第八話 彼女の真意
『分かってますよ』俺も表情を変えず、ホルスターから拳銃を抜き、銃口を彼女に向けた。
『近頃の日本じゃ私立探偵でも、この通り拳銃を持っていいことになってます。貴方が撃てば、当然ながら私も撃つ。そうしていい権限もちゃんとある。』
『・・・・お察しの通り、ホワイト氏を撃ったのはこの私です。アメリカに渡ったのも、そしてハキムに近づいて結婚したのも全てはそのためです。』
拳銃を向け合ったまま、話をしている割には互いに落ち着いていた。こんなことが本当にあるんだな。
『戦争が終わってからも、母は何かある度に「あの日」の出来事を話しました。目の前で何の罪もない。非武装のただ飛行機が好きだった3歳の弟が殺されたんです。向こうからしてみれば「勝つためにやったんだ」でおしまいでしょうけど、勝つためなら小さな子供でも殺していいなんて、誰が決めたんでしょう?私は母の痛みや苦しみが嫌になるほど分かりました。』
彼女は何かこみ上げてくるものがあったのだろう。
少しの間流れる涙を抑えるのに懸命で、言葉が出てこなかったようだ。
『あの日、私は夫の拳銃をこっそり持ち出し、ロスに向かいました。
夫には友達に会うからと断っていたのです。ホワイト氏の自宅は夫の伝手を使って突き止めました。何しろ向こうは第二次世界大戦の空の英雄ですからね・・・・調べるのはそんなに難しくはありませんでした。私は拳銃を携えて、探し出した家に向かいました』
ホワイト氏の家に着くと、彼は黙ってドアを開けてくれた。
そして彼女が向けた銃口に、殆ど、いやまったく抵抗するそぶりを見せなかったという。
まるで撃たれるのを覚悟していたかのように・・・・
俺はその話を聞き終わると、ポケットから一冊のノートを取り出し、片手で彼女に手渡した。
そう、俺がホワイト氏の息子から渡されたものである。
そこには彼の思いが書き綴られていた。
”1944年のあの日、私は関東近辺のある都市への攻撃に出撃した。攻撃は無事に終えた私は、「カワゴエ」という小さな町の上空を通りかかった。河原に人間がいた。三人の子供だ。一人が私に向かって手を振っている。私は撃った。殺すつもりはなかったが、相手はどうせ日本人だ。当時の私はそんな風にしか考えていなかった。しかし、他の二人の子供が、飛び去ろうとした私に向けた目は未だに忘れない・・・・”
彼女は拳銃を落とした。俺は銃口をつきつけたまま、九四式を拾い上げ、弾丸を抜いた。
『私の仕事はこれで完了です。貴方についてはどうこうする権利はありません』俺は低い声で言った。声が少しばかり上ずってしまったのは何故だろう。
後になって俺はハキム氏に事情を話し、拳銃を提供して貰った。事件はこれで解決とはいかないが、少なくとも蹴りが付いたことだけは確かである。
真理からはそれから暫く経って、手ずから探偵料をキャッシュでを渡された。
『有難う』とは言ってくれたが、世辞にも嬉しそうではなかった。当たり前だろう。
終わり
*)この物語はフィクションであります。登場人物、場所、その他については作者の想像の産物であります。
鋼の亡霊 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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