ep2-コンバーター

スクラップが残った腕を振り上げる、俺は咄嗟に巨大なスパナを横に振り抜いた。 同時にバラバラと音を立てて部品が地面に落ち、スクラップの咆哮が辺りに響いた。

「……っ、そいつを、離せ!」

ガシャガシャと音を立てながらスパナが変形する、今度はニッパーになった。

残った腕は2本、俺は本能のままにスパナを前に突き出す。 バチンと何かが切れる感覚と共にスクラップの腕がダランと垂れ下がり、青年の遺体が地面に落ちた。

無機質なカメラから燃えるような怒りの感情が溢れ出す、今度はニッパーがハンマーに変形し、俺の腕はグイと後ろに引っ張られた。

「死んで……たまるぁぁぁぁああああああ!!!!!!」

ハンマーの動きに振り回されるがままに腕を前に振り抜く、スクラップの頭部が轟音と共に吹き飛んだ。

『まだだ』

頭の中に声が響く、思わずハンマーを構え直し、スクラップと距離を取った。

『奴の頭脳ニューロン炉心リアクターだ、残っている限りは動き続ける』

ハンマーが青色に光り、目の前のスクラップの胴体の一部にターゲットマークのようなものが視えた。

『貫け』

ハンマーがドライバーに形を変え、真っ白な光を放つ。

脚がに引っ張られるように動き始める、普段の俺からすると考えられないスピードだ。

無我夢中でドライバーを前に突き出す、腕が灼かれるように熱い、突き刺した先にも熱を感じる、まるでこのドライバーまで自分の身体の一部になったかのような感覚だ。

『喰え』

頭に響く声に従うようにドライバーを抜き取る、今まで何度か見たパーツ、neuron.A.I.だ。

食えるワケがない、そう理解しているはずなのに口が開く、AIの外殻が崩れ、中に固定されていた鉱石、ニューロンが目の前に飛び出してくる。

喉を硬い物体が通り過ぎていく感覚、その後にドライバーを握った手がギリギリと締め付けられる感覚、足りない、このままでは全身の体力が消耗しきって死んでしまうと本能で感じ取る、それだけの事が一瞬の間で起こり、次に何をすればいいかが頭に浮かんだ。

「喰え!」

さらにドライバーを振り抜き、今度はリアクターを引き摺り出す。

『そうだ、それでいい』

リアクターに突き刺したドライバーから腕に熱い何かが流れ込む、身体中に力が溢れて来る。

リアクターから光が失われ、全身に満ちていた力が一瞬で抜ける。

その場で膝を付いた俺の前で、スクラップがバラバラと崩れてただの機械の塊と化した。

「何……だったんだ……」

手に握っていたものを見ると、巨大なドライバーは消えて小さな筒のようなものだけが残っていた。

「シュウ……おい、シュウ!」

背後から声がして俺の横を何者かが通り過ぎ、倒れている青年へと駆け寄った。

「おいコレ……おい、お前、コレは……何が起きたのか説明しろ! コイツがシングルコアなんかに負けるワケ無いんだ! シュウに何があった!」

男が俺に掴みかかる、痺れるような感覚の影響で上手く言葉が出ない、オロオロしている俺の手に握られている筒を見た男が舌打ちをした。

「参号、お前シュウを見捨てたな?」

何かに操られる感覚、スクラップに向かって走ったあの瞬間に似た感覚だ、口が勝手に動き始めた。

「シュウはこのガキを助けて瀕死の重傷を負った、俺まで巻き添えで死ぬよりはアイツ1人が死んだ方がマシだろう」

「だからお前をシュウに使わせるのは反対だったんだ、お前は人間を部品パーツか何かと勘違いしているからな!」

「勘違い? それはお前もだろう、使っていたのはシュウなんかじゃない、俺だ」

俺の胸ぐらを掴んでいた手に力が入る、足が地面から浮き上がった。

「俺だって惜しかったさ、だがシュウが助ける価値のあると認めたコイツを殺すことは、アイツの想いを蔑ろにすることにならないか?」

フッと手を離され、地面に落とされる。

咳き込みたいところだが俺の身体を操っている何かがそれをさせなかった。

「シュウはこのガキに「シブヤに行け」と言った、意味は分かるな?」

「……そいつを自由にしてやれ」

身体が動かせるようになり、ゲホゲホと咳き込む。

「着いて来い、話は後で詳しく聞かせてもらう」


* * * * *


「馬鹿ばっかりだな、居住区の人間ってのは……説教する気も起きねえよ」

一通り話を聞いた男、四十沢あいざわと名乗った彼がため息をついた。

「ミシマ、お前が持っているそれが何か分かるか?」

「すみません、さっぱり……」

四十沢さんが俺が持っているものと似たようなものを取り出し、強く握ってみせると拳銃のようなものが現れた。

「コンバーター、ニューロンとヒトの神経を繋いでヒトの生体エネルギーを武器に変換する機械だ」

「ニューロン……つまりこれってスクラッ」

『あんなケダモノなんかと一緒にすんな』

頭の中に響く声が俺の言葉を遮る、俺は驚いて椅子から転がり落ちた。

「参号、今は俺とミシマで話してるんだ」

「聞き捨てなんねえだろ、クワトロもなんか言ってやれ」

またあの感覚だ、意思に反して口から出た言葉に、四十沢さんはやれやれといった様子で頭を抱えた。

「一度接続してしまえばコイツが接続を切るまでお前はそこのガラクタと一心同体だ」

「おいクワトロ、誰がガラクタだって?」

四十沢さんの表情が変わる、しゃべり方もどこか気怠げな感じになっている。

「切るのは簡単だが、そうなったらお前は多分死ぬし、そうならなくてもお前はソイツに餌を与え続けなきゃならない」

内側から操られて「喧嘩売ってるのか表出ろ」などと騒ぐ俺を押さえつけながら男が続けた。

「オレと四十沢も同じだ、スクラップどもを狩って、リアクターからエネルギーを喰わなきゃ生きていけない、ミシマと言ったな? お前があの男から受け継いだ力はそういうモノだ」

四十沢さんの表情が元に戻った、同時に俺の全身から力が抜け、身体が元どおり動かせるようになる。

「つまんねえ好奇心で死にかけた代償と思え、せっかくシュウに助けられたんだ、無駄に生きるなよ」

武器を消し、立ち上がった四十沢さんが俺を助け起こした。

「シュウが死んだことはまだ納得していないし、あいつが死んだ原因のお前は気に入らないがそうも言ってられない、参号と接続しているのはお前だからな、これからはシュウの代わりに戦ってもらう」

「戦う?」

「スクラップを狩るんだよ、人間が住んでいる地域に近付く奴を駆除したりスクラップから回収した部品を組み直して売ったり、やることはそれこそある」

四十沢さんが部屋の隅のハンガーラックにかけてあった上着を俺に投げてよこした。

「ようこそ、レストアユニオンへ」

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SCRAP-HUNTER ナトリカシオ @sugar_and_salt

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