おわりに

心震える瞬間のために

 再生の六月と決意を込めてから、長い時間が経った。


 小説に触れる余裕がないほど忙しい日々。


 それは初めて体験する、カクヨムにログインできない期間でもあった。


 遠隔授業で課題に押しつぶされたり、ネットニュースに翻弄されたりして、体も心も疲弊しきっていた。


 以前なら疲れたときこそ創作に打ち込めた。テスト明け、受験勉強の合間のひととき。形にしたい言葉は絶えることがなかった。自分が生み出した物語を読んだり推敲したりする時間は、何よりの幸せだった。


 その日常はコロナ禍で一変した。


 小説が生まれるきっかけは、自分の欲望よりも誰かの呟きの方が大きい。


 会話がめっきり減り、ネタを求めにネット検索をすれば言葉のナイフに傷付く。そんな状況で創作意欲はますます萎んでいった。



 書くこと読むことは、こんなにも辛いものだっけ?


 心の支えとしていたはずの創作をやめても生きられるのなら、自分にとって創作の意味は何だろうか。


 迷いは深まり、やっとのことで掴んだペンをすぐに離してしまう。


 書きたいものも見たい世界も思い浮かばず、一日を乗り切ることで精一杯――






 だったのだ。とある作品に出会うまでは。


 一気に世界観の虜になり、数ヶ月震えなかった心が激しく揺れていた。



 それは、夢中になって創作に打ち込んでいたころ、いつも感じていたものだった。


 私も、誰か一人でも笑顔にさせたい。たくさん泣いた後でも、読んで良かったと出会いを喜ぶ小説を創りたい。その熱意をようやく思い出せた。


 迷いはすっかり晴れていた。


 創作をすることの意味は、物語が大好きだから。味わうだけでは満足できないほど、見たことのない世界観に飢えているから。



 息苦しいほど疲れきっても、その辛さを乗り越えてみようと思える物語を紡ぎたい。

 コロナ前ほど創作の時間は確保できないけれど、やはり自分だけの世界を創らずにはいられなかった。


 これからも創作意欲が湧かなくて迷うことはあるだろう。言葉のナイフを受け止めすぎて悩むこともあるだろう。


 それでも私は、心震える瞬間のためにペンを走らせ続ける。いつか小説家になることを夢見ながら。

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窓は静かに 羽間慧 @hazamakei

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