾の帰り道。


 ハァ~


 吐く息が白く染まる。

 夜空に霞んで消えていく。


 友達と他愛もない会話で盛り上がる少女。

 思春期に、その未熟な片足を踏み入れた少女は、偶然見上げた夜空に、一筋の流れ星を見つけた。

 夜空に霞んで消えていったその後ろ姿を、名残惜しそうに

 自慢げに、誇らしげに。


 冬の夜空に瞬いた一筋の流れ星。


 ハァ~


 吐く息が白く染まる。

 夜空に霞んで消えていく。


 家に帰った少女は普段と変わらない生活を送る。

 全てがあらかじめプログラムされていたかのような平凡な日常。

 遅めの夕飯をとり、お風呂に入り、家族と他愛もない会話をし、気持ちよくなってから目を閉じた。


 そして、翌朝。

 スマホのアラームで目覚める。

 着なれた制服に着替え、家族で朝ごはんを食べ、「いってきます」と駆けていく。

「いってらっしゃい」が遠ざかる。

 普段と変わらない毎日が来る。














 ───はずだった……







 ……仰向けのまま、目覚めた。


 寝ぼけ眼に飛び込む白い空気。

 天井も壁も見えないただの白い空気。

 そこは、どこまでも続く真っ白な空間。


 少女は起き上がろうとする。

 だが、体が動かない。

 体が言うことを聞かない。

 声もでない。

 瞬きもできない。

 呼吸すら定かではない。


 その時、少女の視界に人影が映る。

 少女の眼中にはっきりと映る眩しい光。

 一目でわかる。

 否、一目でわかった。

 人ではない。

 人ではない複数の何かが少女の周りに集まって来る。


 神々しい光を纏った人型の輪郭達。

 銀の鱗粉を撒き散らしながら形づくられる生命体。


 ───キレイ……


 長く伸びた指。

 その不揃いな指が、少女の眼前を右往左往する。


 触らないで!

 嫌だ!嫌だ!やめて!


 少女の叫びは声にすらならず、ただ脳内に響くのみ。


 産まれたばかりの姿を、不揃いな指がぎこちなく撫でていく。

 少女はその時、気付く。

 裸だと、気付く。

 無防備な耳を、

 無防備な首筋を、

 無防備な胸を、

 無防備な乳房を、

 無防備な腋を、

 無防備な臍を、

 執拗にまさぐる指、指、指、指、指。

 無数の指が、少女を求めて跋扈する。


 ───……んんっ……


 快感に悶えることすらできない。

 突如、唸る声に似た金切り声が少女の頭に響く。

 その声に、少女が顔を歪める。

 苦痛と恐怖に顔を歪める。

 次第にその声は、少女にとって穏やかな周波数を捉える。


 アイズヲシタヨ。コッチニ。

 アイズヲシタヨ。アイズヲシタヨ。

 キミガコッチニアイズヲシタヨ。


 合図をした?

 なにそれ!なにもしてない!

 なにもしてないよ!私!

 私は、だけ!

 …………だけ……


 ……、だけ……


 …………、に……




 次第に足が痺れ出す。

 体と足が繋がってないような痺れ。

 何かが、少女の太ももに触れた。

 指ではない別のもの。

 お尻から太ももへ、何かが這って来る。

 未成熟な果実の素肌を、這い上がって、這いつくばって来る。


 ───……気持ちイイ


 気持ち悪い!

 体が動かない!

 声がでない!

 誰か助けて!


 眼前には白い世界と銀色の人影達。

 執拗に女性の肉体を攻め立てる指、指、指、指、指、指、指、指、指、指、指。


 突如、少女は目を見開く!

 這いつくばって来たものが、少女の秘密の領域に、その存在を踏み入れようとする。

 未開拓の女性の部分が、嗚咽をあげるのが感覚で伝わる。


 嫌!来ないで!

 やめて!お願い!

 触らないで!入らないで!


 狭く窮屈な縦に割れた門を抉じ開け、我先にと何かが入ってくる。


 ───……気持ちイイっ


 悪寒がする!

 吐き気がする!

 嫌だ!もうやめて!

 誰にも触らせたことのないのに!

 誰にも舐めさせたことないのに!


 ───……んっ……だめ……


 どんどん入って来る。

 膜をひきちぎり、どんどん入って来る。

 どんどん!どんどん!


 苦しい!

 気持ち悪い!

 お腹が膨れてきてる!

 破裂しそう!破裂しちゃう!



 ───でも、気持ち……んんっ……



 腰が重たい!

 どんどん重たくなってくる!

 息ができない!息ができない!

 どんどん息苦しくなってくる!




 ───痛い!


 どう言っていいのかわからない!

 どう表せばいいのかわからない!



 ───お腹の中が破れていく!


 ビリッ


 ───お腹の中で破れていく!


 ベリッ


 ───お腹の中から破れていく!




 腰も背中も重たい!

 もう耐えられない!

 痛い!苦しい!気持ち悪い!

 息ができない!苦しい!

 死んじゃう!死んじゃうから!死んじゃうってば!



 ───痛いっ


 プチッ プチッ


 ───痛いっ


 プチッ プチッ プチッ


 ───痛いっ


 ビリッ ベリッ ブチッ ブチッ



 お腹が痛い!

 子宮が破れる!

 お臍飛び出しちゃう!

 嫌だ!嫌だ!

 痛い!破裂する!

 痛いよ!助けて!

 助けて!!お母さん!!

 お母さん!!!!









 バンッ









「───あ!流れ星だ!」


 今日もどこかで誰かが夜空を指差す。

 それは、あなたかもしれない……


 明日も平和な一日が訪れますように♪

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ほら!流れ星、見に行こうよ! 桝屋千夏 @anakawakana

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